【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される??

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11章.天上の花を探しに行く

05.

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知的にも体力的にも人間よりはるかに優れているという獣人は、軽やかな俊足で地上を跳ぶ。
暗がりの中でも神々しい光を放つ金と銀の獅子を先頭に、岩と砂礫ばかりの荒野を俊敏に駆け抜け、隆起した巨大な岩肌をいくつも乗り越え、切り立った岩の隙間に降り立つと、岩ばかりの荒々しい空間に、仄暗く広がった洞窟の入り口が現れた。

「ここだ」

荒野に降りた時よりも一段と息苦しさが募る。洞窟の中から濃厚な毒素が排出されて、霧のように立ち込めているのが分かった。

「ラズ、苦しいか?」

ジョシュアは銀獅子姿で、俺を艶やかな毛並みの肩に縦抱きにしている。自力で歩いたら足を引っ張るのは間違いないから甘えているけど、一行の中で俺だけ息が切れている。悲しいくらい足手まといな、俺。

強がって左右にかぶりを振ると、ジョシュアが瞳を緩めて長い舌で俺の唇をこじ開けた。

「無理するな、お前は人間だ」

甘い舌に息を注ぎ込まれると、途端に呼吸が楽になる。呼吸だけでなく気持ちも。

「…ありがと」
「気休めだが、被ってろ」

ジョシュアがライオン型の薄いマスクを俺に被せる。そんな場合じゃないけどコスプレしてるみたいでちょっと楽しい。似合うか? とジョシュアを見ると、ジョシュアはしばらく無言で俺を眺めた後、満足そうにマスクの上から俺を舐めた。

とりあえず、合格らしい。

「いちいちいちゃつくんじゃねえよ、行くぞ」

舌打ち混じりのエイトリアンが先に立ち、続いて洞窟に足を踏み入れた。

ジョシュアのためには俺は王都で待っていた方が良かったのかもしれない。でも、…

洞窟に入ると、一気に視界が奪われた。
ただでさえ暗かったのに、周りがほとんど見えない。俺を抱いているジョシュアの顔すら判然としない。が、獣人たちは俺より目が良いらしく確かな足取りで奥に進んで行く。

外界の音も遮断され、このまま世界から切り離されてしまうのではないかという得体のしれない不安が込み上げる。水滴が落ちるような音が不気味にこだましているのも不安を増長させる。四方を覆われた洞窟の中は毒素が濃厚で、どことなく肌に刺激を感じるし異臭も漂っている。マスクを被せてもらって良かった。なるべく毒素を吸わないように極力息を潜めていると、

…キューイ―――…、キューイ―――…

どこからか甲高い動物の鳴き声のような音がした。途端に、全身が強張って総毛立つ。悪寒が這い上る。

「この、音、…」

どこかで聞いた気がする。
ジョシュアに言いかけた時、洞窟の上方から鍾乳石が雪崩れ落ちてきた。

「ジョシュア様っ‼」

獣人たちがすかさず走る。

次々と、まるで俺たちを狙っているかのように鋭く尖った切っ先を向けて、鍾乳石が地面に突き刺さり、激しい音を立てて砕ける。間一髪、すり抜けて進む俺たち目がけて洞窟の岩肌が矢のように降りかかり、行く手を阻むばかりか前方から土砂となって足元をすくう。

…キューイ―――…、キューイ―――…

岩が砕け散る轟音が響く中、繰り返される甲高い鳴き声と、毒素の異臭にお香のような匂いを感じた。

「ジョシュア様、危な、…っ‼」

後方を走る側近獣人が俺を抱えたジョシュアに呼びかけたのを最後に、今いた場所は崩れ落ちた岩石に埋まった。
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