【完結】君への祈りが届くとき

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Ⅱ.有輝

07.

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「お前なら、すぐにうまくいきそうだな」

「…全然。俺のこと、見てもくれない」

モップを持つ手に知らず力が入っていた。
アイツには、彼氏がいるし、俺が近づいたらいけないことくらい分かっている。

「…やっと、会えたか」

器用にグラスを拭きながら言った慎弥さんの声が包み込むように響いた。

胸の奥のずっと深いところで、小さな灯りが揺れる。
あんなにさまよっても見つけられなかったのに、今、確かに揺れている。

「俺、その子に起こして欲しいんだ」

調子にのって、やばい願望まで口にしてしまった。
笑われるかと思ったけど、

「そうか」

慎弥さんの落ち着いた口調は変わらず、ほんの少し、嬉しそうだった。

客はみんな、こんな気持ちなんだろう。
自分の日常とは少し離れたここで、幾重にも重ねた鎧をつかの間降ろして、息をつく。

あかりが俺を起こしてくれたら、
目を開けるのも罪じゃない気がする。
今日を始めることを、許される気がする。

GW明けに、渡り廊下であかりとすれ違った。
あかりと一緒にいるクラスメイトらしき奴らが、見るともなく俺を見ている。

「有輝くん、早く行こうよ」
「生物の小テストとか、やってられないよね~」

だけど、あかりは俺を見ない。
頑ななまでに、俺を視界に入れない。

すれ違う一瞬、ほんの少し、あかりの眼が泳いだような気がした。

「ねーねー、核酸塩基の名前って覚える必要ある?」
「アデニン、何とか、かんとか??」
「知らないよね~」

女子たちの声が遠ざかる。

あかりは。
困ったように伏せた眼を、わずかに揺らしていた。

もしかしたら。
あかりは俺をとっくに見ているのかもしれない。

それは、俺の浮かれた思い上がりなのか。



放課後の図書室は、薄暗くて人気がない。
湿った本のにおいと、重厚な空気。

図書室にくるのなんて、何年振りだろう。

書架の向こう、窓際の閲覧スペースに、あかりの後ろ姿を見つけた。

あかりが俺を意識して「見ない」なら、逸らされた眼は何を想っているのか。

もう、自分でも止められない引力で、俺はあかりに向かっていた。
汚れた俺が近づいていい相手じゃないことは、分かっている。

だけど。
揺れた瞳の奥を見たい。
どうしても。
あかりの胸のうちを知りたい。

あかりに近づきながら、理性が叫んでいた。

逃げろ。
穢れた俺が近づく前に。早く。早く。

あかりは身じろぎもせずに背を伸ばしたまま座っている。

逃げろ。
穢れた俺が触れる前に。今なら。まだ。

あかりの隣にある椅子を引いても、あかりは俺を振り向かず、
席を立ちもしなかった。
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