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1章.輝、異世界に転生する
05.
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「…出ろ」
甲冑を付けた兵士に掴まれて、馬車から引きずり出されたところは、鬱蒼とした森の中だった。背の高い木々が空を遮り、昼間だというのに陽の光が届かずに、うっすらとした霧が漂っている。
…寒い。
思わず身震いしてしまったのは、暗く苔むした地面と木肌が鬱々と広がっているだけのこんな辺境の地に、ふざけたスカート姿で投げ出されたのだから、致し方ないと言えよう。
「あの、…」
さっさと馬車に乗り込んで、帰り支度を始めている2人組の兵士たちに不穏な気配を感じて声をかける。
「まさかとは思いますけど、俺の事ここに置き去りにするつもりじゃあ、…」
兵士たちは俺の声を聞こえないものとして立ち止まりもせず、我先にと逃げ出すように鞭を打って馬車を走らせる。まるで、この森を恐れてでもいるかのように。一刻も早く抜け出さなければ何かに捕まってしまうとでもいうかのように。
「ちょ、…っ、せめてっ‼ せめて、俺が何したか、教えて…っ」
やけくそに叫ぶと、
「大声を出すな。銀龍に見つかったらどうする⁉」
「お前は妹姫のソフィア様よりまつ毛が長いという許されない罪を犯し、オルトバヌス公・マシュマクベスト皇太子様に婚約破棄されたうえ、姫に対する侮辱罪でここ、エイトの森に追放されたのだっ」
兵士たちは、そっちのがよっぽど大声じゃん、という怒声を上げて、
「審判を聞いていなかったのか、愚鈍な姫よ」
「我らを恨むなっ」
「恨むなら、己のまつ毛の長さを恨め」
「或いは、出来損ないのマシュマクベスト王子か」
「見た目だけで中身空っぽのソフィア皇女か」
「果ては、軍事担当ゲゲック閣下の傀儡同然のアレクサンダルン大王をお恨み申せっ」
捨て台詞よろしく、ここぞとばかりに愚痴と悪口を織り交ぜて、言いたい放題言い放つと、
「うわぁ――――――っ」
奇声を発して、一目散に森から走り去っていった。
…ひどい。
俺の唯一にして最大のチャームポイントである、まつ毛を馬鹿にするなんて。
つーか、俺。生まれ変わっても取り柄はまつ毛だけなんか―――い。
などと、悲しく一人突っ込みをしている場合ではなかった。
森全体を揺るがすような咆哮と、何かがなぎ倒されるような破壊音、大地を振動させる地響きが聞こえた。バサバサいう羽音と共に、森全体が何かを恐れ、息を詰めているかのような緊迫感に包まれる。無駄にドキドキする心臓をなだめようと手錠に繋がれたままの手を胸に押し当てて、柔らかい弾力に跳ね返されてつま先まで震撼した。
こ、…これは。
俺が31年間の人生の中で、記憶にある限り一度も触れることが叶わなかった女子の、むっ、…胸、…
鼻血を噴くんじゃないかと思った、その時。
―――空が割れた。
と、思ったのは、陽の光を遮っていた広大な樹木をなぎ倒して、銀色に輝く巨大な何かが空から降ってきたからだった。
甲冑を付けた兵士に掴まれて、馬車から引きずり出されたところは、鬱蒼とした森の中だった。背の高い木々が空を遮り、昼間だというのに陽の光が届かずに、うっすらとした霧が漂っている。
…寒い。
思わず身震いしてしまったのは、暗く苔むした地面と木肌が鬱々と広がっているだけのこんな辺境の地に、ふざけたスカート姿で投げ出されたのだから、致し方ないと言えよう。
「あの、…」
さっさと馬車に乗り込んで、帰り支度を始めている2人組の兵士たちに不穏な気配を感じて声をかける。
「まさかとは思いますけど、俺の事ここに置き去りにするつもりじゃあ、…」
兵士たちは俺の声を聞こえないものとして立ち止まりもせず、我先にと逃げ出すように鞭を打って馬車を走らせる。まるで、この森を恐れてでもいるかのように。一刻も早く抜け出さなければ何かに捕まってしまうとでもいうかのように。
「ちょ、…っ、せめてっ‼ せめて、俺が何したか、教えて…っ」
やけくそに叫ぶと、
「大声を出すな。銀龍に見つかったらどうする⁉」
「お前は妹姫のソフィア様よりまつ毛が長いという許されない罪を犯し、オルトバヌス公・マシュマクベスト皇太子様に婚約破棄されたうえ、姫に対する侮辱罪でここ、エイトの森に追放されたのだっ」
兵士たちは、そっちのがよっぽど大声じゃん、という怒声を上げて、
「審判を聞いていなかったのか、愚鈍な姫よ」
「我らを恨むなっ」
「恨むなら、己のまつ毛の長さを恨め」
「或いは、出来損ないのマシュマクベスト王子か」
「見た目だけで中身空っぽのソフィア皇女か」
「果ては、軍事担当ゲゲック閣下の傀儡同然のアレクサンダルン大王をお恨み申せっ」
捨て台詞よろしく、ここぞとばかりに愚痴と悪口を織り交ぜて、言いたい放題言い放つと、
「うわぁ――――――っ」
奇声を発して、一目散に森から走り去っていった。
…ひどい。
俺の唯一にして最大のチャームポイントである、まつ毛を馬鹿にするなんて。
つーか、俺。生まれ変わっても取り柄はまつ毛だけなんか―――い。
などと、悲しく一人突っ込みをしている場合ではなかった。
森全体を揺るがすような咆哮と、何かがなぎ倒されるような破壊音、大地を振動させる地響きが聞こえた。バサバサいう羽音と共に、森全体が何かを恐れ、息を詰めているかのような緊迫感に包まれる。無駄にドキドキする心臓をなだめようと手錠に繋がれたままの手を胸に押し当てて、柔らかい弾力に跳ね返されてつま先まで震撼した。
こ、…これは。
俺が31年間の人生の中で、記憶にある限り一度も触れることが叶わなかった女子の、むっ、…胸、…
鼻血を噴くんじゃないかと思った、その時。
―――空が割れた。
と、思ったのは、陽の光を遮っていた広大な樹木をなぎ倒して、銀色に輝く巨大な何かが空から降ってきたからだった。
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