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魔術師の男に向けていた冷たい顔とは打って変わり、犬歯を覗かせ無邪気に笑う。


(探してた………ってなんのこと?)


悪魔は少女を抱き起こすと、少女の手足の縄をぶちりと引きちぎる。固く結ばれていたはずなのに、まるで紙をちぎるようにいとも簡単に。
そのことにも驚きつつ、一体何のことだと問おうと口を開くが声は出なかった。


「声でねぇの?」


悪魔は不思議そうに首を傾げると少女の喉に触れた。
くすぐったさに身をよじろうとしたが、上手く動かず小さく体が跳ねただけだった。


「…………薬廻ってんな。この感じだとしばらくすりゃ抜けるから、もう少し我慢してろな」


返事は出来ないので何も言わずに顔を見ていると、それを同意と受け取ったのか悪魔は満足げに頷いた。
悪魔は少女を抱えたまま器用に着ていた上着を脱ぐと、側の床にそれを敷き少女を寝かせた。


「なんも無いよりはマシだろ」


確かに直接石畳に寝かされていたときより格段に転がり心地はよくなった。
よくはなったがーーーー。
何でこんなことをするのだろう。
理由がわからない。


そんな疑問を抱かれていることを知ってか知らずか。
悪魔は少女の頭をぽんと叩くと立ち上がり、


「俺がいいって言うまで目を閉じてろ。出来れば耳も塞いーーーーでは無理か。まあ仕方ねぇ。とりあえず目だけしっかり閉じてろ。出来んな?」


そう問われ、少女は返事の代わりにゆっくり目を閉じた。


「いい子だ」


優しい声が聞こえ、悪魔が側から離れる気配がした。
遠ざかる足音。
それを聞きながら、少女はふと気づく。


(誰かに優しくされたの…………久しぶり)


何故だか胸が温かくなった。







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