今宵、月と悪魔に微笑みを

柳の下 どじょう

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「糞まじい」


コクがなく薄い。その割に妙に喉に残る後味の悪さだ
やっぱり爺の血は飲めたもんじゃないと、悪魔は顔をしかめた。
握り潰し血を絞った心臓を床に転がる魔術師の体にたたき付ける。
ぶつかった心臓が残った血をびちゃりと飛び散らせ灰色の石畳を赤く染めた。


(でもまぁ、魂は少し期待できっかもな)


魔術師の体の上を浮遊する灰色の球体。
ゆらゆらと陽炎をたゆたせるそれに悪魔は手を伸ばす。


悪魔にとって魂は嗜好品だ。
人間で言う甘味のようなものだ。


心が濁っていればいるほど魂は黒く濁る。
逆に生まれたての赤子のように濁りがなければ、魂は白く清んでいる。


清んでいる魂と濁った魂。どちらの方がより美味いのか。
濁っていればいるほどどろどろに甘く、清んでいればいるほど穏やかで柔らかな甘さ。
悪魔の間でもよく議論になるが、これは完全に好みの話で悪魔自身は濁った魂の方が好みである。


口を大きく開き男の魂を口に入れる。
三度舌の上で転がすともったりとした甘味が広がった。
痺れるようなどろどろとした甘さとは程遠い、小悪党の味だ。
それを数秒堪能し、そのまま噛まずにごくりと飲み干した。


一瞬、体に熱が点る感覚がして、それはすぐに消えた。
飲み込んだ魔術師の魂が悪魔に消化されたのだ。


悪魔は自分の腹を一撫ですると、先程まで魔術師であった塊にはもう目は向けず歩き出す。


「あ、そうだ」


言って左手を握る。
と、背後で甲高い音が一瞬鳴りすぐに静かになった。


「食ったら片付けはしとかないとな」


その言葉の通り、背後にあった肉の塊は一欠けら、血の一滴も残さず消えていた。まるで初めから何もなかったかのように。





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