【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

remo

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授業中だから当たり前なんだけど、屋上には誰も居なくて、日差しに暖められた冬の空気が心地よくただよっている。

フェンスまで進んで空を見上げた。

眩しい青空。
どこまでも続く青。

「…リツキ」

近過ぎて見えなくて。
遠く離れて見失って。

これから先も、そばにいてもいなくても。

「…好きだよ」

声に出したら、想いに胸が詰まる。

リツキが他の誰かを好きになっても。
もうオレのこと好きじゃなくても。

オレの気持ちはオレのものだ。

「ああああ~~~~~っっ」

空に向かって思いっきり叫んだら、すっきりした。

オレにはそれしかないけど、それがオレの全てだから。

「こら~っ、コマチ~っ、そんなところでサボってるんじゃなーいっ!」

ハゲヤマが校長を引き連れて下から叫んでいるから、手を振ったら、笑顔の校長に捕まってみっちり説教された。

クソぅ、おかげで帰りが遅くなったぜ。

校長、にこやかにして曲者だな。説教長げー長げー。

オレにはまだやんなきゃいけないことがあるっつーのに。

冬の日暮れは早い。

見慣れた団地はすっかり闇に包まれている。

遅くなったけど、これはオレのケジメだし。

通学鞄を地面に置いて、団地を仰ぐ。
生まれた時から、リツキと一緒に過ごしてきた古びた団地。
壁のしみも、階段のさびも一緒に通り抜けた帰る場所。
下から見てもリツキんちのドアはすぐわかる。

柄にもなく緊張するから、深呼吸した。

意地悪で優しくて、冷たくて甘い、…リツキ。

「…本多リツキ~~~~~っっ」

出せる限りの大声で呼んだ。
オレの声は、訪れ始めた夜の寒さに逆らって空に舞う。

名前を呼ぶだけで、胸が詰まる。
世界で一つだけ、オレにとって特別なその名前。

家路を急ぐ人たちがギョッとしたように振り返り、明かりのともった窓からは興味津々な視線がのぞく。

「オレはやっぱり、お前が好きだよーーーっ」

想いを言葉にしたら、胸の奥が締め付けられて、声がひび割れる。
泣くな。まだ。

「これから先もっ、お前が他の誰かを選んでも、オレはずっとっ、…ずっと、お前が好きだよーーーーーっっ」

団地の窓から、いくつもの顔がのぞく。
面白そうな、迷惑そうな、数々の視線たち。

リツキの家のドアは開かない。
リツキには、届かないかもしれない。

「オレはっ、お前と生きていきたいけどっ、…お前が幸せなら、オレはそれでいーーーよーーーっ」

オレんちの玄関と、リツキんちの玄関が同時に開いて、鬼の形相のハナクソと笑顔で飛び跳ねるナツキが見えた。

「本多リツキーーーーーっっ!」

やべえ、ハナクソに捕まる前に言い終わらなきゃ。

「好きだよーーーーーっっ!!」

涙が溢れる前に、全部伝えなきゃ。

「幸せになれ、…っっ!!」

最後に想いの全てを込めた渾身の叫びは、途中で後ろから伸びてきた大きな手のひらに塞がれた。
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