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2章. 悠馬

machi.29

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親切な人が救急車を呼んでくれたらしく、気づいたら病院に運ばれていた。

沈痛な面持ちのマークとメンバー、そして泣きはらした顔のリナがいた。
俺は、あばら骨を折っていて、数日入院することになった。

「お前は、バンドをやっていくつもりがあるのか」

マークにもメンバーにも怒られた。

…そうだな。
俺にはもう、音楽しかない。

俺の傷が癒えるまで、リナが献身的に付き添っていて
「リナを泣かせないでくれ」とルーカスに懇願された。

春になる頃、レコード会社との正式契約が決まり、
マークと染谷のダブルプロデュースで、
俺を含むメンバー4人が、「EXZイグズ」というバンド名で
デビューすることになった。

「リナのこと、真剣に考えてくれないか」

デビュー直前に、染谷が父親の顔をして俺に頭を下げた。

俺は…

結婚していても。
子どもがいても。

まだゆいを想っていた。

「…想いが報われることはないんだろ?思い出にできないか?」

このところ、ルーカスも俺に頼んでくる。

「このままじゃ、リナがかわいそうだ。リナはお前じゃなきゃダメなのに」

リナは、俺が誰を想っていても、リナを見ていなくてもいいと言う。
リナの気持には応えられないが、リナとは付かず離れずで過ごしていた。

デビュー後は、日本と海外を行き来することになり、今まで以上に忙しくなった。

日本でツアーをする時は、無意識にゆいを探してしまう。
ステージから、観客席を見渡す。
移動中の街中。空港の雑踏。
こんなにたくさんの人がいるのに、
ゆいはいない。

見るだけでいい。
横顔でも。後姿でも。

ゆい。
会えなくても、
俺の声はゆいに届いているだろうか。

デビューから1年半。

バンドの知名度も上がり、仕事のペースもつかめてきた頃、
染谷にリナとの結婚を勧められた。

話題性もあるし、お互いの仕事にプラスだろう、というのが表向きの理由で、
父親として安心したいのが本音のようだった。

「俺は、変わりませんよ。リナのことは…」
「わかっている。それでもいい」

俺はリナを都合よく扱っている。
それでも染谷は、俺に託そうとした。
染谷は真のプロデューサーだった。

その頃の俺は、完全にひねていた。
どんなに焦がれても、ゆいには会えなかったし、ゆいはとっくに結婚している。

もう俺は、誰も好きにならない。

リナは、楽だ。
煩わしいことは一切しない。
モデルやらタレントやらでそれなりに忙しそうだったし、
俺が他に誰と遊んでいようが、口を出さない。

染谷には恩もあるし、この際相手は誰でも同じだ。
だったら、ずっと俺を慕ってくれているリナでも。

結局、投げやりに承諾した。
バンドのために宣伝効果があるなら、それもいい。

「絶対に幸せにしろ」というルーカスには悪いが、
リナに特別な愛情があったわけじゃない。
それをリナもわかっている。

と、思っていた。

その年が明けるまでは。
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