【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

remo

文字の大きさ
上 下
72 / 118

hage.72

しおりを挟む
ネオンがやたら眩しい街の中で、大勢の人が羽目を外しながら週末の夜を楽しんでいる。

髪を輝かせて、肌を露出して、大声で歌ったり、踊ったり、酔っぱらったり。

一人になりたくなくて、人がたくさんいるところをさまよったけど、声をかけてくるのはセールスかナンパか、いかにも怪しい連中ばかりで、よけいに孤独を感じただけだった。

まあ、泣き腫らして顔中涙と鼻水でぐちゃぐちゃのハゲなんて、誰も関わりたくねーか。

歩き疲れて、どっかの店の階段に座り込んだ。

これ見よがしにイチャつくカップルを見ても、やたらはじけてる集団を見ても、妙に白々しい感じがした。

オレってホントに、ハゲたカピバラだったんだな。
ナツキの抱き枕と、おんなじ、…

そろえた膝の上に額をつける。

泣きすぎて目の周りもほっぺたもヒリヒリするのに、壊れた水道管みたいに涙が止まらないなんて、

…滑稽だ。

「…おもちゃ、って、カノジョって、…意味だって」

街の喧騒の中で、オレのつぶやきは塵ほどの価値もない。

「好き、…だって」

自分の声じゃないみたいに、弱弱しくて、頼りなくて、消え入りそうだった。

そりゃ引くわ。
簡単にその気になって、好きとか言いに行って、浮かれて美容院なんか行って、また一緒に寝たいとか、…

なんでオレじゃダメなの?

カワシマとか、両腕にぶら下げて歩いてたたくさんのオンナノコとか、過去にヤってたヤツラは良くて、

なんでオレはダメなの?

そりゃオレは色気とか無縁で、胸もねーし、可愛くねーし、スキルもねーけど。

だけど。

リツキの一番近くで、リツキのこと、感じたいって。
思ったんだよ。

「…アイちゃん?」

誰かがオレの名前を呼んで、オレの頭に手をのせた。
顔は伏せたまま、目だけでうかがい見ると、バイト仲間の樋口タクがいた。




「雨降ってきたからさ、とにかく雨宿りしよう」

ヒグチに会ってから、何がどうなったんだかあんまり記憶がねーけど、多分オレは、いわゆる、その。

つまり、なんつーか。

「はい。泣いてたしシャワーしたし、のど渇いたでしょ?」

でっかいベッドの上、バスローブ姿でヒグチと並んで座っている。

「…りがと」

ヒグチが冷蔵庫から出してくれた缶ジュースに口をつける。
ヒグチの言う通り、オレの身体は水分を欲していたらしく、一気に半分以上飲み干してしまった。

「朝には、服も乾くし、送っていくから心配しないで」

「…ん」

朝のことは別に心配してなくて、どっちか言ったら、今この状況の方が心配なわけで。

「大丈夫だよ。俺、優しいから」

ヒグチが生乾きのオレの髪をなでる。

『アイ。優しくするから、上に行こうぜ』

…なんで今、そんなこと、思い出すかな。

『アイ、抱かせて』
『俺に、お前の匂い、つけて』

リツキ。

『このまま、アイを一晩中、抱いて寝る』

リツキ。

オレ、なんかお前をがっかりさせるようなこと、した?

涙が溜まると目の下にヒリヒリしみる。
零れ落ちると頬にしみる。

奥歯をかみしめて、缶ジュースの残りを一気にあおった。
身体が熱くなって、頭の芯がぼうっとした。

「もっと、飲む?」
「…うん」

もういいや。もう。
もともとバカだし、難しいこと考えられねーし。

2缶目のジュースを飲んでいる間、ヒグチは優しくオレの髪をなでていて、何も聞いてこなかった。

だんだん、身体も頭もふわふわしてきた。

「ははっ、…」

いつまでも止まらない涙がおかしくて笑える。
いつの間にか視界が揺れている。
変なの、この部屋、壁がゆがんでる。

「アイちゃん」

ヒグチがオレの頭を引き寄せた。

おっかしーよな?
リツキ、オレとヤるの、嫌なんだってさ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

聖なる夜に、愛を___

美鳥羽
青春
12月24日、クリスマスイブの夜に生まれたことから名付けられた、川上聖夜(かわかみせいや)は、中2の春、転校した。 生まれつき、スポーツ万能で、運動神経や筋肉、持久力、五感が優れている。 それと引き換えなのか、生まれつき人と違う部分があった___。 それが原因で、本当は大好きな体育の授業に、出られなくなってしまった____。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ
青春
朱夏(あけなつ)学院中等部。 3年生の十三沢学(とみさわ・がく)は、部活の練習中にけがを負い、治療後も意気消沈したままバドミントン部を退部する。 その後放課後の空いた時間に図書室通いを始めるようになるが、司書の松喜(まつき)から、図書室の常連である原口友香(はらぐち・ともか)の忘れ物を彼女に渡すように頼まれる。 A5サイズの日記帳のようなノートで、松喜からは「中を読まないように」と釘をさされたが、好奇心からつい開いてしまう学。そこに書かれていたのは、痛々しい原口の心の叫びの数々だった。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

ガイアセイバーズ spin-off -T大理学部生の波乱-

独楽 悠
青春
優秀な若い頭脳が集う都内の旧帝大へ、新入生として足を踏み入れた川崎 諒。 国内最高峰の大学に入学したものの、目的も展望もあまり描けておらずモチベーションが冷めていたが、入学式で式場中の注目を集める美青年・髙城 蒼矢と鮮烈な出会いをする。 席が隣のよしみで言葉を交わす機会を得たが、それだけに留まらず、同じく意気投合した沖本 啓介をはじめクラスメイトの理学部生たちも巻き込んで、目立ち過ぎる蒼矢にまつわるひと騒動に巻き込まれていく―― およそ1年半前の大学入学当初、蒼矢と川崎&沖本との出会いを、川崎視点で追った話。 ※大学生の日常ものです。ヒーロー要素、ファンタジー要素はありません。 ◆更新日時・間隔…2023/7/28から、20:40に毎日更新(第2話以降は1ページずつ更新) ◆注意事項 ・ナンバリング作品群『ガイアセイバーズ』のスピンオフ作品になります。 時系列はメインストーリーから1年半ほど過去の話になります。 ・作品群『ガイアセイバーズ』のいち作品となりますが、メインテーマであるヒーロー要素,ファンタジー要素はありません。また、他作品との関連性はほぼありません。 他作からの予備知識が無くても今作単体でお楽しみ頂けますが、他ナンバリング作品へお目通し頂けていますとより詳細な背景をご理頂いた上でお読み頂けます。 ・年齢制限指定はありません。他作品はあらかた年齢制限有ですので、お読みの際はご注意下さい。

アネモネをきみに

雨月黛狼
青春
耳が聴こえない男の子と目が見えない女の子はどうやって思いを伝えあうか 桜並木を音無く歩く。 耳が聴こえない主人公の水瀬歩は夕陽が照らすひとつの高級車に目が留まった。 スモークガラスで中が見えない中、突然、ドアが開く。 不思議な少女を前にする。 希望や絶望、喜怒哀楽を感じられない瞳に歩は惹かれた。 その虚無に恋をした。 コミュニケーションを取ろうとするが、一向に伝わらない。 彼女は盲目だった。 手話やボディランゲージでしかコミュニケーションを取ることしかできない歩は思いを伝えられず、そのまま少女は去って行ってしまった。 新学期が始まると、転校生としてその少女がやってきた。 再びコミュニケーションを取ろうとするが、かえって警戒され拒絶されてしまう。 絶望の最中ーー少女とコミュニケーションを取る方法を見つける。 コミュニケーションを通してお互いのことを理解し、共感し、ともに挑戦し体験する。 お互いの気持ちが強まる一方で、ある事件が起こる。 聴こえない、見えない。 それでも気持ちを伝えるにはどうすればいいか。 歩は模索し、少女に想いを伝える。 耳が聴こえない主人公と目が見えないヒロインとの人間ドラマを書かせていただきました。 扱う題材が非常にセンシティブで人によっては敬遠するような内容、及び、私に対して不信感を得る方もいらっしゃると思います。 事実、私は耳が聴こえて、目も見えます。実際の方々の気持ちは共感することはできません。 しかし、私も抱えているものがあり、だからこそ、他人に理解してほしい、共感してほしいという気持ちが理解できます。 理解できないこと、共感できないことがあるのは事実です。しかし、重要なのは理解しようとする気持ちだと思っております。 その理解したいという「思い」を伝えるため、「思いを伝える」というテーマで書かせていただきました。 テーマ自体はとてもシンプルなものです。シンプルだからこそ見落としがちなものです。 この作品を通して、私の伝えたい思い、そして甘い青春模様をお楽しみください。 よろしくお願いいたします。 雨月黛狼

処理中です...