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1章. ゆい

machi.4

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急いで布団をはねのけて様子を見る。

翔が白目をむいて、激しく痙攣して、口からは泡を…

「助けてっ!! 誰か、助けてっ!!  翔がっ、…翔が死んじゃう!!」

私は半狂乱で、悲鳴を上げて駆け回ったらしく、
隣室のマリカちゃんが救急車を呼んでくれて、
私と翔は中里大学付属病院に搬送された。

今夜の救急指定病院は、私の職場だった。

当直の先生が診察してくれた時には、すでに翔の痙攣は治まり、
呼吸は浅いながらも安定していた。

「熱性けいれんだな。小さい子によくある。心配いらない」

当直医は、じっと私を見て、諭すようにゆっくり言った。

「大丈夫だ」

「…あ、…ありが…っ」

胸の前で硬く組んでいた手が、ほどけなくなっていた。
お礼を言いたいのに、声が出ない。

翔は、大丈夫。

先生の言葉を理解した途端、足に力が入らなくなる。

「おいっ」

先生に腕を支えられて、自分が腰を抜かしたことに気付く。

「す、…すみま…っ」

立ち上がろうとしても、まるで力が入らない。

「大丈夫だ」

先生が私の腕を支えたまま、ゆっくり床に座らせてくれる。
そのまま自分もしゃがみこみ、目の高さを私に合わせる。

「大丈夫。…大丈夫だ」

先生は幼い子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと
何度も繰り返した。

先生の手が頬に触れて、自分が泣いていることに気付く。

…大丈夫。
翔は死なない。大丈夫。

「大丈夫だ。お前はちゃんとやっている。」

はっきりと言い切った先生の言葉に、緊張の糸が切れて、馬鹿みたいに涙が止まらなくなる。

大丈夫。…翔は大丈夫。

私は…

目の前の大きな存在が、力強く私を受け止めてくれて、ますます涙があふれ、こらえきれずに嗚咽が漏れる。

頑張っても頑張ってもうまくできなくて。

悔しくて悲しくて、苦しくて。
誰にも助けを求められなくて。

翔がかわいそうで。
私を選んできてくれたのに、
せっかく来てくれたのに。

苦しくて苦しくて、どんなに苦しくても。

「…かけ、る…」

翔は私の全て。

…ゆい。

どうしてか、最後に
泣きたいくらい愛しいあの声を聞いたような気がして。


そのまま、ぷっつりと意識が途切れた。
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