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11章.天上の花を探しに行く
03.
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「…分かった。ジェイの洞窟に行くぞ」
重苦しい空気を破ったのはエイトリアンだった。
「ジェイの、洞窟、…?」
トーニ爺さんと医師さんたちが首を傾げる中、ジョシュアだけはピンときたようで、
「ジェームズ王の魂が眠ると言われている滅びた国の跡地に出来た鍾乳洞のことか」
「そうだ。生物が一切存在できない岩と砂ばかりの土地だったが、長い年月を経て、今は鍾乳洞が出来ている。俺たちはそこをジェイの洞窟と呼んでいる」
ジョシュアの言葉にエイトリアンが頷く。
「その洞窟に何かあるんですか?」
「鍾乳洞の奥は毒素が強く人間はおろか獣人も好んで入らないが、昔そこに迷い込んだ人間が命果てる前に言い残したことがある。天上の花を見た。瑠璃色に輝く奇跡の花を」
天上の花。瑠璃色の花?
話が見えていない一同の中、やはりジョシュアだけがエイトリアンの話に素早い反応を見せた。
「イキナセナバナの花色は目が覚めるようなウルトラマリン。その人間が見たのは、蘇ったイキナセナバナかもしれないってことか」
エイトリアンが無言で頷き、トーニ爺さんも興奮気味にその説に食いついた。
「…なるほど、確かに。かつてのイキナ国の跡地ですじゃ。地形の変動と雨水の浸透、他生物の往来によって葬り去ったはずのものが蘇る可能性はないとは言い切れませんですじゃ」
エイトリアンって普段チャラいし何してんのか不明だったけど、ちゃんと死森の状況に詳しいんだな。エイトの森の番人ていうの、あながち間違ってないんだな。と、ちょっと見直していたら、手の早い兄貴にまたも無言ではたかれた。
なんで? なんでこいつ俺の頭ん中が読める?
納得いかなくて、ほんのり上目でジョシュアに審判を仰いだら、
「後でな」
ジョシュアが俺の耳に囁いて、髪に差し込んだ指を回して髪をぐるぐる巻きにした。え。なんか俺、破廉恥なお願いしたみたいになってる? またキスしてほしいとか、言ってねえからなっ
恥ずかしくなってジョシュアの胸に額をぶつけていると、ふと、冷ややかな視線を感じた。
ジョシュア、エイトリアン、トーニ爺さん、カメ医師、ウサギ看護師、昏睡するネメシスさん、…
顔を上げて見回しても、いたって周りは普段通り。
でも、なんか、誰か。
ほの暗い憎悪の感情を俺に向けてた、…
「…ラズ、大丈夫か?」
得も言われぬ悪意に身震いしたら、ジョシュアにのぞき込まれ、反射的に頷いた。…大丈夫、かどうかは自信がないけど。
「お前、ここで待ってる?」
ジョシュアの虹色の瞳が俺を映して揺れている。
「ジェイの洞窟は魔物の巣窟とも言われている。ジェームズ王の怨念や滅ぼされたイキナ国の死霊が彷徨っている。お前は死森の毒に侵されることはないだろうが、鍾乳洞は毒素も濃いし、何があるか分からない」
エイトリアンにも真っ向から見据えられた。
俺は王の側近獣人ネメシスさんに毒を盛った第一容疑者。その毒はかつて人間が開発し自国を滅亡に追いやったシデランソウであることが判明した。人間である俺がシデランを持ち込み、茶葉に混入させた。と考えるのは自然で、獣人たちの人間に対する反感、というか俺に対する嫌悪感が高まっている。
疑惑を晴らす方法は一つ。
「俺も行きたい」
真犯人を突き止めること。
重苦しい空気を破ったのはエイトリアンだった。
「ジェイの、洞窟、…?」
トーニ爺さんと医師さんたちが首を傾げる中、ジョシュアだけはピンときたようで、
「ジェームズ王の魂が眠ると言われている滅びた国の跡地に出来た鍾乳洞のことか」
「そうだ。生物が一切存在できない岩と砂ばかりの土地だったが、長い年月を経て、今は鍾乳洞が出来ている。俺たちはそこをジェイの洞窟と呼んでいる」
ジョシュアの言葉にエイトリアンが頷く。
「その洞窟に何かあるんですか?」
「鍾乳洞の奥は毒素が強く人間はおろか獣人も好んで入らないが、昔そこに迷い込んだ人間が命果てる前に言い残したことがある。天上の花を見た。瑠璃色に輝く奇跡の花を」
天上の花。瑠璃色の花?
話が見えていない一同の中、やはりジョシュアだけがエイトリアンの話に素早い反応を見せた。
「イキナセナバナの花色は目が覚めるようなウルトラマリン。その人間が見たのは、蘇ったイキナセナバナかもしれないってことか」
エイトリアンが無言で頷き、トーニ爺さんも興奮気味にその説に食いついた。
「…なるほど、確かに。かつてのイキナ国の跡地ですじゃ。地形の変動と雨水の浸透、他生物の往来によって葬り去ったはずのものが蘇る可能性はないとは言い切れませんですじゃ」
エイトリアンって普段チャラいし何してんのか不明だったけど、ちゃんと死森の状況に詳しいんだな。エイトの森の番人ていうの、あながち間違ってないんだな。と、ちょっと見直していたら、手の早い兄貴にまたも無言ではたかれた。
なんで? なんでこいつ俺の頭ん中が読める?
納得いかなくて、ほんのり上目でジョシュアに審判を仰いだら、
「後でな」
ジョシュアが俺の耳に囁いて、髪に差し込んだ指を回して髪をぐるぐる巻きにした。え。なんか俺、破廉恥なお願いしたみたいになってる? またキスしてほしいとか、言ってねえからなっ
恥ずかしくなってジョシュアの胸に額をぶつけていると、ふと、冷ややかな視線を感じた。
ジョシュア、エイトリアン、トーニ爺さん、カメ医師、ウサギ看護師、昏睡するネメシスさん、…
顔を上げて見回しても、いたって周りは普段通り。
でも、なんか、誰か。
ほの暗い憎悪の感情を俺に向けてた、…
「…ラズ、大丈夫か?」
得も言われぬ悪意に身震いしたら、ジョシュアにのぞき込まれ、反射的に頷いた。…大丈夫、かどうかは自信がないけど。
「お前、ここで待ってる?」
ジョシュアの虹色の瞳が俺を映して揺れている。
「ジェイの洞窟は魔物の巣窟とも言われている。ジェームズ王の怨念や滅ぼされたイキナ国の死霊が彷徨っている。お前は死森の毒に侵されることはないだろうが、鍾乳洞は毒素も濃いし、何があるか分からない」
エイトリアンにも真っ向から見据えられた。
俺は王の側近獣人ネメシスさんに毒を盛った第一容疑者。その毒はかつて人間が開発し自国を滅亡に追いやったシデランソウであることが判明した。人間である俺がシデランを持ち込み、茶葉に混入させた。と考えるのは自然で、獣人たちの人間に対する反感、というか俺に対する嫌悪感が高まっている。
疑惑を晴らす方法は一つ。
「俺も行きたい」
真犯人を突き止めること。
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