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hage.108
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「アイ!ただいま~っ」
いち早くオレに気づいたナツキが飛んできて、ダイブする。
パワフル5歳児め。
リツキを見ると横には寄り添うようにラウラが立っていて、…手をつないでいた。
「あ、…あのさっ」
一瞬凍りついた喉を必死で動かす。
手、つないでるって、なんで?
…なんで。
「リツっ、ちょっと話したいんだけどさっ!」
焦りが空回りして、ムダな大声になる。
「ラウラ、…」
リツキがイタリア語で何かラウラに伝えると、ラウラは頷いて手を離した。
「アイ。今日はボク、ラウラと寝るんだよ」
嬉しそうなナツキの頭を撫でてやりながら、オレの居場所がないって感じた。
リツキと手をつなぐのも、ナツキが無条件に懐いてくるのも、去年の夏までは全部オレだったのに。
「…俺も、お前に話すことがある」
家に入るリツキの家族を見ていたら、リツキの声がした。
それは、まるで死刑宣告みたいだった。
団地横の小さな児童遊園までリツキと歩いた。
リツキはオレの隣に並ばない。
リツキはオレの手を取らない。
…なんで。
「ここでいいか?」
振り向いたリツキの整った顔に、街灯の明かりで影ができる。
2か月ぶりに会って、本当は一番にリツキに飛びつきたかった。
なのに、なんで今、こんなにリツキとの距離が遠いんだろう。
「あのさっ、リツ!」
迫りくる不吉な影を払い落としたくて、精一杯声を張り上げた。
「ネックレス、無くしてごめん!」
潔く、深々と頭を下げた。
「無くしたっていうか、盗られたっていうか、…そのことリツに内緒にして、誤魔化そうとして、本当にごめん!!」
沈黙が、怖くて、リツキが何か言う前に続けた。
「リツが取り戻してくれたって、ヒグチに聞いた。リツ、ありがとう!オレっ、あのネックレス、すごく気に入ってて、すげー大事で、…っ」
言えば言うほど、泣きたくなってきた。
なんでリツキ、何も言わねーの?
なんで、怒ってもくれねーの?
「リ、…っ」
堪らなくなって、顔を上げかけたオレの頭に、リツキの長い指が触れた。
「…産毛、生えてよかったな」
金色のリボンを器用に解いて、リツキの指が、オレの産毛を優しく撫でる。
リツキがくれた金色のリボン。
『お前は俺のものってこと』
なんで…
涙と鼻水が垂れそうで、必死に歯を食いしばった。
「アイ。俺、…ラウラと寝た」
勢い良く顔を上げて見たリツキは、オレが好きなリツキの顔で、ムダに整った甘いマスクで。
「もう、…お前とは付き合えない」
そう告げたリツキの声は、何度となくオレを呼んで、どこまでも意地悪に、どこまでも甘くささやいた声と同じで。
「…じゃあな」
残酷に動くリツキの唇は、オレに数えきれないくらい甘くとろけるキスをしたリツキの唇で。
「…なんで?」
喉の奥が熱くて、くぐもって苦しくて、ひび割れてかすれた声しか出ない。
「オレ、…っ、オレが、ネックレス、無くして、いい子にしてなかったから?」
胸が詰まって、自分が何を言ってるかよくわからない。
頭より先に事態を理解した涙が、勝手に溢れてリツキの顔が霞む。
「…リツ、オレのこと、嫌いになったの?」
いつも。
どんな時でも。
オレの涙を拭ってくれたリツキの手は、身体の脇で握りしめられたまま動かない。
世界中の何よりも、オレを安心させて幸せにしてくれたリツキの腕の中は、もう二度とオレを引き寄せようとしない。
「…そうだな。お前のことは、…もう好きじゃない」
誰か。
誰か、オレを殺して。
いち早くオレに気づいたナツキが飛んできて、ダイブする。
パワフル5歳児め。
リツキを見ると横には寄り添うようにラウラが立っていて、…手をつないでいた。
「あ、…あのさっ」
一瞬凍りついた喉を必死で動かす。
手、つないでるって、なんで?
…なんで。
「リツっ、ちょっと話したいんだけどさっ!」
焦りが空回りして、ムダな大声になる。
「ラウラ、…」
リツキがイタリア語で何かラウラに伝えると、ラウラは頷いて手を離した。
「アイ。今日はボク、ラウラと寝るんだよ」
嬉しそうなナツキの頭を撫でてやりながら、オレの居場所がないって感じた。
リツキと手をつなぐのも、ナツキが無条件に懐いてくるのも、去年の夏までは全部オレだったのに。
「…俺も、お前に話すことがある」
家に入るリツキの家族を見ていたら、リツキの声がした。
それは、まるで死刑宣告みたいだった。
団地横の小さな児童遊園までリツキと歩いた。
リツキはオレの隣に並ばない。
リツキはオレの手を取らない。
…なんで。
「ここでいいか?」
振り向いたリツキの整った顔に、街灯の明かりで影ができる。
2か月ぶりに会って、本当は一番にリツキに飛びつきたかった。
なのに、なんで今、こんなにリツキとの距離が遠いんだろう。
「あのさっ、リツ!」
迫りくる不吉な影を払い落としたくて、精一杯声を張り上げた。
「ネックレス、無くしてごめん!」
潔く、深々と頭を下げた。
「無くしたっていうか、盗られたっていうか、…そのことリツに内緒にして、誤魔化そうとして、本当にごめん!!」
沈黙が、怖くて、リツキが何か言う前に続けた。
「リツが取り戻してくれたって、ヒグチに聞いた。リツ、ありがとう!オレっ、あのネックレス、すごく気に入ってて、すげー大事で、…っ」
言えば言うほど、泣きたくなってきた。
なんでリツキ、何も言わねーの?
なんで、怒ってもくれねーの?
「リ、…っ」
堪らなくなって、顔を上げかけたオレの頭に、リツキの長い指が触れた。
「…産毛、生えてよかったな」
金色のリボンを器用に解いて、リツキの指が、オレの産毛を優しく撫でる。
リツキがくれた金色のリボン。
『お前は俺のものってこと』
なんで…
涙と鼻水が垂れそうで、必死に歯を食いしばった。
「アイ。俺、…ラウラと寝た」
勢い良く顔を上げて見たリツキは、オレが好きなリツキの顔で、ムダに整った甘いマスクで。
「もう、…お前とは付き合えない」
そう告げたリツキの声は、何度となくオレを呼んで、どこまでも意地悪に、どこまでも甘くささやいた声と同じで。
「…じゃあな」
残酷に動くリツキの唇は、オレに数えきれないくらい甘くとろけるキスをしたリツキの唇で。
「…なんで?」
喉の奥が熱くて、くぐもって苦しくて、ひび割れてかすれた声しか出ない。
「オレ、…っ、オレが、ネックレス、無くして、いい子にしてなかったから?」
胸が詰まって、自分が何を言ってるかよくわからない。
頭より先に事態を理解した涙が、勝手に溢れてリツキの顔が霞む。
「…リツ、オレのこと、嫌いになったの?」
いつも。
どんな時でも。
オレの涙を拭ってくれたリツキの手は、身体の脇で握りしめられたまま動かない。
世界中の何よりも、オレを安心させて幸せにしてくれたリツキの腕の中は、もう二度とオレを引き寄せようとしない。
「…そうだな。お前のことは、…もう好きじゃない」
誰か。
誰か、オレを殺して。
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