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hage.114
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振り返らなくても、誰だかわかる。
大きな手。長い指。
背中から引き寄せられた胸の中。
オレを抱きしめる強い腕。
「…何やってんだ、このバカ」
低くて甘い声。耳をくすぐる吐息。包まれる、リツキの匂い。
涙腺が崩壊した。
世界で一つだけ。
オレが焦がれて止まない場所。
「…アイ」
どうして、名前を呼ばれるだけで、胸の奥が震えるんだろう。
生まれてきたことも、生きてきたことも、全部幸せに思えるんだろう。
「…俺。お前の人生奪っていいか?」
耳元で、リツキの低い声が震えた。
振り返ろうとすると、めちゃめちゃに強く抱きしめられた。
離さないように。
なくさないように。
「お前の将来、俺にちょうだい…っっ」
切羽詰まったリツキの声が切なくて、オレを抱きしめるリツキの腕がわずかに震えていて、…オレは壊れた人形のように何度も何度もうなずいた。
リツキがオレを向き直らせて、その胸に息ができないほど強く、強く抱きしめた。
「…じゃあ」
リツキがオレにささやきかけるのと同時に、
「いい加減にしなさいよ、この恥さらし~~~~~っ」
「ママー、大変っ!リツキがアイとラブラブしてるぅ~~~~~」
身の毛もよだつハナクソの怒号と無邪気なナツキの甲高い声が迫ってきた。
「逃げるぞ!」
リツキに手を引かれて走り出した先には、何があるのか、涙で曇って前が見えない。
「こら、待てっ!!こんのハレンチカップルがっっ」
でも、いい。
悲しいことも辛いことも、何があっても乗り越えられる。
リツキが手をつないでいてくれるなら。
「よ~~~ぅ、熱いよ、お二人さん!」
「仲良くやれよ~っ、離すんじゃないぞ~~~~~」
団地ヤジウマの冷やかしと歓声が飛び交う中、
視界の端に、少し離れた場所ですらりとたたずむラウラの姿が映った。
口元に諦めたような笑みを浮かべながら、オレたちに手を振っていた。
ろくに食事もせず、睡眠も取っていなかったオレは、全力で走ったら息も絶え絶えで、リツキが足を止めたときには全身が崩れ落ちていた。
「アイ!しっかりしろ」
リツキが慌ててオレを抱き留める。
リツキの腕の中であえぐオレに、一陣の風が吹き抜ける。
目を上げると、リツキの腕の向こうに、街の明かりが見えた。
小学生のころ、しょっちゅう遊びに来ていた裏山の神社付近。
木々の合間から町が一望できる。
リツキがオレを持ち直して地面に腰かけた。
リツキの胸もまだ、上下に揺れている。
そこに手を伸ばすと、リツキの鼓動が感じられた。
リツキがオレの手の上に自分の手を重ねて、もう一方の腕でオレの頭を引き寄せる。
リツキの鼓動が耳に伝わる。
リツキがここにいる。
リツキの上着を握りしめたら、リツキがオレの頭に口づけた。
大きな手。長い指。
背中から引き寄せられた胸の中。
オレを抱きしめる強い腕。
「…何やってんだ、このバカ」
低くて甘い声。耳をくすぐる吐息。包まれる、リツキの匂い。
涙腺が崩壊した。
世界で一つだけ。
オレが焦がれて止まない場所。
「…アイ」
どうして、名前を呼ばれるだけで、胸の奥が震えるんだろう。
生まれてきたことも、生きてきたことも、全部幸せに思えるんだろう。
「…俺。お前の人生奪っていいか?」
耳元で、リツキの低い声が震えた。
振り返ろうとすると、めちゃめちゃに強く抱きしめられた。
離さないように。
なくさないように。
「お前の将来、俺にちょうだい…っっ」
切羽詰まったリツキの声が切なくて、オレを抱きしめるリツキの腕がわずかに震えていて、…オレは壊れた人形のように何度も何度もうなずいた。
リツキがオレを向き直らせて、その胸に息ができないほど強く、強く抱きしめた。
「…じゃあ」
リツキがオレにささやきかけるのと同時に、
「いい加減にしなさいよ、この恥さらし~~~~~っ」
「ママー、大変っ!リツキがアイとラブラブしてるぅ~~~~~」
身の毛もよだつハナクソの怒号と無邪気なナツキの甲高い声が迫ってきた。
「逃げるぞ!」
リツキに手を引かれて走り出した先には、何があるのか、涙で曇って前が見えない。
「こら、待てっ!!こんのハレンチカップルがっっ」
でも、いい。
悲しいことも辛いことも、何があっても乗り越えられる。
リツキが手をつないでいてくれるなら。
「よ~~~ぅ、熱いよ、お二人さん!」
「仲良くやれよ~っ、離すんじゃないぞ~~~~~」
団地ヤジウマの冷やかしと歓声が飛び交う中、
視界の端に、少し離れた場所ですらりとたたずむラウラの姿が映った。
口元に諦めたような笑みを浮かべながら、オレたちに手を振っていた。
ろくに食事もせず、睡眠も取っていなかったオレは、全力で走ったら息も絶え絶えで、リツキが足を止めたときには全身が崩れ落ちていた。
「アイ!しっかりしろ」
リツキが慌ててオレを抱き留める。
リツキの腕の中であえぐオレに、一陣の風が吹き抜ける。
目を上げると、リツキの腕の向こうに、街の明かりが見えた。
小学生のころ、しょっちゅう遊びに来ていた裏山の神社付近。
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リツキがオレを持ち直して地面に腰かけた。
リツキの胸もまだ、上下に揺れている。
そこに手を伸ばすと、リツキの鼓動が感じられた。
リツキがオレの手の上に自分の手を重ねて、もう一方の腕でオレの頭を引き寄せる。
リツキの鼓動が耳に伝わる。
リツキがここにいる。
リツキの上着を握りしめたら、リツキがオレの頭に口づけた。
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