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2章. 悠馬

machi.24

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その涙が。

スローモーションのように、ゆっくり頬を伝うのを見て
胸が掴まれた。
真摯とか、ひたむきとか、努力とか
どこかで馬鹿にして嘲っていたものが
急に大きな価値を持った。
この世の中に、人として生まれた意味があるのなら
きっとこんな風に胸を震わせるような感動を
持てることだと思った。

学園祭で、超人気バンドの前座をやらせてもらうことになって
ギターのヒロトがはしゃいでいた。
客はそこそこの入りで、適度な盛り上がりを見せて、まずまずの出来だと思いながら、オリジナル曲に移ったとき、彼女を見つけた。

気が付かないほど静かに泣いていた。
俺を見て。
俺を聴いて。

この胸の中に生じた衝動が、何かわからなかった。

何でもそれなりに器用にこなしてきた俺が
初めて心から焦がれた彼女は、名前もわからなかった。


「隣、空いてる?」

大学2年生になって取った講義の教室で、彼女の姿を見つけたとき、
真面目に神に感謝した。
何か話しかけてたヒロトを無視して、何気なさを装って彼女の隣に立った。

「…はい」

やべー、可愛い。
彼女の声を初めて聞いた。

驚いたように少しだけ見開かれた目。
何度も瞬く長いまつげ。
風に揺れる黒い髪。
ほんのり赤みがかった頬。
柔らかそうな唇。

水村ゆい。

そのまま触れたくなって、
なんか変態っぽいと思って必死で自分を戒めた。


「なー、ユーマ? ゆいちゃん、ライブ来るかなー?」

ヒロトがまとわりついてきて煩い。
俺が女に近づいて誘うなんて、らしくないことをしたせいで、
必要以上にダチらの関心を引いてしまった。

「アリサとレナが飯行こうってさ」
「俺、パス。練習する」
「はぁああ~~??」

ちょっと女を寄せたくない。

「マジか、ユーマ。あいつら、後腐れなくてイイっつってたじゃん!」

…ゆいに触りたい。
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