【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

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「アイ!ただいま~っ」

いち早くオレに気づいたナツキが飛んできて、ダイブする。
パワフル5歳児め。

リツキを見ると横には寄り添うようにラウラが立っていて、…手をつないでいた。

「あ、…あのさっ」

一瞬凍りついた喉を必死で動かす。
手、つないでるって、なんで?
…なんで。

「リツっ、ちょっと話したいんだけどさっ!」

焦りが空回りして、ムダな大声になる。

「ラウラ、…」

リツキがイタリア語で何かラウラに伝えると、ラウラは頷いて手を離した。

「アイ。今日はボク、ラウラと寝るんだよ」

嬉しそうなナツキの頭を撫でてやりながら、オレの居場所がないって感じた。

リツキと手をつなぐのも、ナツキが無条件に懐いてくるのも、去年の夏までは全部オレだったのに。

「…俺も、お前に話すことがある」

家に入るリツキの家族を見ていたら、リツキの声がした。
それは、まるで死刑宣告みたいだった。

団地横の小さな児童遊園までリツキと歩いた。

リツキはオレの隣に並ばない。
リツキはオレの手を取らない。

…なんで。

「ここでいいか?」

振り向いたリツキの整った顔に、街灯の明かりで影ができる。

2か月ぶりに会って、本当は一番にリツキに飛びつきたかった。
なのに、なんで今、こんなにリツキとの距離が遠いんだろう。

「あのさっ、リツ!」

迫りくる不吉な影を払い落としたくて、精一杯声を張り上げた。

「ネックレス、無くしてごめん!」

潔く、深々と頭を下げた。

「無くしたっていうか、盗られたっていうか、…そのことリツに内緒にして、誤魔化そうとして、本当にごめん!!」

沈黙が、怖くて、リツキが何か言う前に続けた。

「リツが取り戻してくれたって、ヒグチに聞いた。リツ、ありがとう!オレっ、あのネックレス、すごく気に入ってて、すげー大事で、…っ」

言えば言うほど、泣きたくなってきた。

なんでリツキ、何も言わねーの?
なんで、怒ってもくれねーの?

「リ、…っ」

堪らなくなって、顔を上げかけたオレの頭に、リツキの長い指が触れた。

「…産毛、生えてよかったな」

金色のリボンを器用に解いて、リツキの指が、オレの産毛を優しく撫でる。
リツキがくれた金色のリボン。
『お前は俺のものってこと』

なんで…

涙と鼻水が垂れそうで、必死に歯を食いしばった。

「アイ。俺、…ラウラと寝た」

勢い良く顔を上げて見たリツキは、オレが好きなリツキの顔で、ムダに整った甘いマスクで。

「もう、…お前とは付き合えない」

そう告げたリツキの声は、何度となくオレを呼んで、どこまでも意地悪に、どこまでも甘くささやいた声と同じで。

「…じゃあな」

残酷に動くリツキの唇は、オレに数えきれないくらい甘くとろけるキスをしたリツキの唇で。

「…なんで?」

喉の奥が熱くて、くぐもって苦しくて、ひび割れてかすれた声しか出ない。

「オレ、…っ、オレが、ネックレス、無くして、いい子にしてなかったから?」

胸が詰まって、自分が何を言ってるかよくわからない。

頭より先に事態を理解した涙が、勝手に溢れてリツキの顔が霞む。

「…リツ、オレのこと、嫌いになったの?」

いつも。
どんな時でも。

オレの涙を拭ってくれたリツキの手は、身体の脇で握りしめられたまま動かない。

世界中の何よりも、オレを安心させて幸せにしてくれたリツキの腕の中は、もう二度とオレを引き寄せようとしない。

「…そうだな。お前のことは、…もう好きじゃない」

誰か。
誰か、オレを殺して。
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