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blue.2

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「…あの、今何時ですか」

息を切らせながら、前を颯爽と駆けていく橙子さんに聞いてみた。

「9時5分過ぎよ、このうすらトンカチ―――――っ」

…橙子さん。
罵声のセンスが古い。とか言ったら殺される。

濱名橙子さんは、広報課主任で、私の直属の上司。
「橙子さんの言うこと聞いてたら間違いないから」
と、平和を絵に描いたような課長に言わしめたデキる女。
管理職も全幅の信頼を置いているらしい。
もしくは仕事を丸投げしているくさい。

クールビューティーで仕事ができて、なりたい先輩NO.1なんだけど。
いかんせん、怖い。
あの氷のような瞳のレーザービームで撃ち落とされた人は数知れない。
かどうかは定かではない。けど。

これでプライベートで弱かったり甘えただったりしちゃったら、
もうギャップ!萌えまくり!これぞ天下のギャップ萌え!

あー私も萌えられるようなギャップが欲しい―――――っ

「…うえ!」

急に立ち止まった橙子さんを追い越して、なんか勢い余って前にいる人に突っ込んだ。

鼻痛い。鼻血案件勃発。

「…大丈夫か?」

突っ込んだ相手が私の肩に手を置いて私を支え起こすと、腰をかがめてのぞき込み、清潔感漂う水色のハンカチを差し出してくれた。

「あ、はい。…すみません」

ただでさえ低い鼻がこれ以上潰れたら目も当てられん…

なんて、考えている余裕はなかった。

この甘く震える声。
トパーズのような強い瞳。
ふんわり揺れる柔らかそうな髪。
長い手足。均整の取れた身体。

「…か、なで、く…?」

「とりあえず、押さえとけ」

水色のハンカチを鼻に押し当てられた。

ふ、…ふわふわで良い匂いするのに鼻血付けるとか。
あの奏くんと卒業以来の再会なのに遅刻でコケて鼻血とか。

残念すぎて死ねる。

「時間がないので、取材班の紹介は後ほど。とりあえず、取材先に挨拶に行きましょう」

橙子さんがきびきびと動き出し、私が待たせてしまったマスコミ関係の方々が後に続く。

今日は我が社の若き天才技術者を社内外に紹介すべく取材を行う超重要な日なのだ。

なんかその人変わってて、とにかく人を寄せ付けないらしいんだけど、なんの気まぐれか突然OK出したんで、広報課もマスコミ関係者も浮足立っているわけ。

「…後で」

奏くんがこっそり私の耳元で囁いて、そのきれいな手が一瞬私の頭に触れた。
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