【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

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「…アイ、ごめんな」

頭の上で、リツキがつぶやく。

何が、ごめんっ?!

もはや不吉な予感しかなくて、弾かれたように顔を上げると、

「…いっ、てっ!」

デコがリツキの顎にクリーンヒットした。
…地味に痛てー。

「お前っ!石頭振りまわ、…」

怒りに震えるリツキの声が、途中で切れた。

オレの涙腺は、もう壊れきっていて制御できない。

とりあえず逃げたけど、それだけだから、とか言われたら、もう今度こそ本当に立ち直れない。

「や、違う。そうじゃない」

リツキが急いでオレの涙を拭う。

「違うって、アイ。ちょっと待て。俺が言いたいのは、そっちじゃなくて、…!」

リツキが焦ってるけど、止められない。

もう二度と、リツキの前では泣けないと思った。
この指が、この胸が、オレの涙を受け止めてくれることはもうないんだって、…暗くて深い闇の中に1人で取り残されて、何にも見えなくなった。

「…アイ」

リツキがオレを抱きしめる。

どこにそんな体力が残ってたのか、小さな子どもみたいに手放しで泣いた。

凍りついて砕けた胸の欠片が一気に涙に変わって、押し寄せる洪水みたいに溢れ出す。
リツキが困ってるのがわかるけど、どうにもできない。

「…アイ、大丈夫だから。な?」

リツキがオレの頭を背中をあやすように優しく撫でる。

「アイ。アイ。…好きだよ」

でも止められない。

リツキはたった一言でオレの息の根をとめる。

暗闇に放り出されて、心なんて最初から無ければいいのにと思うほどの痛みで、息が出来なくなる。

「…嘘、ついた。ラウラと寝たとか、…お前のこと好きじゃないとか、…嘘ついて、ごめん」

あの日のオレが、力なくリツキの胸を叩く。

『早く戻ってきて』
『嘘って言って』

絶望の中で寒くて凍えて、どこにも行けなかったあの日のオレが、唯一求めた腕の中で、声をあげて泣いていた。

さんざん泣いて、泣き疲れて、しゃくりあげているオレを、リツキはずっと抱きしめていた。
リツキの長い指がオレの髪をすく。

ひんやりした冬の闇が静かに積もる。

「アイ、…好きだよ」

リツキがさっきから何度も繰り返し伝えてくれる。
リツキの胸に顔をうずめたまま、頷くと、リツキがオレの頭にキスした。
そのまま髪をかき分けて、デコにもこめかみにも口づける。

腫れたまぶたを持ち上げて、下からリツキを見上げると、
リツキは少し困ったような顔で、オレの頬を撫でた。

涙でぐちゃぐちゃなままのオレに、リツキがそっとキスをした。

「…俺。間違ってるかもしれない」

リツキの低い声が風に揺れる。

「イタリアのサッカーチームに正式にスカウトされて、…受けようと思ってる」

まだ涙が残ってるまつ毛を瞬いてリツキを見ると、リツキがまっすぐにオレの目を見つめていた。
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