【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される??

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8章.獣人王宮でお茶を淹れる

07.

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「うむ。これはなかなか飲みやすいものが出来ましたな」

姫りんごのルイボスブレンドティーが出来上がり、トーニ爺さんと試飲してみたところ、まずまずの評価をもらった。リンゴの甘い香りが広がり、口当たりもまろやかで渋みは一切なく、確かに飲みやすい。ブレンドしたカモミールとラベンダーが心身をリラックスさせてくれるような気がするし、後味がすっきりしているのもいい。強いて言えばもう少し長時間リンゴを乾燥させた方が甘みが増すかもしれないから、次はトライしてみたいと思う。

よっしゃ、早速飲んでもらってこよう、と、出来上がったばかりの茶葉にポットと茶器を抱えて調剤室を出ると、

「何だか甘い香りがしますわ」「何をしてるのかい?」

温室の周りに農場で作業していたらしき獣人たちが集まっていた。

「皆様、ちょうど良いところにお越し下さいました。ラズ姫さまお手製のハーブティが入りましたところですじゃ」

「まああ、お茶ですの?」「ちょうど喉が渇いていたんだ」

トーニ爺さんはさらっと紹介してくれたけど、期待の籠った視線を一手に集めて、急に緊張してきた。俺はこれまで、大抵の場合、人の期待を台無しにして来た男だ。

小学校入学式の前日にこけて前歯が折れた状態で初登校。遠足のオリエンテーリングでは迷子になって俺のせいで班の優勝を逃す。音楽祭の朝、トラックに水をはねられて一人だけ体操服姿でステージに立つ。大学受験は本命の日に熱を出して不合格。就職活動はことごとく見送られ、やっと拾ってもらった健康器具を売る小企業でもまるで契約が取れず苦情処理係行き、…

そうしてだんだん、俺は誰にも期待されなくなっていく。

《…ラズ。どうか、お前の癒しの力を貸してくれ》

俺を必要としてくれたのはジョシュア。…柊羽だけだ。

お湯を注ぐ手が震えた。
役に立ちたいなんて、俺は大それた望みを抱いてしまったのかもしれない。俺がなんかやらかしたら、ジョシュアの評価まで下げてしまうかもしれない。

「さあさあ皆さん。お飲みくだされ」

トーニ爺さんが淹れたばかりのお茶を一人一人に手渡してくれる。甘く澄んだ香りが温室を満たし、茶器に口を付ける人たちの姿が湯気に溶ける。

無意識に奥歯を噛みしめて、祈るように見つめた。

「…美味しい」

最初に口にしたイモリ獣人が笑顔になった。

「ほっとしますわ」「落ち着きますな」
「身体に沁み渡る」「元気が出るね」

獣人たちが口々に話しながら微笑み合った。
その光景に、ちょっと、泣きそうになった。

俺がしたことで、笑顔になってくれる人がいる。

ジョシュア、ありがとう。俺を見つけてくれて。俺を諦めないでいてくれて。

今すぐジョシュアを抱きしめたい。

「美味しかった」「ごちそうさま」「さあ、もうひと頑張りだ」

お礼を言って温室を後にする獣人たちの後姿をぼうっと見送っている俺に、

「姫さま、参りましょうぞ。姫さまのお茶を待っている者はまだたくさんおりますぞ」

しっかりとポットを抱え直したトーニ爺さんがにこやかに声をかけてくれた。
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