【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される??

remo

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11章.天上の花を探しに行く

08.

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「無駄な抵抗は止めることですじゃ」

この瞬間だけヤモリになりたいと思いながら、険しい岩肌をずるずる落下していると、突如聞いたことのある声が耳に入った。

え。なんで、ここに、…

左右に首を巡らせると、上方から何かが動いているようなどこか不吉な音がする。見上げると、今まさに巨大な岩が落とされようとしており、その傍らにほんの一瞬、長い髭と光に反射した丸めがねが映った。

…どういうこと、だ?

考える間もなく、俺目がけて落とされた巨大な岩が高速で迫ってきて、慌てて避けようと険しく切り立った崖を横に移動した。

「あ、…っ」

つもりが、バランスを崩して、尖った岩にかけた手が滑り、つかみ直そうとした手は空を切った。

やべ、…落ちる。

空を切った手の勢いに引かれて、上から迫ってきた岩と共に身体ごと落ちる。空中でがむしゃらにもがいたが、手足は崖に届かず、真っ逆さまに落下した。

バッシャ―――――ン‼

派手な音を立てて岩と共に水面に突っ込み、押し潰されるように水中深くへと飲み込まれていく。

…ジョシュア。

ジョシュアが被せてくれたマスクが脱げて、掴みかけた手をすり抜け、漏れた気泡に包まれて浮かび上がっていく。ジョシュアの手を掴み損ねたみたいな気がして、ひどく心許なかった。

水は底知れないほど深く、下の方に何か光を発するものがあるようで、水中は鮮やかなウルトラマリンブルーに煌めいていた。

ラピスラズリ。

ふいに、憧憬の念に駆られる。

天上の花。瑠璃色の花。ウルトラマリン。ラピスラズリ。
俺の瞳の色。生命の源。海に還る。宇宙のオアシス。

急速に水底に引きずり込まれながら、無数のイメージが浮かんでは消えていく。不思議と息苦しさは感じなかった。寂しいような懐かしいようなノスタルジックな空気に包まれて、どこまでも落ちていく。水底は暗くはなく、むしろ明るさが増していき、視界は一面、瑠璃色に染め上げられた。

夢うつつのはざまを彷徨って、深く深く沈んでいく。
ぼんやりとウルトラマリンに、身も心も溶けていく。

「…起きろ、ニンゲン」

どのくらい落ちていったのか、気が付いたら冷たい床の上にうつ伏せになっており、何かに蹴られて横向きに転がった。

「…あ。…無事、でした、…?」

目を上げると仁王立ちになったジョシュアの側近獣人たちが見えた。鮫、蛇、狼、カバ、チーター、大鷹の6獣人がぐるりと俺を取り囲み、汚らわしいものに触れるかのように足の先でつついている。

「王がお呼びだ」

獣人たちは、俺の問いかけを無視して、早く立ち上がれとばかりに足先を蹴り出しながら急かしてくる。

なんだか、おかしい。
いつもと様子が違う、気がする。俺はほとんど話したこともないけど、この獣人たちはそろいもそろって、こんなに敵対心むき出しだったっけ。

違和感を感じながら立ち上がると、岩場で擦った傷と打ち身がじわじわ痛むのを感じた。が、まあ動くのにさして支障はない。獣人たちに囲まれ、促されるままに歩き出す。

竜宮城、ってこんな感じなのかな?

と思わせるような、マリンブルーに彩られた宮殿を忍びやかに歩く。崖下に溜まった泉の奥底に、こんな宮殿が眠っていたのか。

天上の花を見た。

と、誰かが言っていたという話も頷ける。天国に迷い込んだような風景。水中に沈むウルトラマリンの宮殿。水晶のような素材一つ一つが夢のように煌びやかで美しい光を放っている。そこで普通に呼吸して会話して歩いている。

夢を見ているような気がした。

「…待ちくたびれたぞ」

が、夢見心地のまま訪れた祭壇のような場所で、心奪われるような瑠璃色の花をバックに、不遜な様子で長い足を組んで座り、俺を見下ろしている人物を見たら、一気に目が覚めた。
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