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10.5章.番外編(side.ジョシュア)本編に関係のない休憩譚です。
①ローズベルト・ウィリアム・ディ・アンドレ・ジョシュアの憂鬱
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⁂ 時、遡ること少しばかり。毒茶騒ぎが起こる前。
―――――――――――――――――――――
「…愛してる」
俺の可愛い花嫁は、俺に散々泣かされて、喘がされて、溶かされて、蕩け切った顔をして無防備に俺の腕の中でまどろみながら、
「しゅう、…」
違う男の名前を呼ぶ。
誰だよ、しゅう‼
分かっているけど、そこは苛立ちが抑えきれない。
強引に唇を塞いで、俺の名前しか呼べないように、奥深くまで穿って揺らして刻み込んで、俺でいっぱいにする。溢れるほど俺を注ぎ込むと、絶対に離れたくないかのように、甘く熱く従順に俺に応えて、俺しか見えないみたいに全力で俺を求めてくるのに、…なんで。
まだ。こいつの中にはあの忌々しい男がいる。
…愛してる、だと⁉︎
俺だってまだ言われたことないのに。
俺の花嫁ラピスラズリは、人界にあるアレクサンドロニカ王朝の没落貴族の娘で、家族からは召使同然の扱いを受けるなど不遇な環境に身を置いていたが、金と引き換えに継承権の低い皇族に嫁がされたところ、その相手が権力闘争の駒として皇太子の地位まで登り、王位をつかみそうになったことで、強欲な妹に陥れられて婚約を取って代わられ、無実の罪で死森に捨てられた。
…らしい。
一時的に婚約者だったその相手というのが、
「あ、…あの。王様。流れるような銀色のその美しい御髪に、さ、さ、触らせてもらっても、…」
「断る」
全体的に丸っこく、だるま体型で、団子鼻に分厚い唇、目ばかり小さく、基本無害そうだが、結構なナルシスト体質で、妙な好意を隠しもせずに擦り寄って来る好色そうな人間の男。名前をマシュマクベスト、通称マシューという。
この男の何がそんなに良かったのか、どう見ても、何度見ても俺にはさっぱり分からない。
しかし、俺の花嫁は時々この男に思いを馳せ、愛しそうにその名を呼ぶ。
シュウ、…と。
クソ、やっぱり殺してやれば良かった、マシュー。
まさかとは思うが、俺のラズに何かしたんじゃないだろうな⁉︎
忘れられないような、…何か。
考えたら胃がムカムカしてきた。
「あのぅ、王様。でしたら、少しばかりそのおみ足で僕をふ、ふ、踏みつけにしてもらったりとか、…」
「…殺す」
「ひえっ!?」
「…かもしれないから、むやみに俺に近づくな」
「はひぃっ‼」
丸顔が小さな目をいっぱいに開いて俺を見つめていたが、言い捨てて踵を返した。
しまった。こいつがラズに触ったかと思うと、我を忘れて斬りつけるところだった。
「はうう、王様、美しい。冷酷な感じもまた良し、…」
マシュマクベストが分厚い唇で人差し指を噛みながら俺を見ている。のを感じて悪寒が走る。本気で近づくのはやめてもらおうと思った。
しかし。解せん。
やっぱりさっぱり分からない。
見た目も中身も大して魅力は見つからない。強いて言うなら、あの分厚い唇が唯一のチャームポイント、…いや。無理だ。吐く。
ダメだ。分からん。分からんがしかし。俺のラズはあいつを忘れられない。
まあある意味。強烈な印象を残す男ではあるが。
「どうした、ジョシュア? なんか難しい顔して」
居室に戻るとラズが可愛らしく小首を傾げて俺を見上げてきた。
「…お茶、飲むか?」
そうしていそいそと俺のためにお茶を淹れてくれる。
く、…可愛い。可愛すぎる。
ラズのお茶を待てずに丸ごとラズを食べたくなるのだが、最大限理性を働かせて大人しく待ち、お茶を持ってきてくれたラズを膝抱きにして、一緒に飲む。
今夜のハーブは柑橘系の香りがする。輪切りのドライオレンジが浮かんでいる。
「やっぱオレンジにはルイボスが合うよな」
満足そうに笑うラズに、待ちきれずに唇を落とす。額も瞼も鼻頭も頬も、全部甘くて柔らかい。ラズの白い肌がほのかに色づいていくのが堪らない。
「…ジョシュア」
俺を呼ぶ唇をゆっくり塞ぐ。ずっと、俺のことだけ呼べばいいのに。
唇をついばみながら、ふと、あの分厚い唇がよぎって苛立ちが募る。もしかして、もしかしたら、唇が分厚い方が心地良い、とか。
「…ジョシュア?」
思い立って唇を最大限突き出してみると。
「…何してんの、お前?」
ラズが笑いながら俺に飛びついて、ちゅ、っと突き出した唇に吸い付いた。
え、…
ぶわあっと何とも言えない恥ずかしさと心地良さとくすぐったさが込み上げる。ラズにキスされた。ラズにキスされた。ラズにキスされた。
マジか。やっぱりか。ラズはタラコ唇が好きなのか。
「…なあ、ルウ。最近、タラコ料理多くないか?」
「ラズ姫さまの好物だと、ジョシュア様たってのご希望で」
「俺、タラコ好きだっけ?」
ラズ。
最高に上手いタラコ料理を食べさせてやるから、早くあのタラコ王子を忘れろよ。
(側近獣人談)
「ジョシュア様。最近唇を尖らせてることが多いよな」
「…ご立腹なのかな。猛烈に可愛いんだけど」
「それな」
―――――――――――――――――――――
「…愛してる」
俺の可愛い花嫁は、俺に散々泣かされて、喘がされて、溶かされて、蕩け切った顔をして無防備に俺の腕の中でまどろみながら、
「しゅう、…」
違う男の名前を呼ぶ。
誰だよ、しゅう‼
分かっているけど、そこは苛立ちが抑えきれない。
強引に唇を塞いで、俺の名前しか呼べないように、奥深くまで穿って揺らして刻み込んで、俺でいっぱいにする。溢れるほど俺を注ぎ込むと、絶対に離れたくないかのように、甘く熱く従順に俺に応えて、俺しか見えないみたいに全力で俺を求めてくるのに、…なんで。
まだ。こいつの中にはあの忌々しい男がいる。
…愛してる、だと⁉︎
俺だってまだ言われたことないのに。
俺の花嫁ラピスラズリは、人界にあるアレクサンドロニカ王朝の没落貴族の娘で、家族からは召使同然の扱いを受けるなど不遇な環境に身を置いていたが、金と引き換えに継承権の低い皇族に嫁がされたところ、その相手が権力闘争の駒として皇太子の地位まで登り、王位をつかみそうになったことで、強欲な妹に陥れられて婚約を取って代わられ、無実の罪で死森に捨てられた。
…らしい。
一時的に婚約者だったその相手というのが、
「あ、…あの。王様。流れるような銀色のその美しい御髪に、さ、さ、触らせてもらっても、…」
「断る」
全体的に丸っこく、だるま体型で、団子鼻に分厚い唇、目ばかり小さく、基本無害そうだが、結構なナルシスト体質で、妙な好意を隠しもせずに擦り寄って来る好色そうな人間の男。名前をマシュマクベスト、通称マシューという。
この男の何がそんなに良かったのか、どう見ても、何度見ても俺にはさっぱり分からない。
しかし、俺の花嫁は時々この男に思いを馳せ、愛しそうにその名を呼ぶ。
シュウ、…と。
クソ、やっぱり殺してやれば良かった、マシュー。
まさかとは思うが、俺のラズに何かしたんじゃないだろうな⁉︎
忘れられないような、…何か。
考えたら胃がムカムカしてきた。
「あのぅ、王様。でしたら、少しばかりそのおみ足で僕をふ、ふ、踏みつけにしてもらったりとか、…」
「…殺す」
「ひえっ!?」
「…かもしれないから、むやみに俺に近づくな」
「はひぃっ‼」
丸顔が小さな目をいっぱいに開いて俺を見つめていたが、言い捨てて踵を返した。
しまった。こいつがラズに触ったかと思うと、我を忘れて斬りつけるところだった。
「はうう、王様、美しい。冷酷な感じもまた良し、…」
マシュマクベストが分厚い唇で人差し指を噛みながら俺を見ている。のを感じて悪寒が走る。本気で近づくのはやめてもらおうと思った。
しかし。解せん。
やっぱりさっぱり分からない。
見た目も中身も大して魅力は見つからない。強いて言うなら、あの分厚い唇が唯一のチャームポイント、…いや。無理だ。吐く。
ダメだ。分からん。分からんがしかし。俺のラズはあいつを忘れられない。
まあある意味。強烈な印象を残す男ではあるが。
「どうした、ジョシュア? なんか難しい顔して」
居室に戻るとラズが可愛らしく小首を傾げて俺を見上げてきた。
「…お茶、飲むか?」
そうしていそいそと俺のためにお茶を淹れてくれる。
く、…可愛い。可愛すぎる。
ラズのお茶を待てずに丸ごとラズを食べたくなるのだが、最大限理性を働かせて大人しく待ち、お茶を持ってきてくれたラズを膝抱きにして、一緒に飲む。
今夜のハーブは柑橘系の香りがする。輪切りのドライオレンジが浮かんでいる。
「やっぱオレンジにはルイボスが合うよな」
満足そうに笑うラズに、待ちきれずに唇を落とす。額も瞼も鼻頭も頬も、全部甘くて柔らかい。ラズの白い肌がほのかに色づいていくのが堪らない。
「…ジョシュア」
俺を呼ぶ唇をゆっくり塞ぐ。ずっと、俺のことだけ呼べばいいのに。
唇をついばみながら、ふと、あの分厚い唇がよぎって苛立ちが募る。もしかして、もしかしたら、唇が分厚い方が心地良い、とか。
「…ジョシュア?」
思い立って唇を最大限突き出してみると。
「…何してんの、お前?」
ラズが笑いながら俺に飛びついて、ちゅ、っと突き出した唇に吸い付いた。
え、…
ぶわあっと何とも言えない恥ずかしさと心地良さとくすぐったさが込み上げる。ラズにキスされた。ラズにキスされた。ラズにキスされた。
マジか。やっぱりか。ラズはタラコ唇が好きなのか。
「…なあ、ルウ。最近、タラコ料理多くないか?」
「ラズ姫さまの好物だと、ジョシュア様たってのご希望で」
「俺、タラコ好きだっけ?」
ラズ。
最高に上手いタラコ料理を食べさせてやるから、早くあのタラコ王子を忘れろよ。
(側近獣人談)
「ジョシュア様。最近唇を尖らせてることが多いよな」
「…ご立腹なのかな。猛烈に可愛いんだけど」
「それな」
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