【完結】君への祈りが届くとき

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Ⅰ.あかり

22.

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梅雨の晴れ間の日曜日。
一度だけ降りたことのある駅に再び降り立った。

4か月ほど前、高校受験当日。

ほんの小さな。
だけど精一杯の。
抵抗。

規則正しい振動で揺れる電車は、行き先が決まっている。
時々、誰かを乗せたり降ろしたりしながら、
危険を避けて、一定の速度を保つ。
まるで、私の人生そのもの。

電車に揺られながらそんな風に思っていたら、
急に、緊張気味に受験の話をする同級生たちの声が遠くなった。

ふと気づいたらまるで知らない駅で、電車を降りていた。
誰かが私を呼んだかもしれないけれど、
振り向かずにホームを後にした。

早く戻りなさい。
今ならまだ間に合う。

私が私を必死で留めようとする。

だけど…
前を向いて進む。知らない街を歩く。
出勤する会社員。子どもを送る親。開店準備をする人。

商店街を抜けてしばらく進むと、緩やかに流れる川が見えた。
川べりにたたずんで、朝日を浴びて輝く川面を眺めた。

2月末。河原に人の気配は少ない。
土手の上を自転車や行き交う人が足早に通り過ぎる。
もうすぐ、試験が始まる。

受験票を取り出して眺めた。

『1072番 諏訪あかり』

つまらなそうな表情でこちらを見つめ返す写真の私。

わかってる。
つまらない人生にしたのは私。
ワクワクすることも、必死になることも見つけられない。

踏み出す前に言い訳ばかり思いついて、
周りにどう思われるかが怖くて、
何も出来ない。

親にも先生にも怒られた記憶がない。
小学生の頃、女子同士の確執で揉めてから、
友だちとは一定の距離を置いた。

つかず、離れず。
誰にも本当の自分なんて見せない。
周りのみんなに合わせて薄っぺらに笑っていた。

それは、その時代を生きるのに、必要なことだった。

つまらない顔をしている私を、川に捨てた。
受験票は束の間川の中を漂って、下流に消えていく。

見送って、笑ってしまう。
こんな小さなことが精一杯。

試験会場に戻って、今から遅れて受験する。
受験票が無くても、何らか対応してくれる気がする。
ダメなら、二次募集で受け直す。
いずれにしても、人生に大した違いはない。

予想外の事故にあっても、電車は目的地を目指す。
私の人生は、つまらないまま変わらない。

結局、私は、遅刻して受けた受験の成績で、
特進クラスではなく普通クラスに入学した。

あの日、受験票を捨てた川は、変わらず緩やかに流れていた。
晴れた日曜日の昼過ぎだからか、大勢の人がいた。

河原でバーベキューするグループ。
ボール遊びをしたり、土手を滑り降りたり、
水切りをしたりする人々。
網を持って川遊びをする子どもたち。

その中で、橋の欄干にもたれて、見たことのある人が立っていた。
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