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1章. ゆい

machi.3

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昼過ぎまでは小雨だったのに、今はかなり激しく降っている。
渋滞しているのか、タクシーはなかなか進まない。

苦しそうに息をしていた翔が、突如、吐いた。

「あ~あ…」

車内に吐しゃ物特有のにおいが充満し、運転手さんが露骨に嫌な顔をする。

「上田医院でしょ?
後、少しだから降りてくれる?
ちょっと掃除しないと使いもんになんないからさぁ」

汚したところはできる限りハンカチで拭いてから、翔を抱えてタクシーを降りた。

激しく打ち付ける雨。

翔を濡らさないように上着をかけて、
傘を首で支え、病院に向かって歩く。
あっというまに足元からずぶ濡れ。

車で5分の距離は、歩くと長い。

上田医院についた時は、すでに18時を過ぎ、雨と吐しゃ物にまみれた私の前で、受付の窓は固く締まっていた。

病院の前でまた、タクシーを呼ぶ。

翔が苦しそうにしゃくりあげる。
顔が赤い。呼吸が浅い。

やっぱり車を買いたい。
雨の日はいつも思う。
購入資金もないし、維持費もないから、無理だけれど。

ゆっくり、ときどき止まってもらいながら、
帰りのタクシーでは戻さずに済んだ。

しらかばハイツ202が、私と翔の部屋。
病院の借り上げ社宅にいれてもらっている。

六畳間にシンクと簡易コンロ、片隅にトイレがあってお風呂はない。
1階の共同浴場に決められた時間内に入るか、銭湯まで行くか。
水しか出ない水道で済ませるか。

翔を寝かせて汚れたものを片付け、一息つけたのは21時近くなってからだった。
翔の顔は赤く、熱はまだあるようだけど、今のところ、静かに寝ている。

隣のマリカちゃんが帰宅したようで、テレビの音が聞こえてきた。

明日は休むしかない。婦長と曽根さんに電話しなきゃ…

思うように体が動かず、床にへたり込んだまま、
しばらくぼんやりしていたようで。

…気付いたら、翔が痙攣していた。
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