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hage.90

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他の誰かのところに行くけど、…帰ってくる、ってことなのか。

「アイ~、ごはん出来たってよ~」
「…いらない」

自分の声が震えていた。

「なによぅ。具合でも悪いの?レオン様も待ってるのに」

ハナクソがぶーぶー言ってるけど、答える元気がなかった。
いつの間にレオンが来てたんだか、気づきもしなかった。

『アイ先輩にはレオン様がいるから、…』

リツキが他の誰かとキスしてたとしても、新しい恋人を作っていたとしても、オレには責める資格なんかない。

オレだってレオンと。
だけど。

だけど、胸が痛い。胸が苦しい。
だけど、どうしても、涙が出る。

『一人で泣くなよ』

リツキの手が欲しい。

『俺はお前だけだから。不安になるなよ』

今すぐリツキに抱きしめて欲しい。

マシュマロニシモトの言うことなんか、ウソに決まってんだろって、いつもみたいにイジワルな顔で、優しいキスをして欲しい。

布団にくるまって丸まっていたら、急にスマホが振動してビビる。

『今週のハゲカッパは?』

そのメールを見たら、涙が止まらなくなってしまった。
リツキのカッパメールが、世界一大事に思えた。

リツキ。

心変わりなんて、してないよな。
浮気も本気もないよな。

オレがカッパになっても、
リツキは変わらないよな。

いつしか、スマホを握りしめたまま、眠ってしまったらしい。

誰かが、オレの髪をなでている。

優しい手。…リツキの手。
オレ、リツキに触られるの、好きなんだ。

「アイ、…」

やっぱり、ニシモトの言うことなんて、ウソだよな。

「泣かないで」

だってリツキは、ここにいるし。

安心して、笑ったつもりが、しゃくりあげたみたいになった。

オレの髪をなでる優しい手が、本当はリツキの手じゃないって、どこかで気づいていたのかもしれない。



なんとなく、ハゲがムズムズして目が覚めた。
ハゲを掻くのは厳禁らしいから、危ないところだった。

…って。

抱きしめられてるっ?!

「…ん」

オレが焦って仰け反ったら、オレを抱きしめてる腕の主が目を開けて、きれいな微笑みを見せた。

「起きた?アイ」

澄んだ碧い瞳。

「…レオン」

ごめんな、レオン。
オレ、ほんの少しだけ、リツキのこと、思い浮かべてたんだ。

溶けそうに熱かった、リツキの腕の中。

あの腕の中に、今は別の誰かがいるなんて、考えたくも、ねーな…

「おはよう」

レオンがオレの額に口づけて、オレの髪をなでる。

我に返って確認すると、レオンはバッチリ服を着てるし、オレは未だ制服姿だった。

ちなみにここは、オレんちの狭い2段ベッドの中。

「アイを抱いて眠っただけだよ」

オレの考えはお見通しらしい。
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