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「…のい!?」
泣き腫らした目と鼻血まみれの顔で、でも気分ははつらつと和泉さんをお迎えしに行ったら、ものすごく絶妙な顔をされた。
「えーっと、…大丈夫か?」
和泉さんが痛々しそうに目を細めて、私の顔にそっと手を伸ばす。
大きい手。温かい手。優しい手。
大好きです。…だけど。
「和泉さん、私。…イギリスに行ってきます」
和泉さんの目を見つめた。
漆黒の瞳が揺れている。
夜の海より深い漆黒の瞳が静かな光を放って私を包む。
和泉さんの揺れる瞳は慈愛の色を浮かべていた。
「…そうか。分かった」
ほんの少しだけ、寂しそうな影を浮かべて、けれど、とても深い愛情に満ちた顔をして、私の頭をゆっくり撫でてくれた。
大好きです。和泉さん。
だけど。
どうしても譲れないものがあるから、その手はとれない…
和泉さんの深い愛情に満ちた顔を見ていたら、なんか込み上げてくるものがあって、限りなくブサイク極まりない顔で唇を噛みしめた。
「…のい」
ふっと和泉さんの香りに包まれた。
「…大丈夫だよ。お前にそんな顔をさせたかったわけじゃないから」
ぎりぎり触れない近さで、和泉さんの腕が私を包み込んだ。
大きくて力強くて頼りになる。
限りなく優しくて温かい腕の中。
「レオさんが、…共同研究に誘ってくれたんだ」
和泉さんの落ち着いた声が頭の上から聞こえた。
「俺もイギリスに行こうかな」
…うん。…ん?
それってどうなんだ?
「…今頃、寂しがってると思うよ」
和泉さんを見上げたら、なんか、任せろみたいな顔でにっこり笑って、私の頭をぽんぽん撫でた。
手術が終わり、別室に移されていた璃乙くんを和泉さんと一緒にお見舞いに行った。
無事、爆弾の摘出に成功したらしい。
やるな、世界のDr.結城!
「璃乙くん、バナナの早食い頑張って来るからね!」
璃乙くんは点滴をして頭に包帯を巻き、ベッドに横たわっているものの、表情は明るく、
「男の子」
その聡明な瞳でじっと私を見て開口一番そうつぶやくと、
「お兄ちゃん似で良かったね」
ふっと年相応の可愛いらしい笑顔を見せた。
…何の話だし。
「名前はモンチチがいいと思う。もんきちとモンチッチをかけて」
「…お前のセンス、微妙じゃないか」
「イズミくんは次のモン子に期待しなよ」
「…いや、モン子はないだろう」
麻雪さんが少し離れたところで、璃乙くんと和泉さんのやり取りを微笑ましそうに見ている。
あれから、麻雪さんは片時も璃乙くんのそばを離れずにいるらしい。
璃乙くんの笑顔が守られることを心の底から願ってる。
和泉さんのその思いは、麻雪さんにも届いていると信じてる。
和泉さんが無事退院し、私は急きょパスポートを申請しに走った。
実は私は海外に行ったことがない。
飛行機にも数えるほどしか乗ったことがない。
「きゃあ~、ついに愛の逃避行」
「おみやげは某ブランドの新作バックでよろしく」
ミオちゃんとサリちゃんにいつものテンションで見送られ、
「案ずるな、本宮。あんたの仕事はきっちり残しておく」
物分かりがいい上司と無言のエナジードリンク1ダースに後押しされ、
「…のい。バナナはイギリスでも買えたんじゃないかな」
ようやく手に入れたパスポートとバナナを背負って、ロンドン・ヒースロー空港に向けて日本を飛び立った。
待ってて、奏くん!
まだ冷やしちゃダメだから‼
泣き腫らした目と鼻血まみれの顔で、でも気分ははつらつと和泉さんをお迎えしに行ったら、ものすごく絶妙な顔をされた。
「えーっと、…大丈夫か?」
和泉さんが痛々しそうに目を細めて、私の顔にそっと手を伸ばす。
大きい手。温かい手。優しい手。
大好きです。…だけど。
「和泉さん、私。…イギリスに行ってきます」
和泉さんの目を見つめた。
漆黒の瞳が揺れている。
夜の海より深い漆黒の瞳が静かな光を放って私を包む。
和泉さんの揺れる瞳は慈愛の色を浮かべていた。
「…そうか。分かった」
ほんの少しだけ、寂しそうな影を浮かべて、けれど、とても深い愛情に満ちた顔をして、私の頭をゆっくり撫でてくれた。
大好きです。和泉さん。
だけど。
どうしても譲れないものがあるから、その手はとれない…
和泉さんの深い愛情に満ちた顔を見ていたら、なんか込み上げてくるものがあって、限りなくブサイク極まりない顔で唇を噛みしめた。
「…のい」
ふっと和泉さんの香りに包まれた。
「…大丈夫だよ。お前にそんな顔をさせたかったわけじゃないから」
ぎりぎり触れない近さで、和泉さんの腕が私を包み込んだ。
大きくて力強くて頼りになる。
限りなく優しくて温かい腕の中。
「レオさんが、…共同研究に誘ってくれたんだ」
和泉さんの落ち着いた声が頭の上から聞こえた。
「俺もイギリスに行こうかな」
…うん。…ん?
それってどうなんだ?
「…今頃、寂しがってると思うよ」
和泉さんを見上げたら、なんか、任せろみたいな顔でにっこり笑って、私の頭をぽんぽん撫でた。
手術が終わり、別室に移されていた璃乙くんを和泉さんと一緒にお見舞いに行った。
無事、爆弾の摘出に成功したらしい。
やるな、世界のDr.結城!
「璃乙くん、バナナの早食い頑張って来るからね!」
璃乙くんは点滴をして頭に包帯を巻き、ベッドに横たわっているものの、表情は明るく、
「男の子」
その聡明な瞳でじっと私を見て開口一番そうつぶやくと、
「お兄ちゃん似で良かったね」
ふっと年相応の可愛いらしい笑顔を見せた。
…何の話だし。
「名前はモンチチがいいと思う。もんきちとモンチッチをかけて」
「…お前のセンス、微妙じゃないか」
「イズミくんは次のモン子に期待しなよ」
「…いや、モン子はないだろう」
麻雪さんが少し離れたところで、璃乙くんと和泉さんのやり取りを微笑ましそうに見ている。
あれから、麻雪さんは片時も璃乙くんのそばを離れずにいるらしい。
璃乙くんの笑顔が守られることを心の底から願ってる。
和泉さんのその思いは、麻雪さんにも届いていると信じてる。
和泉さんが無事退院し、私は急きょパスポートを申請しに走った。
実は私は海外に行ったことがない。
飛行機にも数えるほどしか乗ったことがない。
「きゃあ~、ついに愛の逃避行」
「おみやげは某ブランドの新作バックでよろしく」
ミオちゃんとサリちゃんにいつものテンションで見送られ、
「案ずるな、本宮。あんたの仕事はきっちり残しておく」
物分かりがいい上司と無言のエナジードリンク1ダースに後押しされ、
「…のい。バナナはイギリスでも買えたんじゃないかな」
ようやく手に入れたパスポートとバナナを背負って、ロンドン・ヒースロー空港に向けて日本を飛び立った。
待ってて、奏くん!
まだ冷やしちゃダメだから‼
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