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hage.86

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『お前のところに帰ってくるから。…待ってて』

意地悪で口も悪くてエロくて女の子をはべらせてて、…

『…愛してる』

オレのハゲを鼻で笑って、信じられないくらい優しくオレに触れる、
リツキ。

オレはリツキが好きだから。

「だって、リツキはアイを捨てて行っちゃったじゃない」
「このまま帰ってこないかもしれないし」
「あっちでハーレム作ってるかもしれないし」
「無職だし」

おい、ハナクソ。
こないだまで「結納」とか「孫」とか浮かれてなかったか?

「オレがどんなにレオちゃんを好きだったとしても、レオンはただの友だちだから」

ハナクソ母子にくっきりはっきりくぎを刺してから、玄関を出る。

「…ふうん」

と、そこにはレオンが待ち構えていて、

「俺とアイは友だちじゃないよ?恋人で婚約者で運命の相手だよ」

言うなり、素早くオレを抱き寄せると有無を言わせずキスをした。

息をするのも許さないような、強引で、咎めるような、戒めるようなキス。
レオンの舌が、オレを征服する。

色白で細身な外見からは想像も出来ないくらい強い力で、オレを団地の壁に押しつけて、身体全体で固定して、貪るように口内を侵食する。
何度も。繰り返し。

「…やっ、…め…っ」

怖いくらいレオンが本気なのがわかる。

だけど。

「…っつ!」

レオンがオレの抵抗を許さないから、必死で噛みついたら、やっと止めた。

至近距離にあるレオンの整った顔が、悲しみに歪んでいる。
オレを見るレオンの碧い瞳が痛みに揺れている。

「…どうして?アイ」

レオンがオレの髪に指を通し、愛おしむようにそっとなでる。

「オレ、…リツキが好きなんだ」

言ったら、急激に寂しさが立ち昇ってきた。
なんでいないんだよ、リツキ。
なんで。
ろくにメールも電話もくれねーんだよ…

「そんなの、…」

レオンがオレの背中に腕を回して優しく抱きしめる。

「そんなの、俺が、忘れさせる。俺にはアイだけだ。今までも、これからも」

レオンの腕の中が切なくて、泣きたくなる。

10年以上、見ることも、話すこともなくて、それでもずっと想ってたっていうのか?

オレは、たった1か月、リツキと離れただけで、もうこんなに寂しくて、アイツのこと忘れそうで怖くて、不安で、どうにもならなくなってるっていうのに。

「…愛してる、アイ」

涙が出た。

1か月前、リツキの腕の中で聞いた言葉を、今、別のヤツに抱かれて聞いてる自分が、信じられなくて。

「オレ、…」

レオンに言うべき言葉が見つからない、自分が情けねー。

「大丈夫だよ、アイ。これからはずっと俺がそばにいるから」

レオンが慰めるようにオレの頭をなでるから、自分が世界一最低な人間に思えてくる。

だって、オレ。リツキに会いたい。
リツキに抱きしめてほしいよ…
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