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hage.65
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「アイっ!」
練習を終えて着替えたリツキが、真っ直ぐにオレに駆け寄ってきて、有無を言わせず腕の中に閉じ込める。
「ただいま」
ぎゅうぎゅうにオレを抱きしめるリツキがなんか甘いんだけど、スゲー冷ややかな大衆の視線にさらされていると思うのは、オレだけだろうか。
「あ、…のさ、リツ」
「ん」
リツキの腕の中で身じろぐオレに、容赦なくイケメンスマイルをさく裂させてリツキがキスする。
リツキの舌は、たやすくオレをとろけさせる。
「帰るか」
羞恥心で意識を朦朧とさせているオレに、がっちり指を絡めて、上機嫌のリツキがスタジアムを出ようとすると、
「リツキ先輩っ!お疲れさまです!ヒメ、元気になって、先輩を待ってました!」
後ろから、ニシモトの声が追いかけてきて、
「ああ。良かったな」
初めてその存在に気づいたようにリツキが笑みを投げかけた。
「ヒメ、リツキ先輩に撫でられると落ち着くみたいなので、抱っこしてあげて下さい」
ニシモトが勢い込んで、チビ猫を差し出す。
「…ん」
リツキは軽くチビ猫を撫でると、
「悪いけど、急ぐから」
オレの手を引いて大股で歩き出した。
「リツキ先輩っ」
追いすがるニシモトに、
「今日は着いて来ないでね」
振り返らないまま、言い放った。
冷たくはないけれど、はっきりと線が引かれたのがわかる。
「…先輩、…」
寂しそうなニシモトの声が聞こえたけれど、リツキは振り返らず歩みを緩めることもしなかった。
「…良かったのかよ?」
スタジアムを出て、駅に着いてから、リツキを仰ぐ。
「ん~?」
オレが何を言いたいのか明らかに分かっているのに、リツキがとぼけた返答をするからムッとした。
「お前、あのチビ猫も、ニシモトも、気に入ってんだろっ」
本当は、オレが気になってたんだと思う。
思わせぶりなニシモトの言動も。
昨日見た二人の姿も。
リツキから香る、シャンプーの匂いも。
本当は、オレが不安だったんだと思う。
『私の方が、合ってると思います』
そう言い切ったニシモトの自信に。
「…妬いてんの?」
オレをのぞき込んだリツキがなんか余裕でムカついた。
オレはリツキが好きだけど、女たらしは好きじゃねーっ!
「うるせー、触んな!お前、くせーしっ!」
リツキの手を振り払う。
オレの大声に通行人がぎょっとして注目するのがわかるけど、
「アイ?お前、いい加減にしろよ?それ、好きなヤツに言うセリフか?」
リツキがさすがにカチンときてるのもわかるけど、
「ニシモトとおんなじ匂いさせてんじゃねーっ」
止められなかった。
感情のままに叫んだら、急に心臓が締め付けられた。
リツキからニシモトの香りがしたという事実は、オレが思っていたより、ずっとずっと、オレにダメージを与えてたんだな。
「え…」
リツキがひるんで、オレをつかまえていた手の力が弱まった。
その隙に、リツキから離れると、慌てて改札をくぐった。
また泣きそうになって、奥歯を噛みしめる。
『リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね』
『泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか』
これ以上、リツキの前で泣いてたまるか。
「…アイ」
ホームには、まだ電車が来ていなくて、端まで行ったけど、あっという間にリツキに追いつかれて、後ろからそっと、抱きしめられた。
「…ごめん」
リツキの頭が力なく、オレの肩に落ちる。
練習を終えて着替えたリツキが、真っ直ぐにオレに駆け寄ってきて、有無を言わせず腕の中に閉じ込める。
「ただいま」
ぎゅうぎゅうにオレを抱きしめるリツキがなんか甘いんだけど、スゲー冷ややかな大衆の視線にさらされていると思うのは、オレだけだろうか。
「あ、…のさ、リツ」
「ん」
リツキの腕の中で身じろぐオレに、容赦なくイケメンスマイルをさく裂させてリツキがキスする。
リツキの舌は、たやすくオレをとろけさせる。
「帰るか」
羞恥心で意識を朦朧とさせているオレに、がっちり指を絡めて、上機嫌のリツキがスタジアムを出ようとすると、
「リツキ先輩っ!お疲れさまです!ヒメ、元気になって、先輩を待ってました!」
後ろから、ニシモトの声が追いかけてきて、
「ああ。良かったな」
初めてその存在に気づいたようにリツキが笑みを投げかけた。
「ヒメ、リツキ先輩に撫でられると落ち着くみたいなので、抱っこしてあげて下さい」
ニシモトが勢い込んで、チビ猫を差し出す。
「…ん」
リツキは軽くチビ猫を撫でると、
「悪いけど、急ぐから」
オレの手を引いて大股で歩き出した。
「リツキ先輩っ」
追いすがるニシモトに、
「今日は着いて来ないでね」
振り返らないまま、言い放った。
冷たくはないけれど、はっきりと線が引かれたのがわかる。
「…先輩、…」
寂しそうなニシモトの声が聞こえたけれど、リツキは振り返らず歩みを緩めることもしなかった。
「…良かったのかよ?」
スタジアムを出て、駅に着いてから、リツキを仰ぐ。
「ん~?」
オレが何を言いたいのか明らかに分かっているのに、リツキがとぼけた返答をするからムッとした。
「お前、あのチビ猫も、ニシモトも、気に入ってんだろっ」
本当は、オレが気になってたんだと思う。
思わせぶりなニシモトの言動も。
昨日見た二人の姿も。
リツキから香る、シャンプーの匂いも。
本当は、オレが不安だったんだと思う。
『私の方が、合ってると思います』
そう言い切ったニシモトの自信に。
「…妬いてんの?」
オレをのぞき込んだリツキがなんか余裕でムカついた。
オレはリツキが好きだけど、女たらしは好きじゃねーっ!
「うるせー、触んな!お前、くせーしっ!」
リツキの手を振り払う。
オレの大声に通行人がぎょっとして注目するのがわかるけど、
「アイ?お前、いい加減にしろよ?それ、好きなヤツに言うセリフか?」
リツキがさすがにカチンときてるのもわかるけど、
「ニシモトとおんなじ匂いさせてんじゃねーっ」
止められなかった。
感情のままに叫んだら、急に心臓が締め付けられた。
リツキからニシモトの香りがしたという事実は、オレが思っていたより、ずっとずっと、オレにダメージを与えてたんだな。
「え…」
リツキがひるんで、オレをつかまえていた手の力が弱まった。
その隙に、リツキから離れると、慌てて改札をくぐった。
また泣きそうになって、奥歯を噛みしめる。
『リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね』
『泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか』
これ以上、リツキの前で泣いてたまるか。
「…アイ」
ホームには、まだ電車が来ていなくて、端まで行ったけど、あっという間にリツキに追いつかれて、後ろからそっと、抱きしめられた。
「…ごめん」
リツキの頭が力なく、オレの肩に落ちる。
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