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1章. ゆい

machi.7

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微かなアルコール臭と妙に白々した天井が視界に入る。
身じろぎすると、

「…気づいたか」

知らない男性がのぞきこんできた。

「…あの」

かすれて奇妙な声しか出ない。

「君は昨日、けいれんを起こした息子を連れて夜間診療に来た」

「…翔」

慌てて起き上がると翔は私と同じベットで寝ていた。腕に点滴がささっている。

「翔くんの容体は安定しているが、体力が落ちているから点滴をしている。…大丈夫だ」

男性の諭すような声を聞いて、思い出した。
この人は昨夜の当直医で、パニックになった私を安心させてくれたこと。

あの後、緊張の糸が切れて、気を失っていたらしい。

「あの。…ありが、…」

「点滴が終わるまでにはまだ少しかかる。君は疲れているようだから、そのままもう少し休むといい」

医師は、素っ気なく言い放つとカーテンの向こう側へ行こうとする。

「あ、…の。…あの、ここは…」

「当直医の仮眠室だ。俺が帰るまでは誰も来ないから安心して休め。翔の点滴が終わったら、送っていく」

「あ…、…え?」

寝起きでぼんやりしながらも、ちゃんと引っかかる。

「あ、いえ、あの…、それは、申し訳ないので…」

「そう思うんなら、おとなしく寝てろ」

医師は反論の余地を与えずに言い切った。

…な、なんかこの先生、怖い?

小心ゆえに反論できず、おずおずと布団に戻る。

「呼びに来るから、待ってろよ」

ぎくしゃく、頷く。

それを認めて、医師がふっと笑みをみせた。

わ。

急に世界が色づいたような、圧倒されるような感覚に、私は瞬いた。

一見冷たい印象の眼鏡と切れ長の目は、笑うと優しく細められて、妙な甘さが加わる。すらりと高い身長に、長い手足。大きな手。

医師が腕を伸ばして私の額に軽く触れる。

わわ。

なんか、赤面する…っ

顔が見れなくて、下向きがちになる目線に「Dr.結城」のネームプレートが映る。

結城先生は数秒間、手のひらを額に押し付けてから、すっとカーテンの向こうへ消えていった。

結城先生。
って確か、ナースさんたちが噂してた人じゃなかったっけ。

ぼんやりと思い出す。

大きくて、温かい手だった。
こんな風に男の人に触れられたのは、……


ゆい。

悠馬の夢を見ていた気がする。

もう。目が覚めなければいいのに。
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