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hage.62
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「最初は、なんてきれいな顔してるんだろう、って思って、見ているうちに目が離せなくなったの。
リっくん、まだ中学生だったのにすごく大人びていて、年甲斐もなく夢中になっちゃって、恥も外聞も捨てて迫ったわ」
カワシマの髪が風に揺れる。
下校する生徒たちの声がとぎれとぎれに夏の日差しに響いた。
「でも、言われたの」
カワシマは口元に寂しそうな微笑みを浮かべると、
「気持ちがなくてもいいか、って」
両手で包んだ缶コーヒーの中を見つめた。
そこに痛みが残っているかのように。
「好きな子がいる、って。何があってもその子だけが好きなんだって」
カワシマの声が痛々しくて、いちごオレを握りしめたけど、飲めそうになかった。
パックの表面に着いた水滴が流れ落ちてオレの指を濡らす。
…泣いている。
「まだ中学生だし、身体で落とせるかなって思ったけど、全然だめだった。
すごく上手くて、優しくて、私だけ、どんどんハマっちゃって、…でも、夢中になるのは、私ばっかりで、リっくんは、最初から最後まで、私のことなんて見てなかった。
彼は本当に、ずっと、一人だけしか、見てなかった」
カワシマがオレを見る。
まなざしが優しくて切なくてすごくきれいで、オレの単純な涙腺は、あっけなく壊れそうになる。
「リっくん言ってた。
『ソイツ、男勝りで、威勢が良くて、いつも跳ね回ってるくせに、鈍感で流されやすくて泣き虫で、…放っとけねえんだ』
彼女にしたいのは、一人だけなんだって。
好きなのは、その子だけなんだって」
オレの涙を、カワシマがハンカチで拭いてくれた。
オレが泣いちゃダメだってわかってるけど、止められなかった。
「リっくんを追いかけてここまで来たけど、まるで相手にしてもらえなかったわ。俺の彼女が泣いちゃうから、って。
…堪えたなぁ。彼女って、リっくん、すごく愛しそうだった」
涙の向こうに見えるカワシマは、微笑みながら、泣いているようだった。
「うらやましくて悔しくて、一度だけでいいから、彼女になってみたいなんて、勝負を持ちかけたりして、…愚かよね」
カワシマが自嘲的な笑みをたたえて、オレを見る。
「リっくんに怒られたわ。アイを傷つけたら許さない、って。
あんなリっくん、初めて見た」
抜けるように青く晴れた空が、まぶしすぎて目が痛い。
「お茶漬けっていいね、飽きがこなくて。あれ、褒め言葉だったのよって言ったら、信じてくれる…?」
カワシマの気持ちが切ないほど伝わってきて、何か言いたいのに、何も言葉が出てこない。
涙しか出てこない。
そんな自分が情けなくて、歯がゆかった。
「あがいてみたけど、ぜーんぜん、ダメね。最後に抱いてって言ったら、最後にみっちり英語漬けならいいって。図書館で。鷹谷くんと同じように。
悔しいから、こっちからお断りしてやったわ。も~、年下のくせして生意気なのよ~っ」
カワシマは立ち上がって缶コーヒーを飲み干すと、想いを断ち切るかのように両手を上げて伸びをした。
「でも、…好き。大好き。だから、ちゃんと返すわ」
振り返ってオレを見たカワシマは、いつも通り明るくて一生懸命で憎めなくて、素敵な大人の顔をしていた。
「あのマシュマロ女にいいようにされてんじゃないわよ!
お茶漬けは日本が誇る伝統文化よ!」
お決まりの人差し指ポーズでオレをビシッと指して、
「…仲良くね」
ヒールの音を響かせて、カワシマは校舎に入っていった。
振り返らずに。
オレの手の中でぬるくなったいちごオレが、誰にも見つからないように、静かに泣いていた。
リっくん、まだ中学生だったのにすごく大人びていて、年甲斐もなく夢中になっちゃって、恥も外聞も捨てて迫ったわ」
カワシマの髪が風に揺れる。
下校する生徒たちの声がとぎれとぎれに夏の日差しに響いた。
「でも、言われたの」
カワシマは口元に寂しそうな微笑みを浮かべると、
「気持ちがなくてもいいか、って」
両手で包んだ缶コーヒーの中を見つめた。
そこに痛みが残っているかのように。
「好きな子がいる、って。何があってもその子だけが好きなんだって」
カワシマの声が痛々しくて、いちごオレを握りしめたけど、飲めそうになかった。
パックの表面に着いた水滴が流れ落ちてオレの指を濡らす。
…泣いている。
「まだ中学生だし、身体で落とせるかなって思ったけど、全然だめだった。
すごく上手くて、優しくて、私だけ、どんどんハマっちゃって、…でも、夢中になるのは、私ばっかりで、リっくんは、最初から最後まで、私のことなんて見てなかった。
彼は本当に、ずっと、一人だけしか、見てなかった」
カワシマがオレを見る。
まなざしが優しくて切なくてすごくきれいで、オレの単純な涙腺は、あっけなく壊れそうになる。
「リっくん言ってた。
『ソイツ、男勝りで、威勢が良くて、いつも跳ね回ってるくせに、鈍感で流されやすくて泣き虫で、…放っとけねえんだ』
彼女にしたいのは、一人だけなんだって。
好きなのは、その子だけなんだって」
オレの涙を、カワシマがハンカチで拭いてくれた。
オレが泣いちゃダメだってわかってるけど、止められなかった。
「リっくんを追いかけてここまで来たけど、まるで相手にしてもらえなかったわ。俺の彼女が泣いちゃうから、って。
…堪えたなぁ。彼女って、リっくん、すごく愛しそうだった」
涙の向こうに見えるカワシマは、微笑みながら、泣いているようだった。
「うらやましくて悔しくて、一度だけでいいから、彼女になってみたいなんて、勝負を持ちかけたりして、…愚かよね」
カワシマが自嘲的な笑みをたたえて、オレを見る。
「リっくんに怒られたわ。アイを傷つけたら許さない、って。
あんなリっくん、初めて見た」
抜けるように青く晴れた空が、まぶしすぎて目が痛い。
「お茶漬けっていいね、飽きがこなくて。あれ、褒め言葉だったのよって言ったら、信じてくれる…?」
カワシマの気持ちが切ないほど伝わってきて、何か言いたいのに、何も言葉が出てこない。
涙しか出てこない。
そんな自分が情けなくて、歯がゆかった。
「あがいてみたけど、ぜーんぜん、ダメね。最後に抱いてって言ったら、最後にみっちり英語漬けならいいって。図書館で。鷹谷くんと同じように。
悔しいから、こっちからお断りしてやったわ。も~、年下のくせして生意気なのよ~っ」
カワシマは立ち上がって缶コーヒーを飲み干すと、想いを断ち切るかのように両手を上げて伸びをした。
「でも、…好き。大好き。だから、ちゃんと返すわ」
振り返ってオレを見たカワシマは、いつも通り明るくて一生懸命で憎めなくて、素敵な大人の顔をしていた。
「あのマシュマロ女にいいようにされてんじゃないわよ!
お茶漬けは日本が誇る伝統文化よ!」
お決まりの人差し指ポーズでオレをビシッと指して、
「…仲良くね」
ヒールの音を響かせて、カワシマは校舎に入っていった。
振り返らずに。
オレの手の中でぬるくなったいちごオレが、誰にも見つからないように、静かに泣いていた。
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