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Take the devil 19
しおりを挟むそれから4日後、装甲車で揺られながら魔属領へ着いた。
近づくにつれ緑も増え生物の生存圏としては充分とはいかないのかも知れないが、ゼンセン城からの荒れ果てた道のりと比べれば遙かにマシな風景が拡がった。
初めて見る魔属領は城砦都市となっていた。
回りを3,40mありそうな城壁で囲まれ遠くからでもその巨大さが分かった。
男たちの乗る装甲車が近づくと巨大な門がゆっくりと閉じた。
「そりゃそうだ。見たことも無い怪しげな物体がやってくれば警戒されるよな!」
「俺が行く!」
ペンザが装甲車のハッチを開け出っ張った腹をつっかえさせながら車外へ出る。
「四天王が一人、ペンザ! 城門を開けよ!! ライザ様をお連れした!」
男も運転席から降り、ハッチの上で控えた。
静かに門が開くと杖をついた巨大なペンギンが出てきた。
「親父!・・・・・・」
(ペンゴか!懐かしいな)
ペンザがペンゴの前に跪き
「親父! 申し訳ない! 魔王様を・・・・・・魔王様をお守りできなかった」
ボッコーーーン!
ゴロゴロ
ドン!
ペンゴのケリがペンザを直撃したかと思うとゴロゴロと転がりながら装甲車にぶつかった。
「未熟者!! やはりお前などに四天王の座を譲るべきではなかった!」
「おいおい!ペンゴ! 俺の装甲車が壊れたらどうするんだよ!
もう1台しか残っていないんだぞ!」
ペンゴは顔を上げ男を見ると
「なに! 貴様! シロか! シロ・ブルーノか!! 貴様が魔王様を討ったのか!」
ペンゴは杖で装甲車の上に乗る男へ向け指した。
「よっこらっしょ!っと」
男はゆっくり装甲車から降りた。
「俺じゃない。勇者たちだ。今回の件は俺のあずかり知らないことだ。
今回はお前たちの側の人間だ。ヘルザイムが雇い主だ!」
男は面倒臭そうに頭を掻きながら続けた。
「なぁ~ペンゴ! 息子を信じてやれよ! こいつ、そうとう頑張ったと思うぞ!
四天王のうち二人が裏切ったんだぜ! どういう状況でどう戦ったのかは知らないけどな。
四天王の二人が裏切って勇者と手を組んでいたんだぜ!
それにサイサリーを逃がすために大立ち回りをしたみたいだぜ!
お前に似て騎士道精神に溢れた良い息子じゃねーか!」
「ペンゴ様! 申し訳ございません」
サイサリーも装甲車から飛び出しペンゴの前で膝を付き頭を下げた。
「この譲ちゃんも一人で捕虜になったペンザを助け出そうとしたんだぜ!
俺ならとっとと見捨てて一人で逃げるけどな~
サイサリーと二人でそうとう頑張ったと思うぜ!
詳しいことはお前の息子にでも聞け」
「そうなのか、ペンザ!」
ペンザは黙って頷くだけだった。
「それで貴様はなぜここまで来たのだ! 返答次第では血の雨を見るぞ!」
「おいおい止めておけよ! 年寄りの冷や水か!? 残り少ない人生だろ。
孫の顔でも見て余生を過せよ!
俺はヘルザイムに頼まれライザを魔属領まで届ける契約になっていただけだ。
ライザ、出て来い!」
装甲車からライザがゆっくりと降りてくる。
「ペンゴ・・・・・・ただいま。パパはもういないの・・・・・・」
ライザはペンゴの腕の中に飛び込んだ。
「ライザ様・・・・」
「でもね。シロがパパの仇を討ってくれたのよ!
勇者たち全員、裏切り者のデュランダルもガーベラも倒してくれたの!
シロのおかげですっきりしたけど・・・・けど、寂しい」
「ライザ様・・・・・・」
ペンゴは縋りつくライザの頭を優しく撫でると顔を上げ男を見た。
「シロ・ブルーノ! 魔王様の敵討ち、感謝する」
「いや、俺が勝手にやったことだ」
と言うと右手あげた。
「じゃ~俺はこれで行くよ じゃ~な!」
と男は振り返り装甲車を袖の中に仕舞うと背を向けゆっくり歩き出した。
「シロ! 待って!!」
ライザが男の下へ走りローブを引っ張る。
男は向きなおし腰を少し折りライザと視線を合わせた。
「ありがとう。ありがとう」
「ヘルザイムの遺言を忘れるなよ。自分の幸せを探せ!
そして”いい女”になれ!」
ライザは「ウン」と頷いた。
「そうだ! これをやろう」
男は袖の下から袋を取り出し渡した。
ライザは袋を開け中から取り出し見てみると黒いガーターベルトと黒いストッキンだった。
「何これ! エッチな下着!!」
「クマさんパンツはダメだぞ! ワンちゃんパンツでないとな!」
「バカーーー!!」
「それが似合う”いい女”になれよ! そしていい男でも見つけて幸せになれよ」
「うん。分かった」
とライザは頷きながら答えた。
ペンザは無言で近くまでゆっくりと歩いてくると
「シロ! これを返す」
ペンザがアダマンタイトで出来た棍棒を2本差し出した。
「あぁ、いいよ! お前にやる! 餞別だ。
それでライザを守ってやれ!」
「いいのか!?」
「あぁ。じゃ俺は行くからな! 元気でやれよ!」
後からシローーー!! ありがとう!! と言う声が聞こえた。
男は背中を向けながら左手を軽く上げながら巨大な城門を後にした。
歩きながら左の袖の下から二つ折りの携帯電話を取り出し開きボタンを押した。
トゥルーートゥルーートゥルーー
「オババ? 依頼、終わったぞ。無事、ヘルザイムの娘を魔属領に届けた」
「お疲れなのじゃ。
丁度、女神・グリースからお主への依頼の電話がきたところじゃ」
「え! グリースかよ!! 断れ! 断れ!! アイツは人をただ働きばかりさせる!
俺は忙しいと言う事にしておいてくれ」
「シロ!! 女神である私に嘘が通じるとでも思っているのか!!」
「ゲゲッ! グリース!! お前、俺は今オババと電話しているんだぞ! 割り込んでくるんじゃねーよ!」
「ゲゲッ!とは何よ!! ゲゲッ!とは! 私は女神よ! 女神! 少しは敬いなさい!!」
「人の電話に割り込んでくるような女を女神とは思いたくないね!
最近、オババのいる女神の間に戻ってないから、これから帰るんだよ!
オババのためにお土産をいっぱい用意しているんだよ! 早く、オババに届けないといけないんでお前と遊んでいる暇は無いの!!」
「ええーーい! いつも生意気なヤツだ! 『summoning!!』」
「あーーーこの野郎! 実力行使しやがった!!」
男の足元に召喚紋が現れると光の粒子になって消えていった。
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