81 / 88
番外編. 稜
08.
しおりを挟む
「先生は、時々、煙草の匂いがする、…から」
櫻井悠馬の影を消したくて、ゆいと翔を遊園地に連れ出した。
ベンチでふてくされたようにつぶやいたゆいに、ぎくりとする。
あいつが現れた夜、ゆいに強引に口付けた。
深く。深く。奥まで。
ゆいの中に少しでも俺を刻みたかった。
あいつに会って揺れているゆいを見たくない。
ゆいが動けないくらい強く抱きすくめる。
ゆいの奥深くまで入り込み、強引に俺に向ける。
痛感した。
ただそばにいられればいいなんて、そんなの嘘だ。
抱いて抱いて壊れるくらい抱いて、自分のものにしたい。
本当は。
身体だけでもつながって、あいつの余韻を全部消したい。
でも。
どんなに抱いても
俺のものにはならないってわかってる。
無理やり抱いたら、ゆいはいなくなってしまうだろう。
そばにさえいられなくなるなら、俺はこのままでいい。
唇が腫れるくらい長いキスの後、ゆいを抱きしめて眠った。
あの日からずっと、ゆいと抱き合って寝ている。
「…もう、吸わない」
久しぶりに煙草に手を出したのは、櫻井悠馬が来た日だけだ。
ゆいと翔の鋭さには時々驚かされる。
「ゆいと、翔のそばにいるから、もう吸わないよ」
俺は、他に欲しいものなんて何もない。
遊園地の観覧車でゆいにキスした。
ゆいの中には悠馬しかいないとしても、俺はこれからもそばにいる。
傷ついて、壊れそうに震えているゆいを、ずっと抱きしめている。
マンションにゆいと翔を連れて帰った。
翔を寝かしつけてリビングに戻ると、ゆいがベランダに出ていた。
いつしか雪が舞っていて、それを見ているゆいは、…雪の向こうに悠馬を探している。
悠馬の面影を追って、飛び降りそうで、急いで窓を開けた。
「風邪ひくよ」
ゆいを部屋に連れ戻して抱きしめると、凍えそうに冷たかった。
ゆいを温めたい。
「…忘れさせてやろうか」
ゆいを強く強く抱きしめた。
こんなに想っているのに、あいつはどうするつもりもないのか。
ゆいを見つめる目に嘘がないなら、あいつだって、…
ゆいが俺の背中に回した手に力を込めた。
それでも。
2人で選択したなら。
俺に出来るのはゆいのそばで、ゆいを想うことだけだ…
柔らかくて滑らかなゆいの肌に触れると、ゆいは甘く震えた。
指に唇にゆいを感じると、ゆいを温めたいと思っていたはずが、あっという間に俺が夢中になった。
ゆい。
俺を感じろ。
ゆいは確かに敏感に従順に熱い反応を見せたけど、…
あいつを断ち切ろうとすればするほど、溢れ出す想いが涙に形を変えていた。
ゆいの涙が胸に痛い。
たまらなく欲しいのに、切ない。
あいつを想ったままでも、俺は。
「…き…っ」
息も出来ないくらい泣き続けたゆいは、意識があるのかないのか、あいつへの想いを口にしたまま、眠りに落ちた。
まだ、生温かく流れるゆいの涙に口づける。
悠馬。
ゆいが泣いてるよ。
この世界で、お前だけを待って、ずっと泣いてる。
こんな風にただ1人だけを想う恋があるんだな。
ゆいを抱きしめた。
1ミリの隙間もなくそばにいるのに、果てしなく遠い。
もう吸わないと約束したばかりの煙草が欲しい。
それでも、いつか。
俺を必要としなくなる日がくるまで、俺はゆいのそばにいる。
それまでは、俺にゆいを守らせて。
雪が静かに舞い落ちる夜に、俺は生まれて初めての恋を、ただ、ずっと、抱きしめていた。
音もなく降る雪のように、想いは知らないうちに深く積もる。
俺が生まれた時、手に握りしめていた人の名前は、ゆいだったのかな。
この想いが報われなくても、出会えたことだけは確かだから。
今は一緒に眠ろう、ゆい。
ゆいのまつ毛を濡らす涙は、雪の味がした。
櫻井悠馬の影を消したくて、ゆいと翔を遊園地に連れ出した。
ベンチでふてくされたようにつぶやいたゆいに、ぎくりとする。
あいつが現れた夜、ゆいに強引に口付けた。
深く。深く。奥まで。
ゆいの中に少しでも俺を刻みたかった。
あいつに会って揺れているゆいを見たくない。
ゆいが動けないくらい強く抱きすくめる。
ゆいの奥深くまで入り込み、強引に俺に向ける。
痛感した。
ただそばにいられればいいなんて、そんなの嘘だ。
抱いて抱いて壊れるくらい抱いて、自分のものにしたい。
本当は。
身体だけでもつながって、あいつの余韻を全部消したい。
でも。
どんなに抱いても
俺のものにはならないってわかってる。
無理やり抱いたら、ゆいはいなくなってしまうだろう。
そばにさえいられなくなるなら、俺はこのままでいい。
唇が腫れるくらい長いキスの後、ゆいを抱きしめて眠った。
あの日からずっと、ゆいと抱き合って寝ている。
「…もう、吸わない」
久しぶりに煙草に手を出したのは、櫻井悠馬が来た日だけだ。
ゆいと翔の鋭さには時々驚かされる。
「ゆいと、翔のそばにいるから、もう吸わないよ」
俺は、他に欲しいものなんて何もない。
遊園地の観覧車でゆいにキスした。
ゆいの中には悠馬しかいないとしても、俺はこれからもそばにいる。
傷ついて、壊れそうに震えているゆいを、ずっと抱きしめている。
マンションにゆいと翔を連れて帰った。
翔を寝かしつけてリビングに戻ると、ゆいがベランダに出ていた。
いつしか雪が舞っていて、それを見ているゆいは、…雪の向こうに悠馬を探している。
悠馬の面影を追って、飛び降りそうで、急いで窓を開けた。
「風邪ひくよ」
ゆいを部屋に連れ戻して抱きしめると、凍えそうに冷たかった。
ゆいを温めたい。
「…忘れさせてやろうか」
ゆいを強く強く抱きしめた。
こんなに想っているのに、あいつはどうするつもりもないのか。
ゆいを見つめる目に嘘がないなら、あいつだって、…
ゆいが俺の背中に回した手に力を込めた。
それでも。
2人で選択したなら。
俺に出来るのはゆいのそばで、ゆいを想うことだけだ…
柔らかくて滑らかなゆいの肌に触れると、ゆいは甘く震えた。
指に唇にゆいを感じると、ゆいを温めたいと思っていたはずが、あっという間に俺が夢中になった。
ゆい。
俺を感じろ。
ゆいは確かに敏感に従順に熱い反応を見せたけど、…
あいつを断ち切ろうとすればするほど、溢れ出す想いが涙に形を変えていた。
ゆいの涙が胸に痛い。
たまらなく欲しいのに、切ない。
あいつを想ったままでも、俺は。
「…き…っ」
息も出来ないくらい泣き続けたゆいは、意識があるのかないのか、あいつへの想いを口にしたまま、眠りに落ちた。
まだ、生温かく流れるゆいの涙に口づける。
悠馬。
ゆいが泣いてるよ。
この世界で、お前だけを待って、ずっと泣いてる。
こんな風にただ1人だけを想う恋があるんだな。
ゆいを抱きしめた。
1ミリの隙間もなくそばにいるのに、果てしなく遠い。
もう吸わないと約束したばかりの煙草が欲しい。
それでも、いつか。
俺を必要としなくなる日がくるまで、俺はゆいのそばにいる。
それまでは、俺にゆいを守らせて。
雪が静かに舞い落ちる夜に、俺は生まれて初めての恋を、ただ、ずっと、抱きしめていた。
音もなく降る雪のように、想いは知らないうちに深く積もる。
俺が生まれた時、手に握りしめていた人の名前は、ゆいだったのかな。
この想いが報われなくても、出会えたことだけは確かだから。
今は一緒に眠ろう、ゆい。
ゆいのまつ毛を濡らす涙は、雪の味がした。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~
蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。
職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。
私はこんな人と絶対に関わりたくない!
独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。
それは……『Dの男』
あの男と真逆の、未経験の人。
少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。
私が探しているのはあなたじゃない。
私は誰かの『唯一』になりたいの……。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる