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hage.59
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「まぁ、大丈夫だよ。アイ。あのリツキくんが、本気でアイを見捨てるわけないって」
チナツの慰めもむなしくオレの上を漂っていく。
オレはもう、地蔵になりたい。
ただひたすらに風雪に耐え、無我の境地で、一心に祈りに身を捧ぐ、…
「アイってば!しっかりしなよ。ほら、お昼食べに行こっ」
チナツに引きずられて中庭に出る。
教室を出るときに、チラリとリツキを目で探すと、冷たい後ろ姿しか見えなかった。
「アイ。卵焼きあげるから」
…んまい。
「カリカリポテトもあげるから」
…んまい。
「ひじきご飯もいいよ」
…んますぎる。
「ふぅ、…チナツ、失恋て食欲なくなるもんだな」
「いや、完食だから」
悔しいくらい晴れた青空も初夏の風も校内から響く笑い声も、何もかもが虚しく感じる。
リツキに捨てられた。
あれからリツキと一度も目が合わない。
リツキの姿が目に入るだけで、
クラスの男子と話してる声が聞こえてくるだけで、
胸が痛い。
「素直に謝っちゃいなよ。賭けてごめんねって。それで好きって言うのがいいよ。川嶋先生のとこにも西本ミクのとこにも行かないでって」
チナツが優しく俺の頭をなでてくれる。
「…アイツ、すげー怒ってて近づけねー」
「それでも!何回でも謝るしかないよ」
「…オレ、カワシマに負けたし」
「まあ、それは、そうなんだけど。リツキくんが一回ヤってくれたら、川嶋先生も満足するんじゃない?」
一回ヤる。
リツキがあの手でカワシマを触って、あの唇でカワシマにキスして、あの胸にカワシマを抱いて、オレが知らない一番近くで溶け合う、…
「チナツ~~~~~~っ」
「あ~、もう、ウソウソ。冗談だって」
本気で泣けてきた。
そんなの、やだよ。
「ニャっ!」
悲しみのどん底に突き落とされているオレの哀愁を、まるっきり無視して、突然、ハゲが軽々しくひっかかれた。
「いてーな、チビ!」
そんな罰当たりな輩は、チビ猫しかいねー。
こいつ、ぜってー、ハゲを狙ってる!
「ニャヒ~」
チビ猫はなぜかオレの上に登ってきて偉そうにふんぞり返る。
「なんだよ、お前。ってか、お前…」
「ヒメちゃん。可愛いね。しかもいい匂い」
チナツがチビ猫をなでるので、チビ猫はますます図に乗ってふんぞり返り、度が過ぎて後ろに倒れた。
…バカ?
「こいつ、甘い香りするよな?」
「だね。シャンプーかな」
チナツがチビをなでながら、鼻を動かす。
一緒にオレも確かめる。
これってやっぱり、ニシモトの香りじゃん!
「アイ先輩、すみません。ヒメ跳んでっちゃって」
息を切らせてニシモトがやってきた。
「ニシモト、ちょいちょい」
ニシモトを呼び寄せて匂いをかいでみる。
「…アイ先輩?」
ニシモトが不審そうにオレを見るけど、この際、無視。
ニシモトとチビ猫を嗅ぎ比べると、明らかにチビ猫の方が香りが強い。
「なぁ、この香り、なに?」
「ヒメのシャンプーなんですけど、ちょっと付けすぎちゃって、匂いが残っちゃったんです」
ニシモトがすまなそうにチビ猫に手を伸ばす。
細くて白くて爪まで磨かれたキレイな手。
「女の子っぽい匂いだね」
「ニャフ~」
チナツの言葉にすり寄るチビ猫。
…乙女きどりか。
でも。
「…お前の匂いかよ」
チビ猫の額を指でつつくと、チビ猫がオレの指をつかんで舌で舐めた。
味見?
オレの手。
日に焼けた手の甲と短く切られた爪。
キレイさとかオシャレさとか、かけらもねーな。
チナツの慰めもむなしくオレの上を漂っていく。
オレはもう、地蔵になりたい。
ただひたすらに風雪に耐え、無我の境地で、一心に祈りに身を捧ぐ、…
「アイってば!しっかりしなよ。ほら、お昼食べに行こっ」
チナツに引きずられて中庭に出る。
教室を出るときに、チラリとリツキを目で探すと、冷たい後ろ姿しか見えなかった。
「アイ。卵焼きあげるから」
…んまい。
「カリカリポテトもあげるから」
…んまい。
「ひじきご飯もいいよ」
…んますぎる。
「ふぅ、…チナツ、失恋て食欲なくなるもんだな」
「いや、完食だから」
悔しいくらい晴れた青空も初夏の風も校内から響く笑い声も、何もかもが虚しく感じる。
リツキに捨てられた。
あれからリツキと一度も目が合わない。
リツキの姿が目に入るだけで、
クラスの男子と話してる声が聞こえてくるだけで、
胸が痛い。
「素直に謝っちゃいなよ。賭けてごめんねって。それで好きって言うのがいいよ。川嶋先生のとこにも西本ミクのとこにも行かないでって」
チナツが優しく俺の頭をなでてくれる。
「…アイツ、すげー怒ってて近づけねー」
「それでも!何回でも謝るしかないよ」
「…オレ、カワシマに負けたし」
「まあ、それは、そうなんだけど。リツキくんが一回ヤってくれたら、川嶋先生も満足するんじゃない?」
一回ヤる。
リツキがあの手でカワシマを触って、あの唇でカワシマにキスして、あの胸にカワシマを抱いて、オレが知らない一番近くで溶け合う、…
「チナツ~~~~~~っ」
「あ~、もう、ウソウソ。冗談だって」
本気で泣けてきた。
そんなの、やだよ。
「ニャっ!」
悲しみのどん底に突き落とされているオレの哀愁を、まるっきり無視して、突然、ハゲが軽々しくひっかかれた。
「いてーな、チビ!」
そんな罰当たりな輩は、チビ猫しかいねー。
こいつ、ぜってー、ハゲを狙ってる!
「ニャヒ~」
チビ猫はなぜかオレの上に登ってきて偉そうにふんぞり返る。
「なんだよ、お前。ってか、お前…」
「ヒメちゃん。可愛いね。しかもいい匂い」
チナツがチビ猫をなでるので、チビ猫はますます図に乗ってふんぞり返り、度が過ぎて後ろに倒れた。
…バカ?
「こいつ、甘い香りするよな?」
「だね。シャンプーかな」
チナツがチビをなでながら、鼻を動かす。
一緒にオレも確かめる。
これってやっぱり、ニシモトの香りじゃん!
「アイ先輩、すみません。ヒメ跳んでっちゃって」
息を切らせてニシモトがやってきた。
「ニシモト、ちょいちょい」
ニシモトを呼び寄せて匂いをかいでみる。
「…アイ先輩?」
ニシモトが不審そうにオレを見るけど、この際、無視。
ニシモトとチビ猫を嗅ぎ比べると、明らかにチビ猫の方が香りが強い。
「なぁ、この香り、なに?」
「ヒメのシャンプーなんですけど、ちょっと付けすぎちゃって、匂いが残っちゃったんです」
ニシモトがすまなそうにチビ猫に手を伸ばす。
細くて白くて爪まで磨かれたキレイな手。
「女の子っぽい匂いだね」
「ニャフ~」
チナツの言葉にすり寄るチビ猫。
…乙女きどりか。
でも。
「…お前の匂いかよ」
チビ猫の額を指でつつくと、チビ猫がオレの指をつかんで舌で舐めた。
味見?
オレの手。
日に焼けた手の甲と短く切られた爪。
キレイさとかオシャレさとか、かけらもねーな。
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