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blue.88
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「はああ。それでプリンス奏は和泉王子を捜す旅に出た、と」
「いやあ、素敵。黒魔王を退治して姫の元に帰ってくる、と」
お久しぶりの社食です。
本日のAランチ定食は、銀だら西京焼きです。うましっ
和泉さんが辞めてしまうという半端ないダメージを被った我が東島建設(株)は、どことなく活気がなかった。
研究所の所長はショックで寝込んでるらしいし、経営陣も和泉さんの穴を埋める人材を探すのに躍起になっているっぽい。
「姫じゃなくてサルでしょうよ」
和泉さんの代わりなんて。
誰にもできないだろうけど。
「ああ、あれね。青い鳥は実は自分のすぐそばにいたっていう」
「猿の惑星は実は未来の地球だったっていう」
しかしながら、ミオちゃんとサリちゃんの容赦なさは本日も健在。
「奏くんの青い鳥は、お父さんのVRだったんだって」
あの日見せてくれたあおくんの魔法は、お父さんが仕事で作っていたVR技術を持ち出したものだったらしい。
実は和泉さんは奏くんのお父さんに影響を受けてVR開発に携わるようになったって言うから、和泉さんのデモンストレーションを見てあおくんだって思ったのも無理はない、よね。
「いやいや、それはダメでしょう。初恋の人間違えるとか」
「そうそう。それは完全にアウトでしょう」
ミオちゃんとサリちゃんに冷たく突き放されて、銀だらがしょっぱい。
「反省したら和泉さんはこっちに回してね」
「そうよそうよ、早く秋の代わりを連れてきて」
「結局そこか、サリ」
「背に腹は代えられぬ」
ミオちゃんとサリちゃんがいつも通りで安心する。
奏くん、ウィンエンターテイメントにお父さんも連れて行くって言ってた。
私も行きたいって言ったら「足手まといだから止めろ」って言われたんだけど。
…大丈夫だよね?
「本宮、お帰り。あんたが作った和泉さんの記事、刊行されたよ」
お昼休みを終えて広報課に戻ると、机の上に社内広報が置かれていた。
「よく出来てるよ」
橙子さんが私の頭をわしわしとかき回して誉めてくれた。
表紙は勿論、和泉さんの憂いを含んだ美顔。
『特集 和泉 碧 Ao Izumi
バーチャルリアリティー界の新星。
今最も話題の若き天才エンジニア。』
和泉さん。
和泉さんが見せてくれたのも、私にとってはやっぱり幸せの青い鳥だった。
今、どこで何をしているんだろう。
今朝出社前に和泉さんのマンションに寄ってみたけど、
応答がなくて、誰もいないみたいだった。
璃乙くんも一緒なんだろうか。
元気でいてくれるならそれだけでいいとも思うけど、
でも、やっぱり、会いたい。
『離すの惜しいな』
こめかみに触れた和泉さんの熱い唇。
和泉さんがいないと寂しい。
「本宮さん、先日はありがとうございました」
定時になると、退社準備を整えた木下さんがやってきた。
「碧さん、見つかりそうですか?」
「うん、…うーん。どうかなぁ…」
奏くんが絶対連れてきてくれるって言ったから、見つけてくれると思うんだけど。
「そういえば、木下さん。ウィンエンターテイメントの地下って行ったことありますか?」
某国の軍事設備があるはずだけど、何も見つからないって言ってた。
「…ありますけど、普通に研究室があるだけですよ」
「絶対立ち入り禁止の部屋とかは?」
「特にありませんでしたけど。…対人兵器の開発研究をしてたって報道を見て、私もびっくりしました。そんな設備、なかったと思うんですよね」
本当は隠し部屋みたいなのがあって、でもVRのバリアを張っていて表向きは何にもないみたいに見えるってことなのかな。
完全に現実との区別がつかない、って、…VRってそこまで進化してるのか。
久々に残業して、森先輩に安定のエナジードリンクを頂いて、忙しそうな橙子さんを見送って、フロアが閑散として、ビルの外が真っ暗になっても、…
奏くんから何の連絡もなかった。
「いやあ、素敵。黒魔王を退治して姫の元に帰ってくる、と」
お久しぶりの社食です。
本日のAランチ定食は、銀だら西京焼きです。うましっ
和泉さんが辞めてしまうという半端ないダメージを被った我が東島建設(株)は、どことなく活気がなかった。
研究所の所長はショックで寝込んでるらしいし、経営陣も和泉さんの穴を埋める人材を探すのに躍起になっているっぽい。
「姫じゃなくてサルでしょうよ」
和泉さんの代わりなんて。
誰にもできないだろうけど。
「ああ、あれね。青い鳥は実は自分のすぐそばにいたっていう」
「猿の惑星は実は未来の地球だったっていう」
しかしながら、ミオちゃんとサリちゃんの容赦なさは本日も健在。
「奏くんの青い鳥は、お父さんのVRだったんだって」
あの日見せてくれたあおくんの魔法は、お父さんが仕事で作っていたVR技術を持ち出したものだったらしい。
実は和泉さんは奏くんのお父さんに影響を受けてVR開発に携わるようになったって言うから、和泉さんのデモンストレーションを見てあおくんだって思ったのも無理はない、よね。
「いやいや、それはダメでしょう。初恋の人間違えるとか」
「そうそう。それは完全にアウトでしょう」
ミオちゃんとサリちゃんに冷たく突き放されて、銀だらがしょっぱい。
「反省したら和泉さんはこっちに回してね」
「そうよそうよ、早く秋の代わりを連れてきて」
「結局そこか、サリ」
「背に腹は代えられぬ」
ミオちゃんとサリちゃんがいつも通りで安心する。
奏くん、ウィンエンターテイメントにお父さんも連れて行くって言ってた。
私も行きたいって言ったら「足手まといだから止めろ」って言われたんだけど。
…大丈夫だよね?
「本宮、お帰り。あんたが作った和泉さんの記事、刊行されたよ」
お昼休みを終えて広報課に戻ると、机の上に社内広報が置かれていた。
「よく出来てるよ」
橙子さんが私の頭をわしわしとかき回して誉めてくれた。
表紙は勿論、和泉さんの憂いを含んだ美顔。
『特集 和泉 碧 Ao Izumi
バーチャルリアリティー界の新星。
今最も話題の若き天才エンジニア。』
和泉さん。
和泉さんが見せてくれたのも、私にとってはやっぱり幸せの青い鳥だった。
今、どこで何をしているんだろう。
今朝出社前に和泉さんのマンションに寄ってみたけど、
応答がなくて、誰もいないみたいだった。
璃乙くんも一緒なんだろうか。
元気でいてくれるならそれだけでいいとも思うけど、
でも、やっぱり、会いたい。
『離すの惜しいな』
こめかみに触れた和泉さんの熱い唇。
和泉さんがいないと寂しい。
「本宮さん、先日はありがとうございました」
定時になると、退社準備を整えた木下さんがやってきた。
「碧さん、見つかりそうですか?」
「うん、…うーん。どうかなぁ…」
奏くんが絶対連れてきてくれるって言ったから、見つけてくれると思うんだけど。
「そういえば、木下さん。ウィンエンターテイメントの地下って行ったことありますか?」
某国の軍事設備があるはずだけど、何も見つからないって言ってた。
「…ありますけど、普通に研究室があるだけですよ」
「絶対立ち入り禁止の部屋とかは?」
「特にありませんでしたけど。…対人兵器の開発研究をしてたって報道を見て、私もびっくりしました。そんな設備、なかったと思うんですよね」
本当は隠し部屋みたいなのがあって、でもVRのバリアを張っていて表向きは何にもないみたいに見えるってことなのかな。
完全に現実との区別がつかない、って、…VRってそこまで進化してるのか。
久々に残業して、森先輩に安定のエナジードリンクを頂いて、忙しそうな橙子さんを見送って、フロアが閑散として、ビルの外が真っ暗になっても、…
奏くんから何の連絡もなかった。
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