【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

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噛みしめた奥歯が痛い。胸が痛い。
オレをゆるく抱きしめるリツキの腕が切ない。

「アイ、抱かせて」

はっ!?

コイツ、何言った?
しおらしいフリして、今、何言った?

あまりの衝撃に涙も引っ込んで、ハレンチリツキの顔をふり仰ぐと、真正面から苦しいくらい強く抱きしめられた。

リツキに包まれて、オレの心臓が狂ったように暴れ出す。
頭が回らねー。
力が入らねー。

だ、だ、だ、…抱くって、それって、だから、つまり…っ!?

「俺に、お前の匂い、つけて」

コイツ、何言っちゃってんの~~~~っ!?

オ、オレはっ、むむむ、無味無臭だしっ

オレを見るリツキの瞳が濡れたようにきらめいていて、なんか妖艶って感じで、胸の奥を掴まれたみたいに動けなくなる。

自分が自分じゃなくなったみたいで、

「帰ろう」

リツキに手を引かれて電車に乗り込んだけど、まるで現実味がなかった。

「絶対だめ~っ!アイはボクと寝るのっ!!」

リツキんちに入ったとたん、ナツキがまとまりついて離れない。

考えてみれば、狭い団地の、しかも5歳児がいる部屋で、何か出来るはずもなかった。

ほっとしたような、がっかりしたような…

いや、がっかりはおかしいしっ!

帰り道。混み合う電車の中。

「一晩中抱いてたら、匂い、つくかな」

リツキに耳元でささやかれて、頭ん中がショートした。
明らかに挙動不審なオレを、前に座っているちょいハゲおやじが不審そうに見る。

いや、オレ、仲間だから。

リツキの「抱く」は、「ホームで抱く」で完結してたかもしれないのに、オレがムダに焦ったから、

「アイ、今日は一緒に寝ような」

調子に乗ったリツキにいいように丸め込まれた気がする。

だいたい、リツキんちに泊まるっつって、何のためらいもなく送り出す親もハナクソだし。ハナクソもハナクソだし。

「アイ。優しくするから、上に行こうぜ」

「ボクのが優しいっ!」

この兄弟は何を張り合ってるんだと思うけど、ナツキアピールは可愛い。
思わず頭をなでると、ナツキがにっこり笑って、

「アイ。ボクのカピバラ貸してあげるからね。一緒に抱っこして寝ようね」

いそいそとナツキがオレをベッドに連れ込み、カピバラごと勢いよくオレの胸に飛び込んできた。

「しょうがねえな」

オレの後ろにリツキが入り込んでくるから、狭い二段ベッドが超満員で身動きできねー。

お前は上だろって追い出したいのに、リツキに包まれる感触が気持ちよくて動けない。

「このまま、アイを一晩中、抱いて寝る」

リツキがしゃべると、息が髪にかかってくすぐったい。

「…ヒメがタバコを誤飲して、ショック症状になったから、病院に付き添った」

リツキの低い声が、後ろから響く。

「帰りに西本が俺の後着いてきたこともあったけど、それだけだから。本当にそれだけ。興味ない」

背中に張り付くリツキの身体とか、
オレの首の下に差入れられたリツキの腕とか、
オレを守るようにまわされたリツキの手とか、

…苦しいくらいリツキを感じる。

「いいよもう、わかったから」

あっという間に眠ってしまったナツキを起こさないように小声で答えたオレに、

「…ダメ。俺のハゲが、泣いちゃうから。…俺の、興味ある、ハゲ、…」

リツキの言葉が次第にゆっくりになって、やがて途切れた。

や。おかしくね?
なんかハゲ、おかしくね?

リツキの寝息がこそばゆくて身じろぐと、オレを抱きしめるリツキの腕に力が入った。
視線だけで振り返ると、無防備に閉じた目に長いまつげがかかっていた。

なんか。
なんか、意味もなく胸がいっぱいになって。

オレを包むリツキの手のひらに、そっと、…キスした。
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