52 / 118
hage.52
しおりを挟む
「一人で帰れるから。じゃあな、また明日」
奴らの手を振りほどいてオレが歩き出すと、タカヤとハセガワは一瞬顔を見合わせてから同時に背け、仏頂面で黙って後からついてきた。
や。着いてこなくていいって。
変な意地の張り合いすんなよ。
後ろから迫りくる無言のプレッシャーにげんなりしながらやっと団地にたどり着くと、
「ちょっと、アイ!両手にイイオトコってどういうことよ?」
ハナクソが登場して、オレのなけなしの気力は根こそぎ果てた。
「うるせー、ハナクソ」
ハナクソをスルーしようと試みるも、
「うぉ、ギブギブ!」
容赦ないヘッドロックをかまされ、あっさり降参する羽目に陥る。
バカ力健在。
「学校のお友だちです。ハナお姉さま」
ハナクソ、恐るべし。
「あら、嫌だわ。初めまして。ワタクシ、アイの姉、ハナです。趣味は琴です」
ぶーーーーーっ、ほらふきすぎだろ!
オレたちの狭い部屋のどこに琴が、…
「お前ら、ウチの前で何騒いでんの?」
「リツ!」
「リツキ!」
団地の入り口で溜まっていたオレらの前に、強化練帰りのリツキが現れた。
なんか。
なんか、すげー久しぶりな気がする。
実際朝も学校でも会ってるんだけど、いつもニシモトとチビ猫が張り付いてたし、オレはアルファベットにやられてたし、だから、…
リツキを見てたら、よくわからない感情が込み上げてきて、動けなくなった。
「ん。ただいま、アイ」
固まっているオレにリツキが近づいてきて、オレの頭を片腕で抱き込み、そのまま頭に口づける。
あれ、…
「ほらな。お互いしか見えてねえから」
「…あの人目をはばからない感じも嫌い」
「ちょっと、お姉さまを差し置いて、いつの間にそんなことになってるのよ~」
リツキから、知らない香りがする。
リツキの腕の中にいるのに、知らない場所に迷い込んだような気分になる。
いつもそのままのオレを丸ごと包み込んでくれるリツキの胸が、まるで知らない誰かのものみたいで、反射的に後ずさっていた。
「…アイ?」
リツキの腕から抜け出して、うまく笑えたかわからない。
「お疲れ、おやすみっ」
団地の外階段を駆け上がって、一目散に家に飛び込む。
「おい、アイ!?」
リツキに追いつかれる前に急いでドアを閉めて鍵をかけた。
オレとリツキの間にあるのが、玄関のドア一枚よりもずっとずっと多い気がするのはなぜだろう。
鍵をかけた時に、取り返しのつかない間違いを犯したような気がしたのはなぜだろう。
『ちゃんとリツキと向き合えよ。リツキのこと、好きなんだろ?』
好きだと思うほど、離れていく気がするのはなぜだろうか…
奴らの手を振りほどいてオレが歩き出すと、タカヤとハセガワは一瞬顔を見合わせてから同時に背け、仏頂面で黙って後からついてきた。
や。着いてこなくていいって。
変な意地の張り合いすんなよ。
後ろから迫りくる無言のプレッシャーにげんなりしながらやっと団地にたどり着くと、
「ちょっと、アイ!両手にイイオトコってどういうことよ?」
ハナクソが登場して、オレのなけなしの気力は根こそぎ果てた。
「うるせー、ハナクソ」
ハナクソをスルーしようと試みるも、
「うぉ、ギブギブ!」
容赦ないヘッドロックをかまされ、あっさり降参する羽目に陥る。
バカ力健在。
「学校のお友だちです。ハナお姉さま」
ハナクソ、恐るべし。
「あら、嫌だわ。初めまして。ワタクシ、アイの姉、ハナです。趣味は琴です」
ぶーーーーーっ、ほらふきすぎだろ!
オレたちの狭い部屋のどこに琴が、…
「お前ら、ウチの前で何騒いでんの?」
「リツ!」
「リツキ!」
団地の入り口で溜まっていたオレらの前に、強化練帰りのリツキが現れた。
なんか。
なんか、すげー久しぶりな気がする。
実際朝も学校でも会ってるんだけど、いつもニシモトとチビ猫が張り付いてたし、オレはアルファベットにやられてたし、だから、…
リツキを見てたら、よくわからない感情が込み上げてきて、動けなくなった。
「ん。ただいま、アイ」
固まっているオレにリツキが近づいてきて、オレの頭を片腕で抱き込み、そのまま頭に口づける。
あれ、…
「ほらな。お互いしか見えてねえから」
「…あの人目をはばからない感じも嫌い」
「ちょっと、お姉さまを差し置いて、いつの間にそんなことになってるのよ~」
リツキから、知らない香りがする。
リツキの腕の中にいるのに、知らない場所に迷い込んだような気分になる。
いつもそのままのオレを丸ごと包み込んでくれるリツキの胸が、まるで知らない誰かのものみたいで、反射的に後ずさっていた。
「…アイ?」
リツキの腕から抜け出して、うまく笑えたかわからない。
「お疲れ、おやすみっ」
団地の外階段を駆け上がって、一目散に家に飛び込む。
「おい、アイ!?」
リツキに追いつかれる前に急いでドアを閉めて鍵をかけた。
オレとリツキの間にあるのが、玄関のドア一枚よりもずっとずっと多い気がするのはなぜだろう。
鍵をかけた時に、取り返しのつかない間違いを犯したような気がしたのはなぜだろう。
『ちゃんとリツキと向き合えよ。リツキのこと、好きなんだろ?』
好きだと思うほど、離れていく気がするのはなぜだろうか…
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる