【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

remo

文字の大きさ
上 下
104 / 118

hage.104

しおりを挟む
キエザの冬は、厳しいとは言わないまでも、底冷えするような寒さの日が続く。
長く残ることは珍しいが雪も降るし、霜が降りたり、霧が発生する日も多い。
そんな冬がようやく終わりに近づいてきた、ある日のこと。

「クラリーチェ、戻ったぞ」

慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと、執務室の扉が開け放たれ、エドアルドが姿を現した。

「お帰りなさいませ。港の様子はいかがでしたか?」

クラリーチェは立ち上がり、机の前まで進み出ると夫を出迎えた。

「ああ、特に問題はなかった。メルルッツォが今期は豊漁だそうだ」
「それは喜ばしいことですね」

クラリーチェが微笑むと、エドアルドもそれにつられるように笑みを浮かべる。
そして徐に、羽織っていたマントの下から小さな花束を取り出すと、クラリーチェに差し出した。

「………港からの帰り道で、たまたま見つけたのだが………受け取ってくれるか?」
「まあ………これは、ミモザの花束ですか?」

差し出された花束を受け取りながら、クラリーチェは目を見開いた。
黄色い小さな綿毛のような小花が、オリーヴの葉と共に水色のリボンで束ねられていた。

「ああ。港の入り口にある花屋の店先で見かけて、たまには花の贈り物も良いだろうと思ったのだ。………その花屋の店主から教えてもらったのだが………ミモザの花言葉は『感謝』なのだそうだ。いつも私を隣で支えてくれる素晴らしい妃に、感謝の気持ちを伝えるには丁度いいだろう?」
「感謝だなんて………私がエドアルド様をお支えするのは、当然の事ですわ。だって、夫婦とはそういうものでしょう?でも………ありがとうございます。嬉しいですわ。………まるでここだけ、春がやってきたような華やかさがありますね」

クラリーチェがすうっと息を吸い込むと、ミモザの優しくて甘い香りが鼻孔を擽った。
それだけで、本当に南風が室内を吹き抜けていくような錯覚に囚われた。

「ミモザは春の訪れを告げる花だからな。机に飾っておけば楽しめるだろう」

可愛らしい、たわわに実る黄色い葡萄のような花を愛おしげに見つめるクラリーチェの反応に、エドアルドは満足そうに笑みを零す。

「………春は、もうすぐそこまで来ているのですね」
「ああ。暖かくなったら、また出掛けよう。今度はラファエロ達も一緒でもいい」
「でも、政務はどうされるのですか?」
「二、三日くらいなら、宰相やグロッシ侯爵たちで十分だ。我が国の貴族達は皆有能だからな」

そう言って悪戯っぽく片目を瞑って見せるエドアルドに、クラリーチェも笑顔を浮かべて頷いた。

「そうですね。春が来たら、参りましょうか」

クラリーチェがふと花束から、窓の方へと視線を移す。
大きな窓から差し込む陽射しは、いつの間にか柔らかな春の気配を纏っているように見える。

「ああ。楽しみだな」

エドアルドはそんなクラリーチェに寄り添うと、優しく額に口付けを落とすのだった。




***あとがき***

いつもお読みいただきありがとうございます!
今日は国際女性デー。イタリアでは男性から女性に、ミモザを贈る日なのだそうです。
作者も大好きな花であるミモザをテーマにしたお話です。
お楽しみ頂ければ嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ダニエルとロジィ〈翼を見つけた少年たち〉 ~アカシック・ギフト・ストーリー~

花房こはる
青春
「アカシック・ギフト・ストーリー」シリーズ第6弾。 これは、実際の人の過去世(前世)を一つのストーリーとして綴った物語です。 ロジィが10歳を迎えた年、長年、病いのため臥せっていた母親が天に召された。 父親は町の有名な貴族の執事の一人として働いており、家に帰れない日も多々あった。 そのため、父親が執事として仕えている貴族から、ロジィを知り合いの所で住み込みで働かせてみないか?しっかりした侯爵の家系なので安心だ。という誘いにロジィを一人っきりにさせるよりはと、その提案を受け入れた。 数日後、色とりどりのはなふぁ咲き誇るイングリッシュガーデンのその先にある大きな屋敷の扉の前にいた。 ここで、ロジィの新たな生活、そして、かけがえのない人物との新たな出会いが始まった。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

聖なる夜に、愛を___

美鳥羽
青春
12月24日、クリスマスイブの夜に生まれたことから名付けられた、川上聖夜(かわかみせいや)は、中2の春、転校した。 生まれつき、スポーツ万能で、運動神経や筋肉、持久力、五感が優れている。 それと引き換えなのか、生まれつき人と違う部分があった___。 それが原因で、本当は大好きな体育の授業に、出られなくなってしまった____。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

処理中です...