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hage.72
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ネオンがやたら眩しい街の中で、大勢の人が羽目を外しながら週末の夜を楽しんでいる。
髪を輝かせて、肌を露出して、大声で歌ったり、踊ったり、酔っぱらったり。
一人になりたくなくて、人がたくさんいるところをさまよったけど、声をかけてくるのはセールスかナンパか、いかにも怪しい連中ばかりで、よけいに孤独を感じただけだった。
まあ、泣き腫らして顔中涙と鼻水でぐちゃぐちゃのハゲなんて、誰も関わりたくねーか。
歩き疲れて、どっかの店の階段に座り込んだ。
これ見よがしにイチャつくカップルを見ても、やたらはじけてる集団を見ても、妙に白々しい感じがした。
オレってホントに、ハゲたカピバラだったんだな。
ナツキの抱き枕と、おんなじ、…
そろえた膝の上に額をつける。
泣きすぎて目の周りもほっぺたもヒリヒリするのに、壊れた水道管みたいに涙が止まらないなんて、
…滑稽だ。
「…おもちゃ、って、カノジョって、…意味だって」
街の喧騒の中で、オレのつぶやきは塵ほどの価値もない。
「好き、…だって」
自分の声じゃないみたいに、弱弱しくて、頼りなくて、消え入りそうだった。
そりゃ引くわ。
簡単にその気になって、好きとか言いに行って、浮かれて美容院なんか行って、また一緒に寝たいとか、…
なんでオレじゃダメなの?
カワシマとか、両腕にぶら下げて歩いてたたくさんのオンナノコとか、過去にヤってたヤツラは良くて、
なんでオレはダメなの?
そりゃオレは色気とか無縁で、胸もねーし、可愛くねーし、スキルもねーけど。
だけど。
リツキの一番近くで、リツキのこと、感じたいって。
思ったんだよ。
「…アイちゃん?」
誰かがオレの名前を呼んで、オレの頭に手をのせた。
顔は伏せたまま、目だけでうかがい見ると、バイト仲間の樋口タクがいた。
「雨降ってきたからさ、とにかく雨宿りしよう」
ヒグチに会ってから、何がどうなったんだかあんまり記憶がねーけど、多分オレは、いわゆる、その。
つまり、なんつーか。
「はい。泣いてたしシャワーしたし、のど渇いたでしょ?」
でっかいベッドの上、バスローブ姿でヒグチと並んで座っている。
「…りがと」
ヒグチが冷蔵庫から出してくれた缶ジュースに口をつける。
ヒグチの言う通り、オレの身体は水分を欲していたらしく、一気に半分以上飲み干してしまった。
「朝には、服も乾くし、送っていくから心配しないで」
「…ん」
朝のことは別に心配してなくて、どっちか言ったら、今この状況の方が心配なわけで。
「大丈夫だよ。俺、優しいから」
ヒグチが生乾きのオレの髪をなでる。
『アイ。優しくするから、上に行こうぜ』
…なんで今、そんなこと、思い出すかな。
『アイ、抱かせて』
『俺に、お前の匂い、つけて』
リツキ。
『このまま、アイを一晩中、抱いて寝る』
リツキ。
オレ、なんかお前をがっかりさせるようなこと、した?
涙が溜まると目の下にヒリヒリしみる。
零れ落ちると頬にしみる。
奥歯をかみしめて、缶ジュースの残りを一気にあおった。
身体が熱くなって、頭の芯がぼうっとした。
「もっと、飲む?」
「…うん」
もういいや。もう。
もともとバカだし、難しいこと考えられねーし。
2缶目のジュースを飲んでいる間、ヒグチは優しくオレの髪をなでていて、何も聞いてこなかった。
だんだん、身体も頭もふわふわしてきた。
「ははっ、…」
いつまでも止まらない涙がおかしくて笑える。
いつの間にか視界が揺れている。
変なの、この部屋、壁がゆがんでる。
「アイちゃん」
ヒグチがオレの頭を引き寄せた。
おっかしーよな?
リツキ、オレとヤるの、嫌なんだってさ。
髪を輝かせて、肌を露出して、大声で歌ったり、踊ったり、酔っぱらったり。
一人になりたくなくて、人がたくさんいるところをさまよったけど、声をかけてくるのはセールスかナンパか、いかにも怪しい連中ばかりで、よけいに孤独を感じただけだった。
まあ、泣き腫らして顔中涙と鼻水でぐちゃぐちゃのハゲなんて、誰も関わりたくねーか。
歩き疲れて、どっかの店の階段に座り込んだ。
これ見よがしにイチャつくカップルを見ても、やたらはじけてる集団を見ても、妙に白々しい感じがした。
オレってホントに、ハゲたカピバラだったんだな。
ナツキの抱き枕と、おんなじ、…
そろえた膝の上に額をつける。
泣きすぎて目の周りもほっぺたもヒリヒリするのに、壊れた水道管みたいに涙が止まらないなんて、
…滑稽だ。
「…おもちゃ、って、カノジョって、…意味だって」
街の喧騒の中で、オレのつぶやきは塵ほどの価値もない。
「好き、…だって」
自分の声じゃないみたいに、弱弱しくて、頼りなくて、消え入りそうだった。
そりゃ引くわ。
簡単にその気になって、好きとか言いに行って、浮かれて美容院なんか行って、また一緒に寝たいとか、…
なんでオレじゃダメなの?
カワシマとか、両腕にぶら下げて歩いてたたくさんのオンナノコとか、過去にヤってたヤツラは良くて、
なんでオレはダメなの?
そりゃオレは色気とか無縁で、胸もねーし、可愛くねーし、スキルもねーけど。
だけど。
リツキの一番近くで、リツキのこと、感じたいって。
思ったんだよ。
「…アイちゃん?」
誰かがオレの名前を呼んで、オレの頭に手をのせた。
顔は伏せたまま、目だけでうかがい見ると、バイト仲間の樋口タクがいた。
「雨降ってきたからさ、とにかく雨宿りしよう」
ヒグチに会ってから、何がどうなったんだかあんまり記憶がねーけど、多分オレは、いわゆる、その。
つまり、なんつーか。
「はい。泣いてたしシャワーしたし、のど渇いたでしょ?」
でっかいベッドの上、バスローブ姿でヒグチと並んで座っている。
「…りがと」
ヒグチが冷蔵庫から出してくれた缶ジュースに口をつける。
ヒグチの言う通り、オレの身体は水分を欲していたらしく、一気に半分以上飲み干してしまった。
「朝には、服も乾くし、送っていくから心配しないで」
「…ん」
朝のことは別に心配してなくて、どっちか言ったら、今この状況の方が心配なわけで。
「大丈夫だよ。俺、優しいから」
ヒグチが生乾きのオレの髪をなでる。
『アイ。優しくするから、上に行こうぜ』
…なんで今、そんなこと、思い出すかな。
『アイ、抱かせて』
『俺に、お前の匂い、つけて』
リツキ。
『このまま、アイを一晩中、抱いて寝る』
リツキ。
オレ、なんかお前をがっかりさせるようなこと、した?
涙が溜まると目の下にヒリヒリしみる。
零れ落ちると頬にしみる。
奥歯をかみしめて、缶ジュースの残りを一気にあおった。
身体が熱くなって、頭の芯がぼうっとした。
「もっと、飲む?」
「…うん」
もういいや。もう。
もともとバカだし、難しいこと考えられねーし。
2缶目のジュースを飲んでいる間、ヒグチは優しくオレの髪をなでていて、何も聞いてこなかった。
だんだん、身体も頭もふわふわしてきた。
「ははっ、…」
いつまでも止まらない涙がおかしくて笑える。
いつの間にか視界が揺れている。
変なの、この部屋、壁がゆがんでる。
「アイちゃん」
ヒグチがオレの頭を引き寄せた。
おっかしーよな?
リツキ、オレとヤるの、嫌なんだってさ。
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雨月黛狼
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