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hage.78
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「先生、すみません」
がたっ
じっと後姿を見つめていたら、リツキがいきなり立ち上がったから、ビビッてオレまで立ち上がってしまった。
…やらかした。
「古町さんの様子が明らかにおかしいので、保健室に連れていきます」
え。
あんまりきっぱりした態度に静まり返った教室の中で、リツキがさっさとオレの手を引いて出口に向かう。
「…ひゅ、…ひゅーひゅー」
「だから、寒いですって先生」
「え。…ハゲだから?」
突然のことにまんまとリツキに着いて教室を出てしまったけど、オレは今、リツキと話したくねー。
何、言っていいかわかんねーし。
「保健室行くんじゃねーのかよ」
リツキがさぼりの王道、屋上のドアを開けるから、なんか噛みつきたくなった。
「お前の病気は保健室じゃ治んないだろ」
リツキは壁に寄りかかるように座ると、オレを自分の脚の間に入れた。
そっと包み込むように、リツキが後ろからオレを抱きしめる。
「…ごめんな」
クソ。
今、リツキに近づかれたら、また泣きたくなる。
先に謝られたら、何にも言えなくなる。
リツキはオレに頬をすり寄せて、しばらくじっとしていた。
それからおもむろに、低いけど、きっぱりした声で、
「…アイ。俺、イタリアに行こうと思う」
オレに決定的な一言を告げた。
奥歯を強く噛み締めて、これでもかってくらい歯を食いしばったのに、目が潤む。
せめて涙が落ちないように、きつく目をつむった。
「恭に、聞いたんだよな。サッカー留学の話。迷ってたんだけど、やっぱりせっかくのチャンスだから、行こうと思うんだ」
リツキがゆっくりと言い聞かせるように話す。
オレにも自分にも。
「夏休みに入ったら、早いうちに出発して、向こうで1年、過ごす予定」
生まれた時から、三戸どなりに住んでいて、保育園から、小中高までずっと一緒。
3日リツキを見ないなんて、そうそう、ないくらい。
飽きるくらい、そばにいて。
そばにいることが、当たり前で。
リツキに会えない1年なんて、まるで想像できねーよ…
「…アイ」
リツキが唐突にオレの向きを変えるから、溜まった涙をどうにかする隙もなく、そのままリツキに向き合ってしまった。
リツキが切なそうに瞳を揺らして、オレの頭を自分の胸に押し付けた。
窒息しそうなほど、もうこれ以上近づけないくらい、強く強くリツキに抱きしめられて、
「ごめん。…待ってて」
耳元で告げられた言葉に、耐えきれなくて、涙が落ちた。
世界中で誰よりも、リツキのそばにいるって思ったばかりだったのに、もうこんな風にリツキの鼓動も、リツキの匂いも、リツキの温かさも、感じられないくらい離れるなんて、
…やっぱり、想像もできねーよ。
がたっ
じっと後姿を見つめていたら、リツキがいきなり立ち上がったから、ビビッてオレまで立ち上がってしまった。
…やらかした。
「古町さんの様子が明らかにおかしいので、保健室に連れていきます」
え。
あんまりきっぱりした態度に静まり返った教室の中で、リツキがさっさとオレの手を引いて出口に向かう。
「…ひゅ、…ひゅーひゅー」
「だから、寒いですって先生」
「え。…ハゲだから?」
突然のことにまんまとリツキに着いて教室を出てしまったけど、オレは今、リツキと話したくねー。
何、言っていいかわかんねーし。
「保健室行くんじゃねーのかよ」
リツキがさぼりの王道、屋上のドアを開けるから、なんか噛みつきたくなった。
「お前の病気は保健室じゃ治んないだろ」
リツキは壁に寄りかかるように座ると、オレを自分の脚の間に入れた。
そっと包み込むように、リツキが後ろからオレを抱きしめる。
「…ごめんな」
クソ。
今、リツキに近づかれたら、また泣きたくなる。
先に謝られたら、何にも言えなくなる。
リツキはオレに頬をすり寄せて、しばらくじっとしていた。
それからおもむろに、低いけど、きっぱりした声で、
「…アイ。俺、イタリアに行こうと思う」
オレに決定的な一言を告げた。
奥歯を強く噛み締めて、これでもかってくらい歯を食いしばったのに、目が潤む。
せめて涙が落ちないように、きつく目をつむった。
「恭に、聞いたんだよな。サッカー留学の話。迷ってたんだけど、やっぱりせっかくのチャンスだから、行こうと思うんだ」
リツキがゆっくりと言い聞かせるように話す。
オレにも自分にも。
「夏休みに入ったら、早いうちに出発して、向こうで1年、過ごす予定」
生まれた時から、三戸どなりに住んでいて、保育園から、小中高までずっと一緒。
3日リツキを見ないなんて、そうそう、ないくらい。
飽きるくらい、そばにいて。
そばにいることが、当たり前で。
リツキに会えない1年なんて、まるで想像できねーよ…
「…アイ」
リツキが唐突にオレの向きを変えるから、溜まった涙をどうにかする隙もなく、そのままリツキに向き合ってしまった。
リツキが切なそうに瞳を揺らして、オレの頭を自分の胸に押し付けた。
窒息しそうなほど、もうこれ以上近づけないくらい、強く強くリツキに抱きしめられて、
「ごめん。…待ってて」
耳元で告げられた言葉に、耐えきれなくて、涙が落ちた。
世界中で誰よりも、リツキのそばにいるって思ったばかりだったのに、もうこんな風にリツキの鼓動も、リツキの匂いも、リツキの温かさも、感じられないくらい離れるなんて、
…やっぱり、想像もできねーよ。
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