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6章.結婚相手の結婚式に招待される
05.
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「ジョシュア、…っ‼」
とっさに、腕を伸ばした。ジョシュアが落ちる。
俺の柊羽は、高いところが苦手で、肩車も高い高いも真顔で固まってた。遊園地で観覧車にトライした時も、あっという間に後悔して泣いていた。
どうしてだろう。ジョシュアが宙に舞い出た瞬間、柊羽の泣きべそ顔がジョシュアに重なって、手を伸ばさずにはいられなかった。
でも。ジョシュアは落ちなかった。
王城のバルコニーから空へ躍り出たジョシュアは、陽光が輝く中、シックな紺のタキシードをはためかせ、それから銀色の翼を広げた。
広大な翼。日に透けて光る鱗。堅い爪。鋭い牙。気高い角。美しい髭。
「ジョシュア様が、…っ」「龍神様の生まれ変わりの、…」
「伝説の銀の龍になられた、…っ‼」
観衆は目の前で繰り広げられた一大スペクタルショ―に騒然とし、慄き、その神々しい姿に圧倒されて一斉に膝を折った。神聖な霊獣に敬虔な祈りを捧げずにはいられない。
衝撃に声が出なかった。身動きできない。目が離せない。
ずっと探してた俺の銀龍は。俺の柊羽は、…
呆然としたまま見上げる俺に、銀龍の虹色の瞳が応える。そうだ。ジョシュアと同じ美しいアースアイ。俺が伸ばした指先に、空から一直線に舞い降りた銀龍の鋭い牙が触れた。
《ラズは俺のもんだ》
「ジョシュア、…」
俺が唯一愛した相手。自分よりもはるかに大切な相手。大切で、大切過ぎて。俺の生きる意味そのもの。俺の存在価値そのもの。
「…へえ。飛ぶのはもう怖くないのか?」
それはほんの一瞬だった。
信じられない現実を飲み込む隙もなく、感慨に浸る間もなく、銀龍が俺をかすめた瞬間、強い力に引き離された。俺を抱いたままエイトリアンが皮肉気に呟き、地面を蹴って空に高く舞い上がる。
…え。
黄金に輝く龍に姿を変えて。
『俺の弟と同じだな』『俺たちの変容は一つじゃない』
なんで。気がつかなかったんだろう。
ジョシュアが銀龍なら、エイトリアンは金龍だ。
壮麗な聖獣たちは、獣人王族に生まれた双子の、もう一つの姿だったんだ。
「あれは、…金龍⁉」「エイト様か⁉」
「滅びのドラゴンだ‼」「禍々しい呪いの龍だ‼」
唐突に現れた巨大な2頭の龍に、その場に集った大衆は混乱に包まれた。騒めきが膨れ上がり、悲鳴や怒号が聞こえる。
金龍は俺を背中に乗せて空高くまで飛び上がると、その強大な翼をはためかせて疾風を巻き起こした。
「エイト、…っ」
不穏な気配に呼びかける俺の声を無視して、エイトリアンは、強風に戸惑い、流され倒される人波に容赦ない炎の渦を吐き出した。
「エイトっ‼」
瞬く間に地上が炎の海になる。一面が赤く染まり、大勢の人々で埋め尽くされた王城の庭は散り散りに逃げ惑う大群でパニックに陥った。
《やめろ、エイト、…‼》
銀龍の諫める声がして、同時に天から雨が降った。聖なる雨。浄化の雨。恵みの雨。降り注ぐ雨粒が、地面で弾けて土と踊る。轟々と燃え盛る炎が静かに消し止められていく。
《…ホント、忌々しい奴》
俺が乗っている金龍の背の鱗が苛立ちに逆立った。
とっさに、腕を伸ばした。ジョシュアが落ちる。
俺の柊羽は、高いところが苦手で、肩車も高い高いも真顔で固まってた。遊園地で観覧車にトライした時も、あっという間に後悔して泣いていた。
どうしてだろう。ジョシュアが宙に舞い出た瞬間、柊羽の泣きべそ顔がジョシュアに重なって、手を伸ばさずにはいられなかった。
でも。ジョシュアは落ちなかった。
王城のバルコニーから空へ躍り出たジョシュアは、陽光が輝く中、シックな紺のタキシードをはためかせ、それから銀色の翼を広げた。
広大な翼。日に透けて光る鱗。堅い爪。鋭い牙。気高い角。美しい髭。
「ジョシュア様が、…っ」「龍神様の生まれ変わりの、…」
「伝説の銀の龍になられた、…っ‼」
観衆は目の前で繰り広げられた一大スペクタルショ―に騒然とし、慄き、その神々しい姿に圧倒されて一斉に膝を折った。神聖な霊獣に敬虔な祈りを捧げずにはいられない。
衝撃に声が出なかった。身動きできない。目が離せない。
ずっと探してた俺の銀龍は。俺の柊羽は、…
呆然としたまま見上げる俺に、銀龍の虹色の瞳が応える。そうだ。ジョシュアと同じ美しいアースアイ。俺が伸ばした指先に、空から一直線に舞い降りた銀龍の鋭い牙が触れた。
《ラズは俺のもんだ》
「ジョシュア、…」
俺が唯一愛した相手。自分よりもはるかに大切な相手。大切で、大切過ぎて。俺の生きる意味そのもの。俺の存在価値そのもの。
「…へえ。飛ぶのはもう怖くないのか?」
それはほんの一瞬だった。
信じられない現実を飲み込む隙もなく、感慨に浸る間もなく、銀龍が俺をかすめた瞬間、強い力に引き離された。俺を抱いたままエイトリアンが皮肉気に呟き、地面を蹴って空に高く舞い上がる。
…え。
黄金に輝く龍に姿を変えて。
『俺の弟と同じだな』『俺たちの変容は一つじゃない』
なんで。気がつかなかったんだろう。
ジョシュアが銀龍なら、エイトリアンは金龍だ。
壮麗な聖獣たちは、獣人王族に生まれた双子の、もう一つの姿だったんだ。
「あれは、…金龍⁉」「エイト様か⁉」
「滅びのドラゴンだ‼」「禍々しい呪いの龍だ‼」
唐突に現れた巨大な2頭の龍に、その場に集った大衆は混乱に包まれた。騒めきが膨れ上がり、悲鳴や怒号が聞こえる。
金龍は俺を背中に乗せて空高くまで飛び上がると、その強大な翼をはためかせて疾風を巻き起こした。
「エイト、…っ」
不穏な気配に呼びかける俺の声を無視して、エイトリアンは、強風に戸惑い、流され倒される人波に容赦ない炎の渦を吐き出した。
「エイトっ‼」
瞬く間に地上が炎の海になる。一面が赤く染まり、大勢の人々で埋め尽くされた王城の庭は散り散りに逃げ惑う大群でパニックに陥った。
《やめろ、エイト、…‼》
銀龍の諫める声がして、同時に天から雨が降った。聖なる雨。浄化の雨。恵みの雨。降り注ぐ雨粒が、地面で弾けて土と踊る。轟々と燃え盛る炎が静かに消し止められていく。
《…ホント、忌々しい奴》
俺が乗っている金龍の背の鱗が苛立ちに逆立った。
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