66 / 118
hage.66
しおりを挟む
噛みしめた奥歯が痛い。胸が痛い。
オレをゆるく抱きしめるリツキの腕が切ない。
「アイ、抱かせて」
はっ!?
コイツ、何言った?
しおらしいフリして、今、何言った?
あまりの衝撃に涙も引っ込んで、ハレンチリツキの顔をふり仰ぐと、真正面から苦しいくらい強く抱きしめられた。
リツキに包まれて、オレの心臓が狂ったように暴れ出す。
頭が回らねー。
力が入らねー。
だ、だ、だ、…抱くって、それって、だから、つまり…っ!?
「俺に、お前の匂い、つけて」
コイツ、何言っちゃってんの~~~~っ!?
オ、オレはっ、むむむ、無味無臭だしっ
オレを見るリツキの瞳が濡れたようにきらめいていて、なんか妖艶って感じで、胸の奥を掴まれたみたいに動けなくなる。
自分が自分じゃなくなったみたいで、
「帰ろう」
リツキに手を引かれて電車に乗り込んだけど、まるで現実味がなかった。
「絶対だめ~っ!アイはボクと寝るのっ!!」
リツキんちに入ったとたん、ナツキがまとまりついて離れない。
考えてみれば、狭い団地の、しかも5歳児がいる部屋で、何か出来るはずもなかった。
ほっとしたような、がっかりしたような…
いや、がっかりはおかしいしっ!
帰り道。混み合う電車の中。
「一晩中抱いてたら、匂い、つくかな」
リツキに耳元でささやかれて、頭ん中がショートした。
明らかに挙動不審なオレを、前に座っているちょいハゲおやじが不審そうに見る。
いや、オレ、仲間だから。
リツキの「抱く」は、「ホームで抱く」で完結してたかもしれないのに、オレがムダに焦ったから、
「アイ、今日は一緒に寝ような」
調子に乗ったリツキにいいように丸め込まれた気がする。
だいたい、リツキんちに泊まるっつって、何のためらいもなく送り出す親もハナクソだし。ハナクソもハナクソだし。
「アイ。優しくするから、上に行こうぜ」
「ボクのが優しいっ!」
この兄弟は何を張り合ってるんだと思うけど、ナツキアピールは可愛い。
思わず頭をなでると、ナツキがにっこり笑って、
「アイ。ボクのカピバラ貸してあげるからね。一緒に抱っこして寝ようね」
いそいそとナツキがオレをベッドに連れ込み、カピバラごと勢いよくオレの胸に飛び込んできた。
「しょうがねえな」
オレの後ろにリツキが入り込んでくるから、狭い二段ベッドが超満員で身動きできねー。
お前は上だろって追い出したいのに、リツキに包まれる感触が気持ちよくて動けない。
「このまま、アイを一晩中、抱いて寝る」
リツキがしゃべると、息が髪にかかってくすぐったい。
「…ヒメがタバコを誤飲して、ショック症状になったから、病院に付き添った」
リツキの低い声が、後ろから響く。
「帰りに西本が俺の後着いてきたこともあったけど、それだけだから。本当にそれだけ。興味ない」
背中に張り付くリツキの身体とか、
オレの首の下に差入れられたリツキの腕とか、
オレを守るようにまわされたリツキの手とか、
…苦しいくらいリツキを感じる。
「いいよもう、わかったから」
あっという間に眠ってしまったナツキを起こさないように小声で答えたオレに、
「…ダメ。俺のハゲが、泣いちゃうから。…俺の、興味ある、ハゲ、…」
リツキの言葉が次第にゆっくりになって、やがて途切れた。
や。おかしくね?
なんかハゲ、おかしくね?
リツキの寝息がこそばゆくて身じろぐと、オレを抱きしめるリツキの腕に力が入った。
視線だけで振り返ると、無防備に閉じた目に長いまつげがかかっていた。
なんか。
なんか、意味もなく胸がいっぱいになって。
オレを包むリツキの手のひらに、そっと、…キスした。
オレをゆるく抱きしめるリツキの腕が切ない。
「アイ、抱かせて」
はっ!?
コイツ、何言った?
しおらしいフリして、今、何言った?
あまりの衝撃に涙も引っ込んで、ハレンチリツキの顔をふり仰ぐと、真正面から苦しいくらい強く抱きしめられた。
リツキに包まれて、オレの心臓が狂ったように暴れ出す。
頭が回らねー。
力が入らねー。
だ、だ、だ、…抱くって、それって、だから、つまり…っ!?
「俺に、お前の匂い、つけて」
コイツ、何言っちゃってんの~~~~っ!?
オ、オレはっ、むむむ、無味無臭だしっ
オレを見るリツキの瞳が濡れたようにきらめいていて、なんか妖艶って感じで、胸の奥を掴まれたみたいに動けなくなる。
自分が自分じゃなくなったみたいで、
「帰ろう」
リツキに手を引かれて電車に乗り込んだけど、まるで現実味がなかった。
「絶対だめ~っ!アイはボクと寝るのっ!!」
リツキんちに入ったとたん、ナツキがまとまりついて離れない。
考えてみれば、狭い団地の、しかも5歳児がいる部屋で、何か出来るはずもなかった。
ほっとしたような、がっかりしたような…
いや、がっかりはおかしいしっ!
帰り道。混み合う電車の中。
「一晩中抱いてたら、匂い、つくかな」
リツキに耳元でささやかれて、頭ん中がショートした。
明らかに挙動不審なオレを、前に座っているちょいハゲおやじが不審そうに見る。
いや、オレ、仲間だから。
リツキの「抱く」は、「ホームで抱く」で完結してたかもしれないのに、オレがムダに焦ったから、
「アイ、今日は一緒に寝ような」
調子に乗ったリツキにいいように丸め込まれた気がする。
だいたい、リツキんちに泊まるっつって、何のためらいもなく送り出す親もハナクソだし。ハナクソもハナクソだし。
「アイ。優しくするから、上に行こうぜ」
「ボクのが優しいっ!」
この兄弟は何を張り合ってるんだと思うけど、ナツキアピールは可愛い。
思わず頭をなでると、ナツキがにっこり笑って、
「アイ。ボクのカピバラ貸してあげるからね。一緒に抱っこして寝ようね」
いそいそとナツキがオレをベッドに連れ込み、カピバラごと勢いよくオレの胸に飛び込んできた。
「しょうがねえな」
オレの後ろにリツキが入り込んでくるから、狭い二段ベッドが超満員で身動きできねー。
お前は上だろって追い出したいのに、リツキに包まれる感触が気持ちよくて動けない。
「このまま、アイを一晩中、抱いて寝る」
リツキがしゃべると、息が髪にかかってくすぐったい。
「…ヒメがタバコを誤飲して、ショック症状になったから、病院に付き添った」
リツキの低い声が、後ろから響く。
「帰りに西本が俺の後着いてきたこともあったけど、それだけだから。本当にそれだけ。興味ない」
背中に張り付くリツキの身体とか、
オレの首の下に差入れられたリツキの腕とか、
オレを守るようにまわされたリツキの手とか、
…苦しいくらいリツキを感じる。
「いいよもう、わかったから」
あっという間に眠ってしまったナツキを起こさないように小声で答えたオレに、
「…ダメ。俺のハゲが、泣いちゃうから。…俺の、興味ある、ハゲ、…」
リツキの言葉が次第にゆっくりになって、やがて途切れた。
や。おかしくね?
なんかハゲ、おかしくね?
リツキの寝息がこそばゆくて身じろぐと、オレを抱きしめるリツキの腕に力が入った。
視線だけで振り返ると、無防備に閉じた目に長いまつげがかかっていた。
なんか。
なんか、意味もなく胸がいっぱいになって。
オレを包むリツキの手のひらに、そっと、…キスした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

靴磨きの聖女アリア
さとう
恋愛
孤児の少女アリア。彼女は八歳の時に自分が『転生者』であることを知る。
記憶が戻ったのは、両親に『口減らし』として捨てられ、なんとかプロビデンス王国王都まで辿り着いた時。
スラム街の小屋で寝ていると、同じ孤児の少年クロードと知り合い、互いに助け合って生きていくことになる。
アリアは、生きるために『靴磨き』をすることを提案。クロードと一緒に王都で靴磨きを始め、生活は楽ではなかったが何とか暮らしていけるようになる。
そんなある日……ちょっとした怪我をしたクロードを、アリアは魔法で治してしまう。アリアは『白魔法』という『聖女』にしか使えない希少な魔法の使い手だったのだ。
靴磨きを始めて一年後。とある事件が起きてクロードと離れ離れに。アリアは靴磨き屋の常連客であった老夫婦の養女となり、いつしかクロードのことも忘れて成長していく。そして、アリアもすっかり忘れていた『白魔法』のことが周りにバレて、『聖女』として魔法学園に通うことに。そして、魔法学園で出会ったプロビデンス王国の第一王子様は何と、あのクロードで……?
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

悪夢なのかやり直しなのか。
田中ボサ
ファンタジー
公爵家嫡男、フリッツ・マルクスは貴族学院の入学式の朝に悪夢を見た。
だが、フリッツは悪夢を真実だと思い、行動を起こす。
叔父の命を救い、病気に侵される母親を救う。
妹の学園生活を悪夢で終わらせないために奔走するフリッツ。
悪夢の中でフリッツは周囲が見えていなかったため、家族や友人を救うことができずにすべてが終わってしまい絶望する。
単なる悪夢だったのか、人生をやり直しているのか、フリッツも周囲もわからないまま、それでも現実を幸せにするように頑張るお話。
※なろう様でも公開中です(完結済み)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
眩魏(くらぎ)!一楽章
たらしゅー放送局
青春
大阪城を観光していた眩魏(くらぎ)は、クラシックギターの路頭ライブをするホームレスの演奏を聞き、感動する。
そして、学校の部活にクラシックギター部があることを知り入部するも、、、
ドキドキワクワクちょっぴり青春!アンサンブル系学園ドラマ!

【完結】あの日、君の本音に気付けなくて
ナカジマ
青春
藤木涼介と清水凛は、中学3年のバレンタインで両片思いから両想いになった。しかし高校生になってからは、何となく疎遠になってしまっていた。両想いになったからゴールだと勘違いしている涼介と、ちゃんと恋人同士になりたいと言い出せない凛。バスケ部が楽しいから良いんだと開き直った涼介と、自分は揶揄われたのではないかと疑い始める凛。お互いに好意があるにも関わらず、以前よりも複雑な両片思いに陥った2人。
とある理由から、女子の好意を理解出来なくなったバスケ部男子と、引っ込み思案で中々気持ちを伝えられない吹奏楽部女子。普通の男女が繰り広げる、部活に勉強、修学旅行。不器用な2人の青春やり直しストーリー。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる