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hage.61

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「リツキくんはアイを裏切るようなことしないよ。してたら、教室でキスしたりしない。あれって、アイを励ますためでしょ?」

チナツが勇気づけるようにオレの眼をのぞき込む。

「アイ、リツキくんを信じて。リツキくんのこと、好きでしょ?誰にも渡したくないでしょ?」

リツキが好き。

地蔵になりかけていたオレの頭上を、次々と漂っていた言葉たちの中で、その言葉だけが立ち止まって、振り仰いだオレの体内に降りてきた。

リツキが好き。

胸の奥にすとんと落ちて、揺るがなくそこにはまる。

リツキを信じる。

「チナツ。オレ、どうしたらいいかな」

オレは、情けないし、自信もないし、間違いだらけだけど、でも。

リツキのこと、あきらめたくないよ。

「うん!そうこなくっちゃ」

チナツが嬉しそうにオレを見て、もう一度強くオレに抱き付いた。

「容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備、質実剛健(?)、八方美人(??)な最高級ローストビーフ・カワシマセンセ。お茶漬けコマチにもう一度だけチャンスを下さいっっ」

そして、とりあえず、オレに出来ることは、カワシマに土下座。

「お~ほっほっほ、お茶漬けコマちゃん。何ホントのこと言ってくれちゃってるのかしら」

英語準備室前の廊下にて。
通り過ぎようとして思わず二度見するヤツらの視線が痛い。

健全なテスト期間に、オレは一体何をしているんだ?

「お願いします、女神カワシマ様」

「まあ、そこまで言うなら考えてあげないこともないわ」

細いヒールを履いた足を組み、超上から目線で見下ろすカワシマ。
…バカでよかった。

と思っていたら、急にカワシマがしゃがみこんで、オレをのぞき見る。

「ねえ、コマちゃん。リっくんのこと、そんなに好き?」

カワシマの眼が、オレの本心を見透かそうとしていて、嘘は許さないと言っていて、その鋭い眼光に若干ひるみそうになるけれど、

「…好きです」

それだけは、オレだってゆずれねー。

「そう」

詰めていた息を吐き出すように言ったカワシマは、少し寂しそうな顔をして、

「立って。場所変えましょ」

オレを立たせると、英語準備室に背を向けた。

「コマちゃんはいちごオレね」

カワシマは自販機で飲み物を買うと、オレに渡してくれ、自分はコーヒーを一口飲んでから渡り廊下のベンチに座った。

おずおずとその隣に座ると、

「こう見えても、私も本当に、…本当にリっくんのこと、好きだったのよ」

長い髪をかき上げて、カワシマが遠くに視線をはせる。
噛みしめるように言ったカワシマの声は、リツキを想ってか、切なく揺れていた。
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