【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

remo

文字の大きさ
上 下
65 / 118

hage.65

しおりを挟む
「アイっ!」

練習を終えて着替えたリツキが、真っ直ぐにオレに駆け寄ってきて、有無を言わせず腕の中に閉じ込める。

「ただいま」

ぎゅうぎゅうにオレを抱きしめるリツキがなんか甘いんだけど、スゲー冷ややかな大衆の視線にさらされていると思うのは、オレだけだろうか。

「あ、…のさ、リツ」
「ん」

リツキの腕の中で身じろぐオレに、容赦なくイケメンスマイルをさく裂させてリツキがキスする。
リツキの舌は、たやすくオレをとろけさせる。

「帰るか」

羞恥心で意識を朦朧とさせているオレに、がっちり指を絡めて、上機嫌のリツキがスタジアムを出ようとすると、

「リツキ先輩っ!お疲れさまです!ヒメ、元気になって、先輩を待ってました!」

後ろから、ニシモトの声が追いかけてきて、

「ああ。良かったな」

初めてその存在に気づいたようにリツキが笑みを投げかけた。

「ヒメ、リツキ先輩に撫でられると落ち着くみたいなので、抱っこしてあげて下さい」

ニシモトが勢い込んで、チビ猫を差し出す。

「…ん」

リツキは軽くチビ猫を撫でると、

「悪いけど、急ぐから」

オレの手を引いて大股で歩き出した。

「リツキ先輩っ」

追いすがるニシモトに、

「今日は着いて来ないでね」

振り返らないまま、言い放った。
冷たくはないけれど、はっきりと線が引かれたのがわかる。

「…先輩、…」

寂しそうなニシモトの声が聞こえたけれど、リツキは振り返らず歩みを緩めることもしなかった。

「…良かったのかよ?」

スタジアムを出て、駅に着いてから、リツキを仰ぐ。

「ん~?」

オレが何を言いたいのか明らかに分かっているのに、リツキがとぼけた返答をするからムッとした。

「お前、あのチビ猫も、ニシモトも、気に入ってんだろっ」

本当は、オレが気になってたんだと思う。
思わせぶりなニシモトの言動も。
昨日見た二人の姿も。
リツキから香る、シャンプーの匂いも。

本当は、オレが不安だったんだと思う。
『私の方が、合ってると思います』
そう言い切ったニシモトの自信に。

「…妬いてんの?」

オレをのぞき込んだリツキがなんか余裕でムカついた。
オレはリツキが好きだけど、女たらしは好きじゃねーっ!

「うるせー、触んな!お前、くせーしっ!」

リツキの手を振り払う。
オレの大声に通行人がぎょっとして注目するのがわかるけど、

「アイ?お前、いい加減にしろよ?それ、好きなヤツに言うセリフか?」

リツキがさすがにカチンときてるのもわかるけど、

「ニシモトとおんなじ匂いさせてんじゃねーっ」

止められなかった。

感情のままに叫んだら、急に心臓が締め付けられた。

リツキからニシモトの香りがしたという事実は、オレが思っていたより、ずっとずっと、オレにダメージを与えてたんだな。

「え…」

リツキがひるんで、オレをつかまえていた手の力が弱まった。
その隙に、リツキから離れると、慌てて改札をくぐった。

また泣きそうになって、奥歯を噛みしめる。

『リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね』

『泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか』

これ以上、リツキの前で泣いてたまるか。

「…アイ」

ホームには、まだ電車が来ていなくて、端まで行ったけど、あっという間にリツキに追いつかれて、後ろからそっと、抱きしめられた。

「…ごめん」

リツキの頭が力なく、オレの肩に落ちる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

消えていく君のカケラと、進まない僕の時間

月ヶ瀬 杏
青春
青山陽咲、藤川大晴、矢野蒼月は、幼稚園の頃からの幼馴染。小学校までは仲の良かった三人だが、十歳のときに起きたある出来事をキッカケに、陽咲と蒼月の仲は疎遠になった。 高二の夏休み、突然、陽咲と蒼月のことを呼び出した大晴が、 「夏休みに、なんか思い出残さない?」 と誘いかけてくる。 「記憶はいつか曖昧になるから、記録を残したいんだ」 という大晴の言葉で、陽咲たちは映画撮影を始める。小学生のときから疎遠になっていた蒼月と話すきっかけができた陽咲は嬉しく思うが、蒼月の態度は会う度に少し違う。 大晴も、陽咲に何か隠し事をしているようで……。 幼なじみの三角関係ラブストーリー。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ

椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。 クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。 桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。 だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。 料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。

ハルといた夏

イトマドウ
青春
小学6年生の奈月(なつき)が、小学生最後の夏休みに父の実家へ遊びに行くことに。 そこで出会った高校1年性の従姉、小晴(こはる)と虫取りや夏まつりに行くことで 少しだけ大人になる物語。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

処理中です...