【完結】君への祈りが届くとき

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Ⅰ.あかり

01.

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「諏訪さん。深山先輩が呼んでる」

明学館高校1年A組。
教室のドア前にたたずむのは、3年の深山聖人みやままさと
呼びに来てくれた木根さんは頬を赤く染めているし、教室にいる人は、男女問わずドアの方をチラチラ見ている。
聖人が注目されるのは中学の時から変わらない。

「ありがとう」

木根さんにお礼を言って廊下に出る。

「あかり。今日は、一緒に帰れる?」

聖人が惜しげもなく甘い微笑みを披露する。
成績優秀で運動神経抜群、すらりと背が高く整った容姿に甘いマスク。
所属する男子バスケットボール部からスポーツ推薦をもらったにもかかわらず、受験で特進クラスに入学。
1年の時からレギュラーで、チームを全国大会に導く活躍をしながら、生徒会役員もこなす聖人は、入学してまだ1月の1年生の間でも知らない人はいない。

「…うん」

私がうなずくと、聖人は私の頭に手をのせて優しくなでる。
なんとなく、教室内がざわめいたのがわかる。

「じゃあ、放課後。図書室で待ってて」

聖人が立ち去ってから教室に戻ると、即座に興味津々な女子に囲まれた。

「諏訪さん、て、深山先輩と付き合ってるの?」

クラス中が耳をそばだてている。

「…まぁ」

肯定すると、クラス内が一気にどよめく。

「きゃあああ~」
「いい~!深山先輩!!うらやましすぎるぅ~~」

うっとりと盛り上がる女子。

「かっこいいし」
「優しいし」
「スタイル良くて」
「頭も良くて」
「めちゃめちゃ爽やかで」
「完璧~~~」

…見えないハートが四方に飛び散る。

「あのかっこよさはもはや罪~」
「そして、甘いぃ~っ」
「見た?さりげに頭ポンポンて」
「諏訪さんを見る目、とろけそうだったよね」
「はぅぅぅ。あんな目で見られた~い」

クラス一丸での盛り上がりぶりに若干おののく。

「諏訪さん。いいなぁ~~~」

女子の大合唱に、なぜか男子までうなずく。

「あ、はは…」

まぁ、確かに聖人は非の打ち所がない。

「でもぉ、諏訪さんならわかるかも~」
「太刀打ちできないっていうかぁ」
「きれいだし~」
「頭もいいし~」
「清楚っていうかぁ」
「優等生っていうかぁ」

思わせぶりにため息をつく女子たち。

「お似合いだよ~~~」

すっかり息の合ったところを見せる女子に、またなぜか男子がうなずく。

「はは、…どうも」

ひきつり笑いで答える私は、本当は。

全然、聖人にふさわしくない。

聖人は、同じ中学出身だけど、中学時代から大人気だった。
かっこよくて優しくて人望があってバスケ部のエースで、
私を含めて下級生はみんな彼に憧れていた。

そんな人に告白されて、嬉しくない訳がない。

聖人が卒業する日。
「大事にする。高校で待ってるから」
そう言って、女子集団から死守した第二ボタンを渡してくれた後、うかがうように私をそっと抱きしめた。

断る理由がなかった。

聖人は優しい。
いつも迎えに来てくれるし、電話もメールもマメにしてくれる。
練習が休みの日には、様々な場所に連れ出してくれるし、忙しい練習の合間を縫ってバイトして、プレゼントもくれる。

聖人は私を大事にしてくれる。
それなのに。

私は、浮気している。
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