40 / 75
Ⅱ.有輝
10.
しおりを挟む
「なんか、ご機嫌だな、有輝」
慎弥さんの店に寄ると、あっさり見破られた。
「最近、よく眠れる」
あかりがそばにいてくれたら、俺は薬を使わなくてもよくなるんじゃないだろうか。
「そうか」
相変わらず淡々としているのに、慎弥さんが俺を認めてくれたような気がした。
図書館に行くと、いつも、まるで俺を待っていてくれるかのようにあかりがそこにいて、俺は当然のようにあかりの隣で幸せな眠りにつく。
あかりが俺を受け入れてくれたから。
俺から逃げないでいてくれるから。
俺は忘れていたんだ。
自分がどんなに穢れているか。
『…かわいそうに。お前が近づいたら、不幸になる』
近づいちゃいけないって分かっていたはずのに。
心地良すぎて、あかりの手を離せなかったんだ。
でもそれは、やはり、許されることじゃなかった。
その日、いつもの席にあかりの姿が見えなくて、嫌な予感がした。
じわじわとおぞましさがせり上がってくるような感覚。
机の上に、読みかけの本。
イスの脇に、あかりのカバン。
あかりが図書室にいたのは間違いない。
焦燥感に駆られながら、図書室探し回り、ほどなくして書庫の物音に気付いた。
「おい、早くして、俺にもやらせろよ」
3人がかりであかりを押さえつけてる奴らの姿を見て、恐怖にひきつったあかりの顔を見て、俺は簡単に壊れた。
あかりにのしかかっている奴らを引き離しながら、後悔で、胸が軋む。
分かっていたのに。
近づいちゃいけないって、ちゃんと分かっていたのに。
自分の欲望だけで近づいた結果がこれだ。
あかりが泣いている。
誰かを殴るよりも殴られる方がはるかにましだと思った。
もう二度と、誰も殴らないと誓った。
それなのに、俺は、何一つ守れない。
男たちが立ち去って、書庫に残されたあかりを見ると、うずくまって震えていた。
衣類に乱暴の跡が見えて、そんな権利もないのに怒りと悲しみの渦に飲み込まれそうになる。
怖がらせるかもしれないけど、震えて泣いているあかりを慰めたかった。
制服のブレザーで包むと、あかりが顔を上げて俺を見た。
涙に濡れた目が、切れるくらい噛みしめられた唇が、痛々しくて、
…守りたい。
湧き上がる感情の強さに自分でも驚いた。
衝動のまま、あかりに手を伸ばす。
俺の腕の中で、あかりを守ることができたら。
「…怖い?」
あかりの瞳に俺が映る。
震えているのに、泣いているのに、あかりは首を横に振った。
「…ごめん」
止められなかった。
あかりを引き寄せて胸に抱いた。強く抱きしめた。
ぴったり俺の腕の中に納まるあかりを離したくなかった。
慎弥さんの店に寄ると、あっさり見破られた。
「最近、よく眠れる」
あかりがそばにいてくれたら、俺は薬を使わなくてもよくなるんじゃないだろうか。
「そうか」
相変わらず淡々としているのに、慎弥さんが俺を認めてくれたような気がした。
図書館に行くと、いつも、まるで俺を待っていてくれるかのようにあかりがそこにいて、俺は当然のようにあかりの隣で幸せな眠りにつく。
あかりが俺を受け入れてくれたから。
俺から逃げないでいてくれるから。
俺は忘れていたんだ。
自分がどんなに穢れているか。
『…かわいそうに。お前が近づいたら、不幸になる』
近づいちゃいけないって分かっていたはずのに。
心地良すぎて、あかりの手を離せなかったんだ。
でもそれは、やはり、許されることじゃなかった。
その日、いつもの席にあかりの姿が見えなくて、嫌な予感がした。
じわじわとおぞましさがせり上がってくるような感覚。
机の上に、読みかけの本。
イスの脇に、あかりのカバン。
あかりが図書室にいたのは間違いない。
焦燥感に駆られながら、図書室探し回り、ほどなくして書庫の物音に気付いた。
「おい、早くして、俺にもやらせろよ」
3人がかりであかりを押さえつけてる奴らの姿を見て、恐怖にひきつったあかりの顔を見て、俺は簡単に壊れた。
あかりにのしかかっている奴らを引き離しながら、後悔で、胸が軋む。
分かっていたのに。
近づいちゃいけないって、ちゃんと分かっていたのに。
自分の欲望だけで近づいた結果がこれだ。
あかりが泣いている。
誰かを殴るよりも殴られる方がはるかにましだと思った。
もう二度と、誰も殴らないと誓った。
それなのに、俺は、何一つ守れない。
男たちが立ち去って、書庫に残されたあかりを見ると、うずくまって震えていた。
衣類に乱暴の跡が見えて、そんな権利もないのに怒りと悲しみの渦に飲み込まれそうになる。
怖がらせるかもしれないけど、震えて泣いているあかりを慰めたかった。
制服のブレザーで包むと、あかりが顔を上げて俺を見た。
涙に濡れた目が、切れるくらい噛みしめられた唇が、痛々しくて、
…守りたい。
湧き上がる感情の強さに自分でも驚いた。
衝動のまま、あかりに手を伸ばす。
俺の腕の中で、あかりを守ることができたら。
「…怖い?」
あかりの瞳に俺が映る。
震えているのに、泣いているのに、あかりは首を横に振った。
「…ごめん」
止められなかった。
あかりを引き寄せて胸に抱いた。強く抱きしめた。
ぴったり俺の腕の中に納まるあかりを離したくなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~
ちひろ
青春
おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
間隙のヒポクライシス
ぼを
青春
「スキルが発現したら死ぬ」
自分に与えられたスキルと、それによって訪れる確実な死の狭間で揺れ動く高校生たちの切ない生き様を描く、青春SFファンタジー群像劇。「人の死とは、どう定義されるのか」を紐解いていきます。
■こだわりポイント
・全編セリフで構成されていますが、なぜセリフしかないのか、は物語の中で伏線回収されます
・びっくりするような伏線を沢山はりめぐらしております
・普通のラノベや物語小説では到底描かれないような「人の死」の種類を描いています
・様々なスキルや事象を、SFの観点から詳細に説明しています。理解できなくても問題ありませんが、理解できるとより楽しいです
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる