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hage.115
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「…アイ、ごめんな」
頭の上で、リツキがつぶやく。
何が、ごめんっ?!
もはや不吉な予感しかなくて、弾かれたように顔を上げると、
「…いっ、てっ!」
デコがリツキの顎にクリーンヒットした。
…地味に痛てー。
「お前っ!石頭振りまわ、…」
怒りに震えるリツキの声が、途中で切れた。
オレの涙腺は、もう壊れきっていて制御できない。
とりあえず逃げたけど、それだけだから、とか言われたら、もう今度こそ本当に立ち直れない。
「や、違う。そうじゃない」
リツキが急いでオレの涙を拭う。
「違うって、アイ。ちょっと待て。俺が言いたいのは、そっちじゃなくて、…!」
リツキが焦ってるけど、止められない。
もう二度と、リツキの前では泣けないと思った。
この指が、この胸が、オレの涙を受け止めてくれることはもうないんだって、…暗くて深い闇の中に1人で取り残されて、何にも見えなくなった。
「…アイ」
リツキがオレを抱きしめる。
どこにそんな体力が残ってたのか、小さな子どもみたいに手放しで泣いた。
凍りついて砕けた胸の欠片が一気に涙に変わって、押し寄せる洪水みたいに溢れ出す。
リツキが困ってるのがわかるけど、どうにもできない。
「…アイ、大丈夫だから。な?」
リツキがオレの頭を背中をあやすように優しく撫でる。
「アイ。アイ。…好きだよ」
でも止められない。
リツキはたった一言でオレの息の根をとめる。
暗闇に放り出されて、心なんて最初から無ければいいのにと思うほどの痛みで、息が出来なくなる。
「…嘘、ついた。ラウラと寝たとか、…お前のこと好きじゃないとか、…嘘ついて、ごめん」
あの日のオレが、力なくリツキの胸を叩く。
『早く戻ってきて』
『嘘って言って』
絶望の中で寒くて凍えて、どこにも行けなかったあの日のオレが、唯一求めた腕の中で、声をあげて泣いていた。
さんざん泣いて、泣き疲れて、しゃくりあげているオレを、リツキはずっと抱きしめていた。
リツキの長い指がオレの髪をすく。
ひんやりした冬の闇が静かに積もる。
「アイ、…好きだよ」
リツキがさっきから何度も繰り返し伝えてくれる。
リツキの胸に顔をうずめたまま、頷くと、リツキがオレの頭にキスした。
そのまま髪をかき分けて、デコにもこめかみにも口づける。
腫れたまぶたを持ち上げて、下からリツキを見上げると、
リツキは少し困ったような顔で、オレの頬を撫でた。
涙でぐちゃぐちゃなままのオレに、リツキがそっとキスをした。
「…俺。間違ってるかもしれない」
リツキの低い声が風に揺れる。
「イタリアのサッカーチームに正式にスカウトされて、…受けようと思ってる」
まだ涙が残ってるまつ毛を瞬いてリツキを見ると、リツキがまっすぐにオレの目を見つめていた。
頭の上で、リツキがつぶやく。
何が、ごめんっ?!
もはや不吉な予感しかなくて、弾かれたように顔を上げると、
「…いっ、てっ!」
デコがリツキの顎にクリーンヒットした。
…地味に痛てー。
「お前っ!石頭振りまわ、…」
怒りに震えるリツキの声が、途中で切れた。
オレの涙腺は、もう壊れきっていて制御できない。
とりあえず逃げたけど、それだけだから、とか言われたら、もう今度こそ本当に立ち直れない。
「や、違う。そうじゃない」
リツキが急いでオレの涙を拭う。
「違うって、アイ。ちょっと待て。俺が言いたいのは、そっちじゃなくて、…!」
リツキが焦ってるけど、止められない。
もう二度と、リツキの前では泣けないと思った。
この指が、この胸が、オレの涙を受け止めてくれることはもうないんだって、…暗くて深い闇の中に1人で取り残されて、何にも見えなくなった。
「…アイ」
リツキがオレを抱きしめる。
どこにそんな体力が残ってたのか、小さな子どもみたいに手放しで泣いた。
凍りついて砕けた胸の欠片が一気に涙に変わって、押し寄せる洪水みたいに溢れ出す。
リツキが困ってるのがわかるけど、どうにもできない。
「…アイ、大丈夫だから。な?」
リツキがオレの頭を背中をあやすように優しく撫でる。
「アイ。アイ。…好きだよ」
でも止められない。
リツキはたった一言でオレの息の根をとめる。
暗闇に放り出されて、心なんて最初から無ければいいのにと思うほどの痛みで、息が出来なくなる。
「…嘘、ついた。ラウラと寝たとか、…お前のこと好きじゃないとか、…嘘ついて、ごめん」
あの日のオレが、力なくリツキの胸を叩く。
『早く戻ってきて』
『嘘って言って』
絶望の中で寒くて凍えて、どこにも行けなかったあの日のオレが、唯一求めた腕の中で、声をあげて泣いていた。
さんざん泣いて、泣き疲れて、しゃくりあげているオレを、リツキはずっと抱きしめていた。
リツキの長い指がオレの髪をすく。
ひんやりした冬の闇が静かに積もる。
「アイ、…好きだよ」
リツキがさっきから何度も繰り返し伝えてくれる。
リツキの胸に顔をうずめたまま、頷くと、リツキがオレの頭にキスした。
そのまま髪をかき分けて、デコにもこめかみにも口づける。
腫れたまぶたを持ち上げて、下からリツキを見上げると、
リツキは少し困ったような顔で、オレの頬を撫でた。
涙でぐちゃぐちゃなままのオレに、リツキがそっとキスをした。
「…俺。間違ってるかもしれない」
リツキの低い声が風に揺れる。
「イタリアのサッカーチームに正式にスカウトされて、…受けようと思ってる」
まだ涙が残ってるまつ毛を瞬いてリツキを見ると、リツキがまっすぐにオレの目を見つめていた。
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