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hage.106
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わずかに形が噛み合わなくて、今更ながらにオレは悟る。
『俺のと対になってる』
慌てて作った偽物でリツキをごまかせるわけなかったんだ。
リツキはピッタリはまる対のネックレスを持っているんだから。
「これ、レオンにもらったってホントか?」
甘くて低いオレの大好きなリツキの声なのに、背筋が凍る。
「あ、…」
後ろめたさでリツキの顔が見れない。
「あのね!リツキくん、これには訳が、…っ」
たまり兼ねたチナツが代わりに弁解してくれようとするのを、リツキは冷たい一瞥で黙らせた。
「…帰るわ」
「リツっ!待ってっ」
このままリツキを帰らせたらマズイことくらい、オレにだってわかる。
向けられた背中に必死でしがみついた。
「…離せ」
リツキの声が、ぞっとするほど冷たくて、指先が凍って、…
オレの腕をすり抜けて、リツキが出て行った。
「アイ、追いかけなよ!リツキくん、誤解してる!これじゃ西本ミクの思うままだよ」
頭では、チナツの言うとおりだって分かってる。
でも足が動かない。
リツキの冷たい拒絶に全身が凍りついて、
「…チナツ、オレ、…」
手も足も、心臓さえも、もう動かせないような気がした。
「アイ、大丈夫だよ。リツキくんなら、アイのこと分かってくれる。西本ミクからネックレス取り返して、ちゃんと謝りな」
チナツが優しくオレを諭す。
チナツの言葉だけが、今のオレを動かす全てだった。
リツキ、空港からここに直接来たのかな。
最初にオレに、会いに来てくれたのかな。
そう思ったら、どんなに冷たく拒絶されても、いじけてる場合じゃねーって思いが込み上げてきた。
足に気合いを入れた。
でも戻ると、ニシモトと早乙女先輩は帰った後で、リツキもとっくに姿を消していた。
「本当に申し訳ありませんでした!!」
仕事上がりに再度、深々と頭を下げた。
店長とヒグチがニシモトをとりなして、頬を冷やした後、勘定も無しにしてお詫びのデザートを持ち帰らせたらしい。
「アイちゃんをあそこまで怒らせるようなことを、あの子がしたんでしょう」
店長はオレをクビにしてもイイのに、そう言って穏和に笑った。
「まあ、でも、手を出すのはやめた方がいいね。どうしたって、こっちが悪くなるから」
笑って手を振る店長にお礼を言って、チナツとタケダと別れた後、ヒグチと帰った。
「…本多くんが」
沈黙のまま歩いた後、ヒグチがぽつりとつぶやいた。
「アイちゃんの仇は打ったと思うよ」
え?
「あの子、本多くんに何か言われて、青ざめてた。彼氏の方は彼女をかばってたけど、…なんとなく事情分かったんじゃないかなぁ」
リツキが?
「あの子がしてたネックレスのせいなんでしょ?多分、本多くんが取り返してるよ」
ヒグチを見ると、優しく笑っていた。
「離れてても、分かってるんだね、本多くん。付けいる隙、全くないよねぇ」
「ヒグチ!オレ、…っ」
胸に熱いものが込み上げてきて、居ても立っても居られなくなった。
「まあ、仲良くね~」
手を振るヒグチに礼を言って、駆け出した。
リツキ。
オレ、全然イイ子じゃなかったけど、やり直させて。
おかえりって、もう一度迎えさせて。
それで、ネックレスのこと、謝って、いっぱい謝って、それで、…
団地に着いた時には息が切れていた。
辺りはすっかり暗くなり、オレの吐く息が白く立ち昇る。
リツキの家に向かおうと息を整えた時、
「あ、アイ~」
リツキの家族が外階段を降りてきた。
「おかえり~、リツとラウラとごはん食べに行くんだよ」
無邪気に笑うナツキの手は、ブロンド美女の手につながれ、その横に立つリツキの腕には、美女の腕が絡められていた。
イタリアの美女ラウラが、当然のようにリツキの隣で、悠然と微笑んでいた。
『俺のと対になってる』
慌てて作った偽物でリツキをごまかせるわけなかったんだ。
リツキはピッタリはまる対のネックレスを持っているんだから。
「これ、レオンにもらったってホントか?」
甘くて低いオレの大好きなリツキの声なのに、背筋が凍る。
「あ、…」
後ろめたさでリツキの顔が見れない。
「あのね!リツキくん、これには訳が、…っ」
たまり兼ねたチナツが代わりに弁解してくれようとするのを、リツキは冷たい一瞥で黙らせた。
「…帰るわ」
「リツっ!待ってっ」
このままリツキを帰らせたらマズイことくらい、オレにだってわかる。
向けられた背中に必死でしがみついた。
「…離せ」
リツキの声が、ぞっとするほど冷たくて、指先が凍って、…
オレの腕をすり抜けて、リツキが出て行った。
「アイ、追いかけなよ!リツキくん、誤解してる!これじゃ西本ミクの思うままだよ」
頭では、チナツの言うとおりだって分かってる。
でも足が動かない。
リツキの冷たい拒絶に全身が凍りついて、
「…チナツ、オレ、…」
手も足も、心臓さえも、もう動かせないような気がした。
「アイ、大丈夫だよ。リツキくんなら、アイのこと分かってくれる。西本ミクからネックレス取り返して、ちゃんと謝りな」
チナツが優しくオレを諭す。
チナツの言葉だけが、今のオレを動かす全てだった。
リツキ、空港からここに直接来たのかな。
最初にオレに、会いに来てくれたのかな。
そう思ったら、どんなに冷たく拒絶されても、いじけてる場合じゃねーって思いが込み上げてきた。
足に気合いを入れた。
でも戻ると、ニシモトと早乙女先輩は帰った後で、リツキもとっくに姿を消していた。
「本当に申し訳ありませんでした!!」
仕事上がりに再度、深々と頭を下げた。
店長とヒグチがニシモトをとりなして、頬を冷やした後、勘定も無しにしてお詫びのデザートを持ち帰らせたらしい。
「アイちゃんをあそこまで怒らせるようなことを、あの子がしたんでしょう」
店長はオレをクビにしてもイイのに、そう言って穏和に笑った。
「まあ、でも、手を出すのはやめた方がいいね。どうしたって、こっちが悪くなるから」
笑って手を振る店長にお礼を言って、チナツとタケダと別れた後、ヒグチと帰った。
「…本多くんが」
沈黙のまま歩いた後、ヒグチがぽつりとつぶやいた。
「アイちゃんの仇は打ったと思うよ」
え?
「あの子、本多くんに何か言われて、青ざめてた。彼氏の方は彼女をかばってたけど、…なんとなく事情分かったんじゃないかなぁ」
リツキが?
「あの子がしてたネックレスのせいなんでしょ?多分、本多くんが取り返してるよ」
ヒグチを見ると、優しく笑っていた。
「離れてても、分かってるんだね、本多くん。付けいる隙、全くないよねぇ」
「ヒグチ!オレ、…っ」
胸に熱いものが込み上げてきて、居ても立っても居られなくなった。
「まあ、仲良くね~」
手を振るヒグチに礼を言って、駆け出した。
リツキ。
オレ、全然イイ子じゃなかったけど、やり直させて。
おかえりって、もう一度迎えさせて。
それで、ネックレスのこと、謝って、いっぱい謝って、それで、…
団地に着いた時には息が切れていた。
辺りはすっかり暗くなり、オレの吐く息が白く立ち昇る。
リツキの家に向かおうと息を整えた時、
「あ、アイ~」
リツキの家族が外階段を降りてきた。
「おかえり~、リツとラウラとごはん食べに行くんだよ」
無邪気に笑うナツキの手は、ブロンド美女の手につながれ、その横に立つリツキの腕には、美女の腕が絡められていた。
イタリアの美女ラウラが、当然のようにリツキの隣で、悠然と微笑んでいた。
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