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blue.79

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「あの女だ」
「やれっ!!」

ナイフを持った谷口がこっちを見て、横尾の注意も私に向いた時、
奏くんが足を蹴り上げて谷口の顔面を破壊し、
谷口は後ろ向きに吹っ飛んで岩に激しく衝突するとうめき声をあげて動かなくなった。

「ううう、…」

倒れた谷口の手からナイフが落ちる。

「わあああああ―――――っ!」

それを見た横尾が闇雲に腕を振り回して奏くんにつかみかかったけれど、
奏くんが背負い投げて横尾を地面に叩きつけた。

「くっ、…うおっ!!」

低くうめいて起き上がりかけた横尾を奏くんが蹴り飛ばすと、横ざまに転がった横尾はそのままうつぶせに倒れ込んで動きを止めた。

奏くんが苦しそうに肩で息をする。
頭に巻かれた包帯に血の染みが広がっているのが見えた。

「奏くん、…」

奏くんが胸を押さえながら動き、ナイフを崖の更に下まで蹴り落とした。

「のい、…」

奏くんは私に向き直ると駆け寄って、息が出来ないくらい強くその胸に抱きしめた。

「…バカ」

奏くんの鼓動。奏くんの匂い。奏くんの温かさ。

「動くなって言ったのに」

奏くんの吐息。奏くんの声。奏くんの腕の中。

必死だった腕から力が抜けて、強く握りしめていた手から石が落ちた。
緊張の糸が切れて後から後から涙がこぼれ、奏くんの上着を濡らした。

「お前、…やっぱり和泉がいい?」

奏くんの腕の力が緩んで、地球色の澄んだ美しい瞳が私をのぞき込む。

「和泉じゃなきゃダメか?」

きれいな顔が、整った鼻が、滑らかな肌が触れそうに近い。
涙の膜の向こうで、奏くんの瞳が私を映して切なく揺れる。

私。奏くんに言いたいことがあったんだ。
ちゃんと。素直に。伝えられなくなる前に。

「…奏くんが好き」

言葉と一緒に心が溢れた。心が全部こぼれ落ちた。

「奏くんじゃなきゃ、嫌だ」

言い終わらないうちに、奏くんが唇を塞いだ。

柔らかい唇が優しく触れる。
確かめるように。確かめ合うように。

それから。

奏くんの甘い舌が奥深くまで私をいっぱいにした。

身体が全部蜂蜜になって甘い海の中を漂って
快感に震えて揺られて頼りなく溺れる。 

「奏くん。溶けちゃう…」

息が切れて、目を開けると、
心まで全部とろけるような甘い瞳が私だけを映して、

「…溶けろよ」

甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
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