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hage.64
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「リツキせんぱ~いっ、かっこいいです~~~っ」
なぜか、絶賛リツキ大歓声中のニシモトと並んで、オレはリツキの練習を見ている。
オレの膝の上には、チビ猫が、当然だけど何か?と言わんばかりの勢いでふんぞり返って座っている。
オレはお前のイスじゃねー。
チビ猫からほのかにシャンプーが香るけど、もうあまり気にならない。
リツキの熱い体温が、まだ肌に残っているようで、なんか顔が熱いし。
リツキの声も匂いも唇の感触も、何度も何度もフラッシュバックして、身体中の血がもぞもぞする。
「待ってろよ。絶対先に帰るなよ」
リツキが、しつこく言うから観客席に座ってやってるけど、そんな状態のオレをここに残すなんて、羞恥プレイ過ぎる。
選抜メンバーの親衛隊が鋭い視線を向けてきて、身の置き所がねーっつーか。
マシュマロニシモトがにこやかに近寄ってきて居心地わりーっつーか。
「リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね」
視線をリツキに向けながら、思わせぶりに話すマシュマロニシモト。
マシュマロだけに、中身が見えねー。
「昨日私が泣いてた時も、すごく優しく慰めてくれて」
立ち上がって、上からオレを見るニシモトの表情は逆光で分かりにくい。
「練習を放り出してまで付き添ってくれて」
鈴のように甘く転がる声音が、オレからリツキの熱を奪う。
「泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか」
グラウンドに視線を戻したニシモトの横顔は、変わらずに可愛らしく、ふんわりした茶色の髪が風に揺れている。
沸き立つように熱かった血が、急速に冷やされていくのを感じた。
オレは昨日の夕方、リツキとニシモトが一緒にいるところを見た。
「お前、昨日、…何かあったの?」
自分の声が弱弱しく聞こえるのは、水分不足のせいだと思う。
涙腺が壊れすぎてて、エネルギーが足りないんだと思う。
「私。…リツキ先輩が好きです」
オレを振り返ったニシモトは、はにかんだり恥じらったりしていなかった。
全身全霊をかけて、思いを遂げようとする強さに満ちていた。
しかも、オレの質問は、軽くスルーしていた。
…失礼じゃね?
「私の方が、合ってると思います」
そう言い切ったニシモトは、マシュマロみたいな甘さも柔らかさもない。
一途で、必死で、全てを引き替えにしてもかまわないほどの強い強い思いを持った、オンナだった。
「ニャフ」
チビ猫がオレの腹を頭突いて、我に返る。
金縛りにあったみたいに動けなかった。
チビ猫の額を指でつつく。
オレだって、好きだし。
なぜか、絶賛リツキ大歓声中のニシモトと並んで、オレはリツキの練習を見ている。
オレの膝の上には、チビ猫が、当然だけど何か?と言わんばかりの勢いでふんぞり返って座っている。
オレはお前のイスじゃねー。
チビ猫からほのかにシャンプーが香るけど、もうあまり気にならない。
リツキの熱い体温が、まだ肌に残っているようで、なんか顔が熱いし。
リツキの声も匂いも唇の感触も、何度も何度もフラッシュバックして、身体中の血がもぞもぞする。
「待ってろよ。絶対先に帰るなよ」
リツキが、しつこく言うから観客席に座ってやってるけど、そんな状態のオレをここに残すなんて、羞恥プレイ過ぎる。
選抜メンバーの親衛隊が鋭い視線を向けてきて、身の置き所がねーっつーか。
マシュマロニシモトがにこやかに近寄ってきて居心地わりーっつーか。
「リツキ先輩って、本当に優しいですよね。泣いてる女の子、放っておけないんですね」
視線をリツキに向けながら、思わせぶりに話すマシュマロニシモト。
マシュマロだけに、中身が見えねー。
「昨日私が泣いてた時も、すごく優しく慰めてくれて」
立ち上がって、上からオレを見るニシモトの表情は逆光で分かりにくい。
「練習を放り出してまで付き添ってくれて」
鈴のように甘く転がる声音が、オレからリツキの熱を奪う。
「泣いてる女の子にキスするのって、男の人の義務なんでしょうか」
グラウンドに視線を戻したニシモトの横顔は、変わらずに可愛らしく、ふんわりした茶色の髪が風に揺れている。
沸き立つように熱かった血が、急速に冷やされていくのを感じた。
オレは昨日の夕方、リツキとニシモトが一緒にいるところを見た。
「お前、昨日、…何かあったの?」
自分の声が弱弱しく聞こえるのは、水分不足のせいだと思う。
涙腺が壊れすぎてて、エネルギーが足りないんだと思う。
「私。…リツキ先輩が好きです」
オレを振り返ったニシモトは、はにかんだり恥じらったりしていなかった。
全身全霊をかけて、思いを遂げようとする強さに満ちていた。
しかも、オレの質問は、軽くスルーしていた。
…失礼じゃね?
「私の方が、合ってると思います」
そう言い切ったニシモトは、マシュマロみたいな甘さも柔らかさもない。
一途で、必死で、全てを引き替えにしてもかまわないほどの強い強い思いを持った、オンナだった。
「ニャフ」
チビ猫がオレの腹を頭突いて、我に返る。
金縛りにあったみたいに動けなかった。
チビ猫の額を指でつつく。
オレだって、好きだし。
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