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3章. ゆい
machi.42
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翌朝は翔の熱も下がったので、通常通り出勤した。
保育園で、稜さんの車を降りるときは、足が震えた。
けれど、着いてきてくれるという稜さんを断った。
「Yumaさんから連絡はありましたか?」
「彼は何と言っていましたか?」
「彼の子で間違いないんですね!」
「新婚のお二人に言いたいことはありますか」
報道関係者に囲まれて、翔がおびえる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
出来る限り丁寧に頭を下げた。
本当はちゃんと説明をしたかったけれど、うまく出来なかった。
言えば言うほど、伝わらない気がした。
翔を抱きしめて歩いた。
せめて、俯かずに背筋を伸ばして歩いた。
園長先生と園の先生方にも頭を下げた。
「ここは、お子さんを安全にお預かりする場所です。それぞれのご家庭にご事情があるのはわかっています。翔くんが穏やかに過ごせることを大切にしましょう」
園長先生の言葉に救われた。
興味本位に聞き出そうとせず、仕事に徹してくれるのが有難かった。
「俺は今日、遅くなるから帰りはタクシー使えよ。いいな? 翔のためだ」
病院の地下駐車場で、車を降りる前に、稜さんが私を甘やかす。
「ゆい。大丈夫だ。お前は悪くない」
稜さんの大きな手が、私の頭を優しくなでる。
強い言葉が、私を支えてくれる。
稜さんがキスする。
いつもより長く。励ますように。
病院内の視線は変わらなかった。
申し合せたように止む会話。
逸らされる目。よそよそしい態度。
それでも、笑顔で挨拶した。
「ねぇねぇ、ユウマくん、ロンドン行ってるんだってね」
「国際電話とかかかってくるの?」
「うちの娘がさ、ユウマくんの子どもが見たいからお母さんの職場に行くとか言い出して」
「何言ってんの、子どもは職場じゃなくて保育園にいるんじゃない」
「でもほら、水村ちゃんも今、時の人だから!」
職員控室も変わらない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。でも、彼とはもう連絡を取りません」
仕事の準備を終えると、2人に頭を下げて控室を出た。
「ええ~、ちょっと認知は~?」
「慰謝料は~?」
2人の声が追いかけてきたけれど、足を止めなかった。
「そう、分かったわ。それじゃあこのまま様子を見ましょう」
杏子師長にも改めて騒ぎについて謝罪した。
そして、出来ればこのままここで働き続けたいことも話した。
師長は了承して、きびきびと仕事に移っていった。
「あ~あ、いいな~!あたしもYumaの子ほしい~~~!」
「かっこいいわけだよね~。あのYumaの子なんだもん」
「でもさ~、リナとの子だったら、もっとすごいんじゃない?」
「美男美女だもんね!最上級じゃない?」
「ってか、一夜限りでもうらやましいっ!」
「ってかてか、結城センセもってずるいっ!」
「どんだけ名器だって話よ!」
…ナースステーションも変わらない。
私が入ると、ナースさんたちは、若干気まずそうな顔をしたものの、
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
頭を下げると、
「別にあたしたちは…、ねぇ」
「そうよ、ねぇ。まぁ、高望みはしないことよ」
「そうそう、どうせリナにかないっこないんだし」
「良い夢見たと思ってさ」
よくわからない励ましの言葉を残して出かけていった。
保育園で、稜さんの車を降りるときは、足が震えた。
けれど、着いてきてくれるという稜さんを断った。
「Yumaさんから連絡はありましたか?」
「彼は何と言っていましたか?」
「彼の子で間違いないんですね!」
「新婚のお二人に言いたいことはありますか」
報道関係者に囲まれて、翔がおびえる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
出来る限り丁寧に頭を下げた。
本当はちゃんと説明をしたかったけれど、うまく出来なかった。
言えば言うほど、伝わらない気がした。
翔を抱きしめて歩いた。
せめて、俯かずに背筋を伸ばして歩いた。
園長先生と園の先生方にも頭を下げた。
「ここは、お子さんを安全にお預かりする場所です。それぞれのご家庭にご事情があるのはわかっています。翔くんが穏やかに過ごせることを大切にしましょう」
園長先生の言葉に救われた。
興味本位に聞き出そうとせず、仕事に徹してくれるのが有難かった。
「俺は今日、遅くなるから帰りはタクシー使えよ。いいな? 翔のためだ」
病院の地下駐車場で、車を降りる前に、稜さんが私を甘やかす。
「ゆい。大丈夫だ。お前は悪くない」
稜さんの大きな手が、私の頭を優しくなでる。
強い言葉が、私を支えてくれる。
稜さんがキスする。
いつもより長く。励ますように。
病院内の視線は変わらなかった。
申し合せたように止む会話。
逸らされる目。よそよそしい態度。
それでも、笑顔で挨拶した。
「ねぇねぇ、ユウマくん、ロンドン行ってるんだってね」
「国際電話とかかかってくるの?」
「うちの娘がさ、ユウマくんの子どもが見たいからお母さんの職場に行くとか言い出して」
「何言ってんの、子どもは職場じゃなくて保育園にいるんじゃない」
「でもほら、水村ちゃんも今、時の人だから!」
職員控室も変わらない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。でも、彼とはもう連絡を取りません」
仕事の準備を終えると、2人に頭を下げて控室を出た。
「ええ~、ちょっと認知は~?」
「慰謝料は~?」
2人の声が追いかけてきたけれど、足を止めなかった。
「そう、分かったわ。それじゃあこのまま様子を見ましょう」
杏子師長にも改めて騒ぎについて謝罪した。
そして、出来ればこのままここで働き続けたいことも話した。
師長は了承して、きびきびと仕事に移っていった。
「あ~あ、いいな~!あたしもYumaの子ほしい~~~!」
「かっこいいわけだよね~。あのYumaの子なんだもん」
「でもさ~、リナとの子だったら、もっとすごいんじゃない?」
「美男美女だもんね!最上級じゃない?」
「ってか、一夜限りでもうらやましいっ!」
「ってかてか、結城センセもってずるいっ!」
「どんだけ名器だって話よ!」
…ナースステーションも変わらない。
私が入ると、ナースさんたちは、若干気まずそうな顔をしたものの、
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
頭を下げると、
「別にあたしたちは…、ねぇ」
「そうよ、ねぇ。まぁ、高望みはしないことよ」
「そうそう、どうせリナにかないっこないんだし」
「良い夢見たと思ってさ」
よくわからない励ましの言葉を残して出かけていった。
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