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blue.54
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「お客さん、大丈夫ですか。着きましたよ」
タクシーの運転手さんが、後部座席のドアを開けて、
反応しない私の肩に手をかけて揺さぶっていた。
「あ、…」
歯の根が合わない。
「顔色、悪いですよ」
心配そうにのぞき込む運転手さんに何とか首を振ると、代金を払ってタクシーを降りた。
夜明け前。
闇の中に浮かぶ病院の明かりに救いを求めた。
この先に続く現実が怖い。
『失くしてから気づいても遅いんだからね』
どうしよう。
受付で動転しながら問いかけた私を病院の職員さんは丁寧に案内してくれた。
廊下を歩く自分の足がおぼつかない。
どうしよう。
奏くんがいなくなったら。
「こちらでお待ちください」
静かな病院の無機質な通路の奥に『手術中』の赤いランプが灯った部屋があり、手前に置かれた黒いベンチに秋くんが座っていた。
「…あ、…あきく、…」
震えたかすれ声は自分のものじゃないみたいで、秋くんの顔を見たら全身に震えが戻って膝ががくがくした。
「…大丈夫。奏くんは絶対大丈夫」
立ち上がった秋くんが私を支えて、ベンチに座らせてくれた。
秋くんの言葉に何度もうなずいた。
泣いたら負けだと思った。
でも。
「これ、…」
秋くんの隣に置かれたベンチの上のハンカチを見たら、胸が詰まった。
ビニール袋に入れられている。
「ああ。…搬送される時、奏くんがつかんでたって、…」
秋くんが差し出してくれたハンカチを手にすると、どうしても涙がにじんだ。
王冠をモチーフにしたブルーのハンカチ。
『じゃあ、…大事にする』
奏くんの甘く震える声。
少しかすれた心に沁みる低音。
秋くんから受け取ったハンカチは、元の色が分からないくらい大量の血に染まっていた。
『俺、お前のこと好きだった』
奏くん。
言い逃げなんてずるいよ。
急に現れて幻みたいに消えるなんて、そんなのずるいよ。
「事故の目撃証言の中に、…」
しばらく沈黙が続いた後で、秋くんが床に目を落としたままポツリとつぶやいた。
「トラックが奏くんの後をつけてたみたいだったっていうのがあったらしい」
「え、…」
涙の膜の向こうから、秋くんの鋭い視線が刺さった。
「事故が故意だった可能性があるってことだ」
タクシーの運転手さんが、後部座席のドアを開けて、
反応しない私の肩に手をかけて揺さぶっていた。
「あ、…」
歯の根が合わない。
「顔色、悪いですよ」
心配そうにのぞき込む運転手さんに何とか首を振ると、代金を払ってタクシーを降りた。
夜明け前。
闇の中に浮かぶ病院の明かりに救いを求めた。
この先に続く現実が怖い。
『失くしてから気づいても遅いんだからね』
どうしよう。
受付で動転しながら問いかけた私を病院の職員さんは丁寧に案内してくれた。
廊下を歩く自分の足がおぼつかない。
どうしよう。
奏くんがいなくなったら。
「こちらでお待ちください」
静かな病院の無機質な通路の奥に『手術中』の赤いランプが灯った部屋があり、手前に置かれた黒いベンチに秋くんが座っていた。
「…あ、…あきく、…」
震えたかすれ声は自分のものじゃないみたいで、秋くんの顔を見たら全身に震えが戻って膝ががくがくした。
「…大丈夫。奏くんは絶対大丈夫」
立ち上がった秋くんが私を支えて、ベンチに座らせてくれた。
秋くんの言葉に何度もうなずいた。
泣いたら負けだと思った。
でも。
「これ、…」
秋くんの隣に置かれたベンチの上のハンカチを見たら、胸が詰まった。
ビニール袋に入れられている。
「ああ。…搬送される時、奏くんがつかんでたって、…」
秋くんが差し出してくれたハンカチを手にすると、どうしても涙がにじんだ。
王冠をモチーフにしたブルーのハンカチ。
『じゃあ、…大事にする』
奏くんの甘く震える声。
少しかすれた心に沁みる低音。
秋くんから受け取ったハンカチは、元の色が分からないくらい大量の血に染まっていた。
『俺、お前のこと好きだった』
奏くん。
言い逃げなんてずるいよ。
急に現れて幻みたいに消えるなんて、そんなのずるいよ。
「事故の目撃証言の中に、…」
しばらく沈黙が続いた後で、秋くんが床に目を落としたままポツリとつぶやいた。
「トラックが奏くんの後をつけてたみたいだったっていうのがあったらしい」
「え、…」
涙の膜の向こうから、秋くんの鋭い視線が刺さった。
「事故が故意だった可能性があるってことだ」
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