【完結】乙女ざかりハゲざかり〜爆笑ハイテンションラブコメディ

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「アイっ!」

練習を終えて着替えたリツキが、真っ直ぐにオレに駆け寄ってきて、有無を言わせず腕の中に閉じ込める。

「ただいま」

ぎゅうぎゅうにオレを抱きしめるリツキがなんか甘いんだけど、スゲー冷ややかな大衆の視線にさらされていると思うのは、オレだけだろうか。

「あ、…のさ、リツ」
「ん」

リツキの腕の中で身じろぐオレに、容赦なくイケメンスマイルをさく裂させてリツキがキスする。
リツキの舌は、たやすくオレをとろけさせる。

「帰るか」

羞恥心で意識を朦朧とさせているオレに、がっちり指を絡めて、上機嫌のリツキがスタジアムを出ようとすると、

「リツキ先輩っ!お疲れさまです!ヒメ、元気になって、先輩を待ってました!」

後ろから、ニシモトの声が追いかけてきて、

「ああ。良かったな」

初めてその存在に気づいたようにリツキが笑みを投げかけた。

「ヒメ、リツキ先輩に撫でられると落ち着くみたいなので、抱っこしてあげて下さい」

ニシモトが勢い込んで、チビ猫を差し出す。

「…ん」

リツキは軽くチビ猫を撫でると、

「悪いけど、急ぐから」

オレの手を引いて大股で歩き出した。

「リツキ先輩っ」

追いすがるニシモトに、

「今日は着いて来ないでね」

振り返らないまま、言い放った。
冷たくはないけれど、はっきりと線が引かれたのがわかる。

「…先輩、…」

寂しそうなニシモトの声が聞こえたけれど、リツキは振り返らず歩みを緩めることもしなかった。

「…良かったのかよ?」

スタジアムを出て、駅に着いてから、リツキを仰ぐ。

「ん~?」

オレが何を言いたいのか明らかに分かっているのに、リツキがとぼけた返答をするからムッとした。

「お前、あのチビ猫も、ニシモトも、気に入ってんだろっ」

本当は、オレが気になってたんだと思う。
思わせぶりなニシモトの言動も。
昨日見た二人の姿も。
リツキから香る、シャンプーの匂いも。

本当は、オレが不安だったんだと思う。
『私の方が、合ってると思います』
そう言い切ったニシモトの自信に。

「…妬いてんの?」

オレをのぞき込んだリツキがなんか余裕でムカついた。
オレはリツキが好きだけど、女たらしは好きじゃねーっ!

「うるせー、触んな!お前、くせーしっ!」

リツキの手を振り払う。
オレの大声に通行人がぎょっとして注目するのがわかるけど、

「アイ?お前、いい加減にしろよ?それ、好きなヤツに言うセリフか?」

リツキがさすがにカチンときてるのもわかるけど、

「ニシモトとおんなじ匂いさせてんじゃねーっ」

止められなかった。

感情のままに叫んだら、急に心臓が締め付けられた。

リツキからニシモトの香りがしたという事実は、オレが思っていたより、ずっとずっと、オレにダメージを与えてたんだな。

「え…」

リツキがひるんで、オレをつかまえていた手の力が弱まった。
その隙に、リツキから離れると、慌てて改札をくぐった。

また泣きそうになって、奥歯を噛みしめる。

『リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね』

『泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか』

これ以上、リツキの前で泣いてたまるか。

「…アイ」

ホームには、まだ電車が来ていなくて、端まで行ったけど、あっという間にリツキに追いつかれて、後ろからそっと、抱きしめられた。

「…ごめん」

リツキの頭が力なく、オレの肩に落ちる。
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