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hage.52
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「一人で帰れるから。じゃあな、また明日」
奴らの手を振りほどいてオレが歩き出すと、タカヤとハセガワは一瞬顔を見合わせてから同時に背け、仏頂面で黙って後からついてきた。
や。着いてこなくていいって。
変な意地の張り合いすんなよ。
後ろから迫りくる無言のプレッシャーにげんなりしながらやっと団地にたどり着くと、
「ちょっと、アイ!両手にイイオトコってどういうことよ?」
ハナクソが登場して、オレのなけなしの気力は根こそぎ果てた。
「うるせー、ハナクソ」
ハナクソをスルーしようと試みるも、
「うぉ、ギブギブ!」
容赦ないヘッドロックをかまされ、あっさり降参する羽目に陥る。
バカ力健在。
「学校のお友だちです。ハナお姉さま」
ハナクソ、恐るべし。
「あら、嫌だわ。初めまして。ワタクシ、アイの姉、ハナです。趣味は琴です」
ぶーーーーーっ、ほらふきすぎだろ!
オレたちの狭い部屋のどこに琴が、…
「お前ら、ウチの前で何騒いでんの?」
「リツ!」
「リツキ!」
団地の入り口で溜まっていたオレらの前に、強化練帰りのリツキが現れた。
なんか。
なんか、すげー久しぶりな気がする。
実際朝も学校でも会ってるんだけど、いつもニシモトとチビ猫が張り付いてたし、オレはアルファベットにやられてたし、だから、…
リツキを見てたら、よくわからない感情が込み上げてきて、動けなくなった。
「ん。ただいま、アイ」
固まっているオレにリツキが近づいてきて、オレの頭を片腕で抱き込み、そのまま頭に口づける。
あれ、…
「ほらな。お互いしか見えてねえから」
「…あの人目をはばからない感じも嫌い」
「ちょっと、お姉さまを差し置いて、いつの間にそんなことになってるのよ~」
リツキから、知らない香りがする。
リツキの腕の中にいるのに、知らない場所に迷い込んだような気分になる。
いつもそのままのオレを丸ごと包み込んでくれるリツキの胸が、まるで知らない誰かのものみたいで、反射的に後ずさっていた。
「…アイ?」
リツキの腕から抜け出して、うまく笑えたかわからない。
「お疲れ、おやすみっ」
団地の外階段を駆け上がって、一目散に家に飛び込む。
「おい、アイ!?」
リツキに追いつかれる前に急いでドアを閉めて鍵をかけた。
オレとリツキの間にあるのが、玄関のドア一枚よりもずっとずっと多い気がするのはなぜだろう。
鍵をかけた時に、取り返しのつかない間違いを犯したような気がしたのはなぜだろう。
『ちゃんとリツキと向き合えよ。リツキのこと、好きなんだろ?』
好きだと思うほど、離れていく気がするのはなぜだろうか…
奴らの手を振りほどいてオレが歩き出すと、タカヤとハセガワは一瞬顔を見合わせてから同時に背け、仏頂面で黙って後からついてきた。
や。着いてこなくていいって。
変な意地の張り合いすんなよ。
後ろから迫りくる無言のプレッシャーにげんなりしながらやっと団地にたどり着くと、
「ちょっと、アイ!両手にイイオトコってどういうことよ?」
ハナクソが登場して、オレのなけなしの気力は根こそぎ果てた。
「うるせー、ハナクソ」
ハナクソをスルーしようと試みるも、
「うぉ、ギブギブ!」
容赦ないヘッドロックをかまされ、あっさり降参する羽目に陥る。
バカ力健在。
「学校のお友だちです。ハナお姉さま」
ハナクソ、恐るべし。
「あら、嫌だわ。初めまして。ワタクシ、アイの姉、ハナです。趣味は琴です」
ぶーーーーーっ、ほらふきすぎだろ!
オレたちの狭い部屋のどこに琴が、…
「お前ら、ウチの前で何騒いでんの?」
「リツ!」
「リツキ!」
団地の入り口で溜まっていたオレらの前に、強化練帰りのリツキが現れた。
なんか。
なんか、すげー久しぶりな気がする。
実際朝も学校でも会ってるんだけど、いつもニシモトとチビ猫が張り付いてたし、オレはアルファベットにやられてたし、だから、…
リツキを見てたら、よくわからない感情が込み上げてきて、動けなくなった。
「ん。ただいま、アイ」
固まっているオレにリツキが近づいてきて、オレの頭を片腕で抱き込み、そのまま頭に口づける。
あれ、…
「ほらな。お互いしか見えてねえから」
「…あの人目をはばからない感じも嫌い」
「ちょっと、お姉さまを差し置いて、いつの間にそんなことになってるのよ~」
リツキから、知らない香りがする。
リツキの腕の中にいるのに、知らない場所に迷い込んだような気分になる。
いつもそのままのオレを丸ごと包み込んでくれるリツキの胸が、まるで知らない誰かのものみたいで、反射的に後ずさっていた。
「…アイ?」
リツキの腕から抜け出して、うまく笑えたかわからない。
「お疲れ、おやすみっ」
団地の外階段を駆け上がって、一目散に家に飛び込む。
「おい、アイ!?」
リツキに追いつかれる前に急いでドアを閉めて鍵をかけた。
オレとリツキの間にあるのが、玄関のドア一枚よりもずっとずっと多い気がするのはなぜだろう。
鍵をかけた時に、取り返しのつかない間違いを犯したような気がしたのはなぜだろう。
『ちゃんとリツキと向き合えよ。リツキのこと、好きなんだろ?』
好きだと思うほど、離れていく気がするのはなぜだろうか…
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