上 下
50 / 124

blue.49

しおりを挟む
「のい、キスしたいの?」
「え、…?」

和泉さんに言われて、我に返った。
データ入力していたはずの画面が、…

kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss kiss…

「うわあぁぁっ!」

私は一体、何を。

慌ててデスクの後ろに立って見ている和泉さんから画面をひた隠した。

「やっ、これは、…違います! 違うんです!」

動揺して大声を出してしまい、研究室の皆さんから無言の圧力を感じていると、

「よしよし」

和泉さんになだめられた。

いや――――――っ、恥ずかし過ぎて死ねる。
淫らよ、のい。
昼間っから、淫らよ――――――っ‼︎

「…する?」
「…はい?」

もはや和泉さんに合わせる顔がなく、両手で顔を覆って恐る恐る振り向いたら、
耳に温かくて柔らかな唇の感触と甘い吐息を感じた。

う、うお、うおおおあああああ―――っっ

発火。爆死。昇天。

「おっ、お手洗いいいいい―――っ」

全身の熱が顔から放射されて、血管が沸騰して、敵前逃亡をはかった。

ただでさえ恥ずかしくて死んでたのに、和泉さんたら何てことをっ!

え。キスしたよね?
研究室でキス。

わ―――っ、脳みそ沸く――――――っ
耳が熱い―――――っ

トイレの便座に腰掛けて、一人反省会。

落ち着け、落ち着け。

昨日の夜から、奏くんのキスが頭から離れない。ふとした瞬間に、あの柔らかくて甘くて優しいぬくもりがよみがえってのたうち回りたくなる。

いや、落ち着け。

あれは挨拶って言ってた。
奏くんは帰国子女で、彼女も彼氏もいっぱいいて、簡単にそういうことするから。

うん。和泉さんも『する?』って簡単に、…

そんな簡単に、するものなのかなぁ。

奏くん、あんなこと、みんなにしてるのかぁ…

足をぶらぶらさせると便座にガンガンぶつかって、外から咳払いが聞こえた。

あ。やばい。誰か待ってる。

とりあえず、九九を逆から唱えて精神安定を図ってから、

「お待たせしました―――っ」

無駄に笑顔で個室を開けてみた。

見たことないから違う研究室と思われる白衣姿の女史みたいな人から、めっちゃうさん臭い顔で見られた。

「おかえり、のい。…驚かせて悪かった」

研究室に戻ると、あんまり悪いと思ってない感じの和泉さんが待っていて、大きな手で私の頭を撫でてくれた。

そしてそのまま、くすぐるように耳を撫でる。

「うおっ!?」

軽く膝が崩れた私を支え起こして和泉さんがいたずらっぽい笑顔でニコニコしている。

…和泉さんて、意外と大胆だよね。
なんか寿命が縮むよね。

いや、ダメだよ。秘密のオフィスラブ。
って、オフィスラブでも何でもないけど。

何とか気を取り直してデスクに座る。

今日、麻雪さんがいなくて良かった。
なんか用があるらしくお休みしている。

そう思って、なんだか罪悪感に胸が痛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

私も一応、後宮妃なのですが。

秦朱音|はたあかね
恋愛
女心の分からないポンコツ皇帝 × 幼馴染の後宮妃による中華後宮ラブコメ? 十二歳で後宮入りした翠蘭(すいらん)は、初恋の相手である皇帝・令賢(れいけん)の妃 兼 幼馴染。毎晩のように色んな妃の元を訪れる皇帝だったが、なぜだか翠蘭のことは愛してくれない。それどころか皇帝は、翠蘭に他の妃との恋愛相談をしてくる始末。 惨めになった翠蘭は、後宮を出て皇帝から離れようと考える。しかしそれを知らない皇帝は……! ※初々しい二人のすれ違い初恋のお話です ※10,000字程度の短編 ※他サイトにも掲載予定です ※HOTランキング入りありがとうございます!(37位 2022.11.3)

処理中です...