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hage.89
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「…白雪姫。神があなたを眠らせたなら、私も共に眠りに就こう」
文化祭、当日。
舞台上でスポットライトを一身に浴びるレオンは、『ザ・王子』そのもので、女子生徒はもちろん、観客の老若男女全てから羨望の眼差しを送られていた。
そんなキラキラしたレオンを見ながら、オレはなぜか、なかよし保育園、スミレ組の学芸会を思い出す。
セリフとか全然違うけど、あの時も確か白雪姫をやって。
なんでかリツキが白雪で。オレが王子で。
リツキにキスするフリをするのにテンパって、
ホントに…
あん時、リツキに初めてキスしたんじゃねーのかなぁ。
「愛しています。あなただけを。たとえ、あなたが誰を想っていようと」
気づいたら、レオンのドアップが目の前にあった。
うお。
のけぞる隙もなく、
「アイが好きだよ」
耳元で優しくレオンがささやいて、観客がかたずをのんで見守る中、王子は完璧にきれいなキスを落とした。
レオンのキスが優しすぎて泣きたくなった。
リツキのこと、考えてたのに。
なんでレオンは、こんなオレに優しいんだ。
オレが目を開けると、レオンの優しい笑顔があって、
「目覚められたのですね、愛しの白雪!」
レオンに抱きしめられながら紙ふぶきを浴びた。
観客の拍手喝さいがなんだか妙に切なかった。
「…純粋にアイがうらやましくなっちゃったな」
文化祭のステージ終了後、チナツに言われた。
「レオン王子、本当にアイのこと、好きなんだね」
オレだって。
オレだって、レオンのことは好きだし、感謝もしてる。
でも。
気持ちに応えられない以上、このままってわけにいかない。
来月の修学旅行前に、もう一度ちゃんとレオンと話そう、って決めた。
なのに。
「アイ先輩。レオン様とご婚約おめでとうございます。リツキ先輩も祝福されてましたよ」
久々に寄って来たマシュマロニシモトが、オレを一気に叩きのめした。
リツキがブロンド美人と親しげに顔を寄せ合って笑っている。
美人の頭に手を乗せて、オレにしてたみたいに撫でている。
リツキが美人を抱きしめて、耳元で何かささやいている。
美人がリツキの頬にキスして、リツキが照れたみたいに笑っている。
リツキが美人の頬に手を置いて、2人でキスしてる。
自室の2段ベッドで、頭から布団をかぶった。
『秋の連休に、イタリアに行ったんです。リツキ先輩、待ってるって言ってくれて』
ニシモトの声がよみがえる。
『待つカッパ』って、オレだけってわけじゃなかったんだな。
『リツキ先輩、すごく歓迎してくれました!学校とか街とか案内してくれて、仲間の皆さんに、fidanzata(彼女)って言われちゃって。リツキ先輩否定しないから、ラウラさんに睨まれちゃいました』
ニシモトはそこで楽しそうな笑みを浮かべた。
『ラウラさん。リツキ先輩の恋人なんですって。イタリアにいる間の』
ニシモトから見せられたリツキと美女が親しげに写る数々の写真。
『情熱の国って感じなのかなぁ。すごくアツアツで妬けちゃいました』
ニシモトの言葉は耳をすり抜けていく。
ほんの少ししか離れてなかったのに、リツキが別人みたいに見えた。
ムダにかっこいいのは変わらないけど、ちょっと日に焼けて、全身が更に引き締まって、オレの知らないリツキみたいに見えた。
『リツキ先輩も、悪いオトコですよね。一時の恋って思ってるから、余計盛り上がってるみたいで』
あんなにリツキに会いたかったのに。
『浮気が本気にならないといいですね。あ、でも。アイ先輩にはレオン様がいるから、もう関係ないか』
もう、会いたいのか、わかんねー。
いつニシモトがいなくなったのか、どうやって家まで帰ってきたのか、記憶がねー。
布団をかぶっているのに、寒い。
『お前のところに帰ってくるから、…』
帰ってくる、って。
そういう意味か?
文化祭、当日。
舞台上でスポットライトを一身に浴びるレオンは、『ザ・王子』そのもので、女子生徒はもちろん、観客の老若男女全てから羨望の眼差しを送られていた。
そんなキラキラしたレオンを見ながら、オレはなぜか、なかよし保育園、スミレ組の学芸会を思い出す。
セリフとか全然違うけど、あの時も確か白雪姫をやって。
なんでかリツキが白雪で。オレが王子で。
リツキにキスするフリをするのにテンパって、
ホントに…
あん時、リツキに初めてキスしたんじゃねーのかなぁ。
「愛しています。あなただけを。たとえ、あなたが誰を想っていようと」
気づいたら、レオンのドアップが目の前にあった。
うお。
のけぞる隙もなく、
「アイが好きだよ」
耳元で優しくレオンがささやいて、観客がかたずをのんで見守る中、王子は完璧にきれいなキスを落とした。
レオンのキスが優しすぎて泣きたくなった。
リツキのこと、考えてたのに。
なんでレオンは、こんなオレに優しいんだ。
オレが目を開けると、レオンの優しい笑顔があって、
「目覚められたのですね、愛しの白雪!」
レオンに抱きしめられながら紙ふぶきを浴びた。
観客の拍手喝さいがなんだか妙に切なかった。
「…純粋にアイがうらやましくなっちゃったな」
文化祭のステージ終了後、チナツに言われた。
「レオン王子、本当にアイのこと、好きなんだね」
オレだって。
オレだって、レオンのことは好きだし、感謝もしてる。
でも。
気持ちに応えられない以上、このままってわけにいかない。
来月の修学旅行前に、もう一度ちゃんとレオンと話そう、って決めた。
なのに。
「アイ先輩。レオン様とご婚約おめでとうございます。リツキ先輩も祝福されてましたよ」
久々に寄って来たマシュマロニシモトが、オレを一気に叩きのめした。
リツキがブロンド美人と親しげに顔を寄せ合って笑っている。
美人の頭に手を乗せて、オレにしてたみたいに撫でている。
リツキが美人を抱きしめて、耳元で何かささやいている。
美人がリツキの頬にキスして、リツキが照れたみたいに笑っている。
リツキが美人の頬に手を置いて、2人でキスしてる。
自室の2段ベッドで、頭から布団をかぶった。
『秋の連休に、イタリアに行ったんです。リツキ先輩、待ってるって言ってくれて』
ニシモトの声がよみがえる。
『待つカッパ』って、オレだけってわけじゃなかったんだな。
『リツキ先輩、すごく歓迎してくれました!学校とか街とか案内してくれて、仲間の皆さんに、fidanzata(彼女)って言われちゃって。リツキ先輩否定しないから、ラウラさんに睨まれちゃいました』
ニシモトはそこで楽しそうな笑みを浮かべた。
『ラウラさん。リツキ先輩の恋人なんですって。イタリアにいる間の』
ニシモトから見せられたリツキと美女が親しげに写る数々の写真。
『情熱の国って感じなのかなぁ。すごくアツアツで妬けちゃいました』
ニシモトの言葉は耳をすり抜けていく。
ほんの少ししか離れてなかったのに、リツキが別人みたいに見えた。
ムダにかっこいいのは変わらないけど、ちょっと日に焼けて、全身が更に引き締まって、オレの知らないリツキみたいに見えた。
『リツキ先輩も、悪いオトコですよね。一時の恋って思ってるから、余計盛り上がってるみたいで』
あんなにリツキに会いたかったのに。
『浮気が本気にならないといいですね。あ、でも。アイ先輩にはレオン様がいるから、もう関係ないか』
もう、会いたいのか、わかんねー。
いつニシモトがいなくなったのか、どうやって家まで帰ってきたのか、記憶がねー。
布団をかぶっているのに、寒い。
『お前のところに帰ってくるから、…』
帰ってくる、って。
そういう意味か?
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