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hage.110
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「もおぉぉぉぉ~うっ!いい加減、うっとうしいのよ!いつまでもジメジメしてないで、さっさと学校行きなさいっ!!」
二段ベッドで巨大なキノコと化していたオレは、鬼のハナクソに容赦なく引きずられて玄関から外に放りだされた。
クソ、ハナクソ!
情けを知れよ。
リツキと別れてから、オレがひたすらベッドにこもっているうちに、世間では冬休みが終わったらしい。
「親のお金で学校行かせてもらってるんだから、サボるんじゃないわよっ」
オレの通学カバンが玄関から飛んでくる。
貧乏高校生には悲しみに浸る余裕なんてねーんだな。
冷たく澄んだ空気の朝。
吐き出す息が白い。
日差しが目に染みる。
オレが死にそうだっていうのに、朝は来て、学校は始まる。
ははっ
失恋くらいで人間は死なねーか。
空っぽのカバンを担いでのっそり歩き出したら、三戸隣りのドアが開いた。
やべえ!
と、思った時には既に遅く、ドアから出てきたのは、リツキとラウラで。
オレに気づいたラウラが、にっこり笑顔を見せるのに、頭を下げてうつむきがちに全力で通り過ぎた。
リツキの顔は絶対見ねー。
幸せそうなら、クソむかつくし、同情されるのも耐えられねー。
オレにだって、プライドが、…っ
急いで外階段を駆け降りたら、勢い余ってコケた。
イタリア語で何か言うラウラの声が聞こえた気がしたけど、振り向かねー。
泣くな、オレ。
もう二度と、リツキの前では泣けない。
団地から離れて、とぼとぼ歩く。
リツキと歩いた通学路。
どんなに必死に走っても、あっさりオレに追いつくリツキ。
初めてキスした住宅街の塀。
手をつないで歩いた坂道。
寄り道したファストフード店。
何を見てもリツキしか浮かばないのに、オレの現実にリツキはいない。
「アイ~っ!!」
教室に入るとチナツが飛んできて、苦しいくらいぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「もお、心配したよ。電話もメールも通じないし、家に行ったら伏せってるっていうし、…」
チナツにもレオンにも、心配かけたのはわかってる。
でも、何も話せなかった。
話したら、リツキがいないこの現実を認めなきゃいけなくなる。
リツキがいないこの現実に立ち向かわなきゃ、…
「アイ…?」
知らないうちに、壊れた涙腺から涙が溢れ出していたらしい。
チナツが慌ててオレを引き寄せると、教室を出た。
「冬休み中、不摂生してたのかな。元気印の古町さんが珍しいわね。まあ、ちょっと休んでなさい。先生、付き添いで病院行ってくるから」
保健室のベッドさえ、リツキとキスした記憶しかねー。
ベッドの中で丸まってジメジメしてるオレを心配そうにチナツが見つめている。
保健医が出て行った部屋の中は静かで、始業式に向かう奴らの靴音や話し声がわずかに聞こえた。
チナツが何も言わずにオレの頭をなでる。
『産毛、生えてよかったな』
ハゲに触れたリツキの長い指の感触が、繰り返し繰り返し再生されて苦しい。
ハゲ隠しに結んだゴムはハナクソの伸び切った黒ゴムで、もうオレにリツキの首輪はない。
「…終わっちゃった」
すすり泣きみたいなオレの声は、チナツに届いたかどうかわからない。
「…リツ、オレのこと、…もう好きじゃないんだって」
口にしたら、それを告げた時のリツキの声がよみがえった。
『ラウラと寝た』
『お前のことは、もう好きじゃない』
胃がキリキリする。
リツキが、あの熱い腕の中にラウラを抱いて、1ミリの隙間もないくらいぴったり抱き合って、何度も何度もとろけそうなキスをして、何度も何度も2人で溶け合う…
「うぇ…っ!」
「アイっ!?」
胃液が込み上げてきて口元を押さえたけど、何も吐けなかった。
二段ベッドで巨大なキノコと化していたオレは、鬼のハナクソに容赦なく引きずられて玄関から外に放りだされた。
クソ、ハナクソ!
情けを知れよ。
リツキと別れてから、オレがひたすらベッドにこもっているうちに、世間では冬休みが終わったらしい。
「親のお金で学校行かせてもらってるんだから、サボるんじゃないわよっ」
オレの通学カバンが玄関から飛んでくる。
貧乏高校生には悲しみに浸る余裕なんてねーんだな。
冷たく澄んだ空気の朝。
吐き出す息が白い。
日差しが目に染みる。
オレが死にそうだっていうのに、朝は来て、学校は始まる。
ははっ
失恋くらいで人間は死なねーか。
空っぽのカバンを担いでのっそり歩き出したら、三戸隣りのドアが開いた。
やべえ!
と、思った時には既に遅く、ドアから出てきたのは、リツキとラウラで。
オレに気づいたラウラが、にっこり笑顔を見せるのに、頭を下げてうつむきがちに全力で通り過ぎた。
リツキの顔は絶対見ねー。
幸せそうなら、クソむかつくし、同情されるのも耐えられねー。
オレにだって、プライドが、…っ
急いで外階段を駆け降りたら、勢い余ってコケた。
イタリア語で何か言うラウラの声が聞こえた気がしたけど、振り向かねー。
泣くな、オレ。
もう二度と、リツキの前では泣けない。
団地から離れて、とぼとぼ歩く。
リツキと歩いた通学路。
どんなに必死に走っても、あっさりオレに追いつくリツキ。
初めてキスした住宅街の塀。
手をつないで歩いた坂道。
寄り道したファストフード店。
何を見てもリツキしか浮かばないのに、オレの現実にリツキはいない。
「アイ~っ!!」
教室に入るとチナツが飛んできて、苦しいくらいぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「もお、心配したよ。電話もメールも通じないし、家に行ったら伏せってるっていうし、…」
チナツにもレオンにも、心配かけたのはわかってる。
でも、何も話せなかった。
話したら、リツキがいないこの現実を認めなきゃいけなくなる。
リツキがいないこの現実に立ち向かわなきゃ、…
「アイ…?」
知らないうちに、壊れた涙腺から涙が溢れ出していたらしい。
チナツが慌ててオレを引き寄せると、教室を出た。
「冬休み中、不摂生してたのかな。元気印の古町さんが珍しいわね。まあ、ちょっと休んでなさい。先生、付き添いで病院行ってくるから」
保健室のベッドさえ、リツキとキスした記憶しかねー。
ベッドの中で丸まってジメジメしてるオレを心配そうにチナツが見つめている。
保健医が出て行った部屋の中は静かで、始業式に向かう奴らの靴音や話し声がわずかに聞こえた。
チナツが何も言わずにオレの頭をなでる。
『産毛、生えてよかったな』
ハゲに触れたリツキの長い指の感触が、繰り返し繰り返し再生されて苦しい。
ハゲ隠しに結んだゴムはハナクソの伸び切った黒ゴムで、もうオレにリツキの首輪はない。
「…終わっちゃった」
すすり泣きみたいなオレの声は、チナツに届いたかどうかわからない。
「…リツ、オレのこと、…もう好きじゃないんだって」
口にしたら、それを告げた時のリツキの声がよみがえった。
『ラウラと寝た』
『お前のことは、もう好きじゃない』
胃がキリキリする。
リツキが、あの熱い腕の中にラウラを抱いて、1ミリの隙間もないくらいぴったり抱き合って、何度も何度もとろけそうなキスをして、何度も何度も2人で溶け合う…
「うぇ…っ!」
「アイっ!?」
胃液が込み上げてきて口元を押さえたけど、何も吐けなかった。
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