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8章.獣人王宮でお茶を淹れる
03.
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「さすがにねえわ。それはない‼ 俺があのタラコを忘れられないわけねえだろ」
ついつい口調が荒々しくなってしまうが致し方ない。そんな恐ろしい誤解は早々に解かなければならない。
「まあっ‼」
俺の勢いにルウはつぶらな瞳をパチパチさせて、
「でも、でしたら、どうして抜け出されましたの? 何かご不満でもございました? 生家にご心配事でも?」
怪訝そうに首を傾げた。
「不満なんて何にもないよ。心配事も特にない」
厳密に言えば、あの頃は柊羽のことが心配だったけど、銀龍がジョシュアだと分かった今は本当に何もない。
「そうじゃなくて、…連れ出されたっていうか、ちょっと、無理やり、…」
妖術に操られたことは言った方がいいんだろうか。ネメシス女史の仕業ってはっきり証拠があるわけじゃない。なんて説明したらいいのか、考えながら口にしていると、
「んまあ、許せませんわ、あのタラコの人でなし。あらタラコは人じゃありませんわ。何もされませんでした⁉ わたくし、ちょっと一発ぶちかましてきますわっ‼」
ルウが一転して凶悪な殺人ワニみたいな表情で、すっくと立ちあがったので慌てて止めた。
…つーか、ワニ獣人から見ても奴はタラコなのね。
「待て待て、ルウ。大丈夫だから。無事戻って来れたし、何もされてない」
最終的にはパンツも履かせてもらったしな。
「…そうですの?」
ルウは止められたことに納得いかなそうだったが、ややあって表情を和らげ、
「…でも。ご不満があったのではなくて良かったですわ。ジョシュア様、本当においたわしいほどの憔悴ぶりでしたのよ」
安心したように微笑んだ。
ワニ娘たちをはじめ、獣人国民たちにジョシュアは本当に慕われている。この国にいるとそれをひしひしと感じる。だからこそ、人間の俺をよく思わない奴もいるんだろう。
でも。
『俺にはラズだけだ。今までも。これからも』
ジョシュアはそう宣言してくれた。
「心配かけてごめんな。ジョシュアにもちゃんと伝えとく」
俺もそうだって、言ったっけ。俺だってジョシュアだけだ。
さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。ジョシュアが好きだって、何よりも大事だって、ちゃんと伝えたい。
「きっと喜ばれますわ」
ルウがにっこり笑って頷いた。
ジョシュアが慕われているのは、ジョシュアもまた国民を大切に思っているからだ。タミル3人娘も、この国も、ジョシュアが大切にしているものは俺も大切にしたい。
凹んでいる場合じゃなかった。
俺に出来ることを探そう。どんなに微力でも、俺も何か役に立ちたい。
料理が作られていく温かい匂いと立ちこめる湯気、焼ける音、炒める音、弾ける音。調理場の活気に背中を押されながら、何を手伝おうかと、もう一度農場の方を見せてもらうことにした。
広大な農場に戻ってみると、その奥にさらに植物園のような場所が続いていることに気づいた。農産物とはまた違う、多種多様な草が植えられている。ドーム状の温室のような建物も見える。
…薬草園?
独特な香りに惹かれて足を踏み入れた。
ついつい口調が荒々しくなってしまうが致し方ない。そんな恐ろしい誤解は早々に解かなければならない。
「まあっ‼」
俺の勢いにルウはつぶらな瞳をパチパチさせて、
「でも、でしたら、どうして抜け出されましたの? 何かご不満でもございました? 生家にご心配事でも?」
怪訝そうに首を傾げた。
「不満なんて何にもないよ。心配事も特にない」
厳密に言えば、あの頃は柊羽のことが心配だったけど、銀龍がジョシュアだと分かった今は本当に何もない。
「そうじゃなくて、…連れ出されたっていうか、ちょっと、無理やり、…」
妖術に操られたことは言った方がいいんだろうか。ネメシス女史の仕業ってはっきり証拠があるわけじゃない。なんて説明したらいいのか、考えながら口にしていると、
「んまあ、許せませんわ、あのタラコの人でなし。あらタラコは人じゃありませんわ。何もされませんでした⁉ わたくし、ちょっと一発ぶちかましてきますわっ‼」
ルウが一転して凶悪な殺人ワニみたいな表情で、すっくと立ちあがったので慌てて止めた。
…つーか、ワニ獣人から見ても奴はタラコなのね。
「待て待て、ルウ。大丈夫だから。無事戻って来れたし、何もされてない」
最終的にはパンツも履かせてもらったしな。
「…そうですの?」
ルウは止められたことに納得いかなそうだったが、ややあって表情を和らげ、
「…でも。ご不満があったのではなくて良かったですわ。ジョシュア様、本当においたわしいほどの憔悴ぶりでしたのよ」
安心したように微笑んだ。
ワニ娘たちをはじめ、獣人国民たちにジョシュアは本当に慕われている。この国にいるとそれをひしひしと感じる。だからこそ、人間の俺をよく思わない奴もいるんだろう。
でも。
『俺にはラズだけだ。今までも。これからも』
ジョシュアはそう宣言してくれた。
「心配かけてごめんな。ジョシュアにもちゃんと伝えとく」
俺もそうだって、言ったっけ。俺だってジョシュアだけだ。
さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。ジョシュアが好きだって、何よりも大事だって、ちゃんと伝えたい。
「きっと喜ばれますわ」
ルウがにっこり笑って頷いた。
ジョシュアが慕われているのは、ジョシュアもまた国民を大切に思っているからだ。タミル3人娘も、この国も、ジョシュアが大切にしているものは俺も大切にしたい。
凹んでいる場合じゃなかった。
俺に出来ることを探そう。どんなに微力でも、俺も何か役に立ちたい。
料理が作られていく温かい匂いと立ちこめる湯気、焼ける音、炒める音、弾ける音。調理場の活気に背中を押されながら、何を手伝おうかと、もう一度農場の方を見せてもらうことにした。
広大な農場に戻ってみると、その奥にさらに植物園のような場所が続いていることに気づいた。農産物とはまた違う、多種多様な草が植えられている。ドーム状の温室のような建物も見える。
…薬草園?
独特な香りに惹かれて足を踏み入れた。
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