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blue.45

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「のい、このデータ入力してくれる?」
「疲れたな、ちょっと休憩するか」
「コーヒー、ミルクだけだったよな?」

…どうしよう、和泉さんが甘い。

いや、もしかしたら普通なのかもしれないけど、
ずっとそばにいてくれるし、適当な仕事をくれるし、さっとコーヒー淹れてくれたりするし!

「あ、そうだ。マカロンがあったんだ」

マカロン―――っ!?

和泉さんが箱に詰められた綺麗なマカロンのセットを差し出してくれた。

チョコ、イチゴ、レモン、メロン、ブルーベリー。
カラフルで可愛くて小さくて甘い。

「どれがいい?」

甘い。甘い。甘すぎる。

こ、…これは、2人の関係を周りに疑われたり、…

って、
マカロンをもぐもぐしながら研究室を見回すと、

「あ、和泉さん、ごちそうさまです」
「わー、美味しい。有難うございます」

疑われたりしなかった―――――!
ってか、みんな食べてた―――――!

どころか、

「はい、麻雪」
「ありがとう、イズミくん」

こっちの方が普通に甘かった―――――っ!

なんて言うか、
麻雪さんが和泉さんを見つめる瞳には全幅の信頼が表れている。
好きよりもっと深い愛情、みたいな。

和泉さんも麻雪さんのことすごく優しい目で見る。

『守ってあげなきゃって思ってる』

やっぱり和泉さんは、心を全部、麻雪さんにあげたんだな…

「ぐえっほえほ、…っ!」
「のいちゃん、大丈夫?」

余計なこと考えてたらマカロンがのどに詰まってむせた。
麻雪さんが優しく背中をさすってくれた。

「す、すみません。大丈夫です」

よく考えてみたら、私と和泉さんの間に疑われるような関係は何にもなかった。

ただ、初恋で。あの頃確かに想いは通じ合ってたっていう。
それだけで。…それだけ。

もし事故が和泉さんのせいじゃなかったら。
和泉さんはどうするんだろう。

私は、この降り積もったばかりの雪みたいに儚くて美しい女の人が、何よりも大切にしているものを奪おうとしているのかな。

「そういえば、のいはバイクに乗る?」

唐突に和泉さんが聞いてきて、遠ざかりかけていた麻雪さんが一瞬ピクリと動いたような気がした。

「バイクは、…乗りません」

この前人生で初めてバイクの後ろに乗ったけど。
まあ、そうそう乗らない。

「璃乙が錯乱状態になって急いで帰った日があったんだけど、『ママ』『バイク』『おサル』って繰り返してたからちょっと気になってさ。乗らないならいいんだ」

和泉さんは爽やかに笑って会話を終了したけど。

『ママ』『バイク』『おサル』

それで私に確認するってどうよ。
和泉さんまで 『おサル』=私 ってそういうことですか―――!?

「はは、続きのデータお願いしようかな」

和泉さんは私の無言の訴えを読み取ったようで、なだめるように頭をポンポン優しく撫でながら、さりげなく話題を変えた。

そこは否定しないんか―――い。
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