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1章. ゆい

machi.15

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「…珍しいな。ゆいがわがまま言うの」

勤務後に、結城先生を夕食に誘った。
今日は医師会があって、帰りが遅くなるからと言われたけれど、
待っているって強引に誘った。

白い息を吐きながら、先生が私の部屋を訪れる。
寝ていた翔も起き出して、私の脚にしがみついたまま、結城先生をお出迎えした。

「翔、おいで」

結城先生が翔を軽々と抱き上げ、

「…赤いな」

私を見て、腫れた目元に優しく触れた。

そのまま何も言わずに私も引き寄せ、確かめるように抱きしめた。

結城先生の大きな胸の中で、懲りずにまた、泣きそうになってしまい、

「ごはん…、出来てます」

キッチンに戻ろうとしたけれど、先生が力を込めて離してくれなかった。

「今日、…泊まってもいいか」

思わず身をこわばらせた私に、

「…何もしない。…1人にしたくないんだ」

先生は背中を優しく撫でた。
何度も何度も。

多分私は、涙腺がおかしくて。
頷きながら、また泣いていた。

先生は気づいているのに、何も言わず、
そのまま強く、抱きしめていてくれた。

「ゆいが好きだよ」

翔を抱いたまま寝ている私を、結城先生が後ろから抱き締めた。

頭にキスして言われた言葉に、また涙が滲んだ。

悠馬に言ってもらいたかった言葉。

…後ろを向いていて良かった。

初めて先生が好きって言ってくれたのに。
こんな風に聞くなんて、私は幸せになる権利がない。

戯れるように愛おしむように、先生がキスを降らせる。

頭に、髪に、耳に、首に、…

「…ゆい。…ゆい」

私が泣きながら眠るまで、

「ゆいが好きだ」

先生はずっとそうしていた。
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