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Ⅰ.あかり

18.

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気づいてしまったことがある。
鳴瀬が電話をくれる1:43は、澄川さんが亡くなった時刻だ。

彼が紡ぐ言葉を受け取っていいのは、私じゃない。

それでも。

私はこの時間を守りたい。
この時間を守れるなら。
私でなくても構わない。

鳴瀬が、高いビルの最上階で、ベランダの手すりに後ろ向きに座り、
足をブラブラさせている。
言うべき言葉を考えて考えて考えて。
そっと、告げる。
「はずれ」
私が発した一言の間違いで、
鳴瀬が冷たくつぶやいて、背中から暗い闇の向こうに落ちていく。
どんなに手を伸ばしても、もう、鳴瀬に届かない…

「あーちゃん、大丈夫?」
夜中にうなされていたらしく、隣の部屋からミオリが様子を見に来てくれた。
目をこすると、涙の跡があった。

…夢。

相槌以外の声を出さない。
大きな物音を立てない。
だから、どうか気づかないで。
行かないで。



鳴瀬が円香さんのところに行ってしまうかもしれない。

明日、スマホが震えなくなったら。
私が何かを、間違えたら。

芽生えた不安に居ても立ってもいられなくなって、
電話をかけた。

正しいことかどうかわからない。
だけど。
鳴瀬の思う電話の相手が、彼女なら。

「やぁ」

待ち合わせ場所に現れた真輝さんは、一部の隙もないほど、完璧な佇まいで、私に笑いかけた。

「あかりちゃんが俺を呼び出す理由は一つ。
…何を知りたい? 」

駅前のカフェで、スマートに注文を済ませると、
真輝さんは卒のない微笑みを浮かべた。
真輝さんの完璧な笑顔は、時々怖くて、ひどくさみしい。
もしかしたら、私もずっと、あんな顔で笑っているんだろうか。

「澄川、円香さん、のこと…」

声が震える。
本当は知るのが、少し怖い。

「ああ」

真輝さんはあっさりうなずいて、ちょうど届けられたコーヒーを飲んだ。

「あの子のお腹いたのは、誰の子か?
 …有輝の子か?」

真輝さんが、うろたえる私を見て楽しそうに口の端を上げる。

「…マスコミには隠されたけど、彼女は、遺書を残している。
そこに、家庭で性的虐待を受けていたことが記されていた」

大きな力で身体を締め付けられたような、息苦しさを感じた。
ネットに掲載されていたのは、鳴瀬の写真だけじやなかった。
セーラー服を着て、前髪をピンで留めて、大きな瞳をまっすぐに前に向け、控えめに微笑む少女。
その眼には、希望にあふれた未来が映っていたはずなのに。

図書室で、どんなに抵抗しても敵わなかった絶対的な力を思い出す。
容赦なく、捻じ曲げられる心。

「お腹の子は、義理の父親の子だ。父親も認めている」
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